第22章 無力(むりょく)
第22章 無力
「俺は何をすればいい……!」
分かっていた。自分には何もできない。
だが気づいた時には、喉の奥からその言葉が絞り出されるように零れていた。
「……あなたに、できる事はありません。戻りなさい……元の世界へ」
離れたくはなかった。
それでも俺は視線を落とし、彼女に背を向けた。
「……そうか」
俺は自分のあまりの無力さを痛感していた。
参道の石段へ向かって、鉛のように重い足を進めていく。
彼女と神との対話が終わったあと、この世界は元通りになり、またここで彼女に会えるのだろうか。
それとも、世界の終わる瞬間を、再びこの場所で彼女と並んで眺めながら消えていくのだろうか。
あるいは……もう二度と、彼女に会えないのかもしれない。
その最悪の予感が、胸の深くに落とし込まれた瞬間。
俺の中で何かが、決定的に崩れ去った。
気づけば俺は、全身の生気を振り絞って叫んでいた。
「セオリツ……!」
背を向けた時に圧し掛かっていた絶望的な重みが、彼女の名を叫んだ瞬間にどこかへ消し飛んでいた。
振り返り、彼女を見つめる。
それは散り惑うデータの残像か、それともこの土地の記憶が呼び起こした幻像なのか。
白い千早が夜風に大きく翻り、そこに立つ彼女はもはや一人の少女ではなく、世界そのものを背負う『巫女』へと昇華されていた。
もつれる足取りで彼女のもとへ走り、壇上に立つ彼女を見上げる。
「一緒にいさせてくれ!」
何もできないことは分かっている。
それでも……。
「きみを見ていたいんだ。……最後まで、一緒に!」
先ほどまで静寂に閉ざされていた彼女の口元に、ふっと小さな笑みが浮かんだ。
「……やっと、やる気を出してくれましたか」
「あぁ……もう、ウズメを……」
そう言いかけて、俺は言葉を選び直した。
「……誰も、呪いたくないんだ」
それは、ずっと俺の胸の奥底に隠されていた本心だった。
愛することと、縛りつけることを、もう混同したくはなかった。
彼女をひとつの自由な『意志』として認め、その往く末をこの瞳に焼き付けること。
それこそが、無力な俺にできる唯一の『誠実』なのだから。




