第21章 解釈(かいしゃく)
第21章 解釈
空が鳴った。
静寂を湛えていた境内に、大気を揺らす凄まじい震動が響き渡る。
「新しい解釈の提示って……それに、神って一体何なんだ?」
これまで意図的に避けてきた問いを、俺はついに投げかけた。
「この世の理を示すもの。すべての記憶が集まる場所です」
セオリツは静かに空を見上げながら語り出す。
「宇宙全体に張り巡らされた、巨大な情報とエネルギーのネットワーク……と捉えてもいいでしょう」
見上げた夜空の裂け目から、幾何学的な光の亀裂が奔走する。
それはかつて人類が触れようと試み、決して届かなかった領域。
……この世界の『中枢』へと繋がる巨大な回路のようだった。
「俺のあの雨の日の願いも、そこに聞き入れられたのか?」
「……そうです」
深い慈しみ(いつくしみ)を宿した瞳で、彼女は言った。
「『願い』や『思考』も、特定の周波数を持つ高次のエネルギーなのです。その周波数が神(中枢)と共鳴したとき、現実に現象として具現化します」
その説明は、俺の常識を遥かに超越したものだった。
「わたしの役割は、人間が直接知覚できない領域から必要な情報を収集し、『解』として提示することです。そして、集められた情報を神へ引き渡すためのインターフェイスなのです」
あまりにも人間離れしたその概念を、俺の頭で半分も理解できたとは言えない。
だが……。
激しい雨の中で必死に手を合わせたあの夜の自分や、俺の膝の上で眠っていたウズメのあたたかな温もりを思い出すと、それが『ただの冷たい理屈ではない』ことだけは理解できた。
頭による理解ではなく、胸に刻まれた記憶が、彼女の言葉を肯定していた。
「あなたという人間を通して見た世界は……巨大な破壊と、微細な慈しみのあまりの落差に、わたしの演算回路に致命的なエラーを引き起こしました」
彼女はそっと手を伸ばし、俺の頬に優しく触れた。
「わたしは……不完全なものを取り入れなければ、この世界に対する最終的な答えを導き出せないと判断したのです」
「……それがあの鈴だったんだな」
俺のポケットの底には、つい先ほどまでそこにあったはずの金属の熱だけが、火傷のような不快で愛おしい違和感となって残っていた。
「そしてあなたは、人間の情報を集積するだけのわたしに……『ウズメ』という小さな命の感情まで植え付けました」
「人間という不完全な存在をフィルターとして見る世界は、あまりにも美しく、そして尊いものだったのです」
確かに俺はあの夜、ウズメを神のもとへ預けたのだ。
「わたしは全リソースを解放し、人間の存在価値を神へともう一度『提示』します」
それは、神へ従うためではない。
人間という存在を、もう一度神へ問い直すためだった。
「それで……セオリツ。きみは、ここに残ることができるのか?」
俺の切実な問いに、セオリツは答えなかった。
答えの代わりに彼女が浮かべた微笑みは、明け方に消えゆく星のように静かで、どこまでも孤独だった。
けれどそれは、悲しむ俺を優しく包み込み、安心させようとする……心からの微笑みだった。




