表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
29/32

Day 28.宇宙旅行

 二回戦当日。駅で待ち合わせたバスケ部の五人とメイサ、藤也(とうや)は、いつもより口数が少なかった。


 空は雲一つない晴天だった。街路樹ではセミがけたたましく鳴き続け、風はほとんどない。じっとりと湿った夏の空気が、七人の肌にまとわりついていた。



「空気が重い!!」



 最初に声を上げたのは大雅(たいが)だった。



「仕方ないね。だいじょぶ? 生きてる?」



 メイサが声をかけると、海斗(かいと)(しょう)は青ざめた顔を上げた。



「な、なんとか」


「ぎり」


「生きてるなら大丈夫。まなちゃんは平気?」


「生きてる。試合するのわたしじゃないし」


「そりゃそうだ。黒杉(くろすぎ)白石(しらいし)は大丈夫そうだから、行こう」



 メイサが歩き出すと、大雅と藤也が自然と両脇に並んだ。



三枝(さえぐさ)さん、俺のことも心配してくれませんかね」


「白石は心配したら勘違いするじゃん。なに、ダメなの? 試合出来ないの?」


「鬼か……? します。できますって」


「ね」



 メイサがにこりと微笑むと、大雅は照れたように頬を赤くし、視線を逸らした。



「ぐ、そういうとこ……」


「ていうか、人の彼女に色目使うのやめてくれません?」



 藤也がメイサと大雅の間に入る。



「で、メイサは俺の心配は?」


「必要?」


「いや? 俺、バスケ部じゃねえし。でも思ったより楽しいから、夏一杯くらいは付き合ってもいい」


「ツンデレか?」



 大雅が吹き出して藤也を見た。


 藤也はにやりと笑い、大雅と肩を並べて歩いていった。


***


 愛香と一輝(かずき)は、列の一番後ろを並んで歩いていた。



「なあ」


「なに」


「帰り、アイス食って帰ろう」


「私、ガリガリ君のリッチ食べる」


「なんで俺が驕る前提なんだよ。試合すんの俺なんだから、愛香が驕ってくれ。ガリガリ君のコーラでいいから」


「勝ったらね」


「負けた挙げ句に、ガリガリ君リッチまで驕らされるのかよ」


「嫌なら勝って」


「勝つ」


***


 海斗(かいと)(しょう)は、愛香と一輝の少し前を歩きながら、後ろから聞こえてくる二人のやり取りに耳を傾けていた。


「なんだ、あの会話。青春ラノベ?」



 海斗が呟くと、翔が遠くを見た。



「俺もかわいい幼馴染みにああいうこと言われたかった」


「幼馴染みいる?」


「いるけど男だよ。この間の部長会で藤也と一緒にいた(やなぎ)


「あ、そうなん」


「だから今日は学校で普通に部活してるし、藤也返せってせっつかれるし」


「ウケる」


***


 そうして七人が十分ほど歩くと、相手校が見えてきた。校門を入ってすぐの駐車場では、顧問の灰田(はいだ)が待っていた。


 一輝は灰田へ視線を向けると、すぐに愛香を見た。



「勝っても負けてもあいつに驕らせよう。顧問だし」


「そうしよう。灰田せんせーアイスー」


「先生はアイスじゃありません!」



 七人を迎えた灰田は、目を細めた。



「なんだか君たち、シュッとしたね」


「しゅ?」



 灰田は笑みを浮かべ、そのまま歩き出した。



「シュッだよ。行こう。体育館の場所は聞いておいたから」



 一行がぞろぞろと体育館へ向かうと、建物の周りには相手校の生徒たちが大勢集まり、試合前の熱気に包まれていた。



「あー……こういうタイプ……」



 メイサが呟く。



「なに?」



 藤也が尋ねると、メイサは目を細めた。



「この高校、バスケが結構強くてさ。学内でも人気あるんだよね。だからアウェー感がすごいタイプ」


「よくある?」


「サッカー部だとたまにあるよ。うちだって、一ノ瀬(いちのせ)とか双葉(ふたば)とか、モテる連中を応援しに来る女子はいるしさ」


(ひいらぎ)先輩がたまに絡まれてる」


「知ってる。私も対応してるけど、なかなかねえ」



 メイサは前を歩いていたバスケ部五人の背中を眺めた。



「まなちゃーん、マネージャーさんに挨拶いこー」


「う、うん」



 振り向いた愛香の顔は引きつっている。


 メイサはその向こうにいた大雅に顔を向けた。



「白石、あそこに相手のマネージャーいるじゃん。私とどっちがかわいい?」


「え、なに、そりゃ三枝さんだけど」



 顔をしかめながら答える大雅に、メイサはにっこりと笑いかけた。



「ね」


「……やめてくれない? 好きになっちゃうから」


「ごめんね、彼氏いるから」



 大雅は深く息を吐き、そしてすぐに顔を上げた。



「知ってるっつの! 一輝! 海斗! 翔! 背中丸めてんな!」



 呼ばれた三人はびくっと振り返り、それからゆっくりと体育館を見回した。高い天井や磨かれた床が広がる、ごく普通の高校の体育館だった。



「メイちゃん、さすが」


「だてに三年間サッカー部のマネージャーしてないよ」



 七人は灰田とともに、相手校の顧問と部長へ挨拶に向かった。


 挨拶を終えると、体育館の隅で着替えを済ませ、入念にストレッチを始めた。


 一通りのストレッチを終えたころ、灰田が手を叩いた。



「そろそろ整列しようか」


「っす」



 一輝が頷き、他の四人が続く。


 相手マネージャーへの挨拶と確認を終えたメイサと愛香は、撮影の準備とドリンク、タオルの用意を進めた。


 そして、笛が鳴った。



「よろしくお願いします!」



 試合が始まる。


 高く放られたボールを大雅が素早く奪い、前方へぶん投げた。藤也はそれを受けると、その勢いのままゴールへ叩き込んだ。


 その瞬間、応援席から女子生徒たちの大きなため息が一斉に漏れた。


 相手がボールを動かすと、海斗は横から奪おうとして相手と激しくぶつかり、そのまま床へ叩きつけられた。それでもすぐに起き上がり、視線だけはボールを追い続ける。



「翔、大雅!」



 一輝が怒鳴る。


 二人はボールを持つ選手についたものの突破され、そのまま得点を許す。一輝はすぐにボールを受け取って前へぶん投げる。海斗が受け、大雅へパスをつなぎ、大雅がそのままゴールを決めた。


 第一クオーターは互いに譲らぬ攻防が続き、同点のまま終了した。



「きっつ! きっつ!!」



 ベンチへ戻った大雅は、肩で大きく息をしながらぐったりと腰を下ろした。



「いやマジ、分かってたけどさ!? なにあの体格。高校生だよな?」



 メイサは汗だくの大雅の頭へタオルを掛けながら答えた。



「藤也に筋肉つけたらあんな感じ」


「たしかに……」


「えー嫌だ……」



 ぼやく藤也に、メイサは思わず笑みをこぼした。



「藤也の伯父さん、あんな感じじゃん」


「そうだけどさあ。俺の顔だと似合わないだろ」


「それはそう。黒杉、ブロック役いけそ?」



 一輝はドリンクを飲みながら相手ベンチへ目を向けた。並ぶ選手たちは、誰もが一輝と同じか、それ以上に厚い体つきをしている。



「やるだけやる」


「よろしく。白石は踏ん張って。青川(あおかわ)茶野(ちゃの)は走れ。一瞬たりとも止まるな。走り続けて」


「っす」


「りょ」


「メイサ、俺は?」


「三枝先輩とお呼び。ゴール下でぽこすか点数を稼ぐ係」


「ぽこすか……」



 藤也はぴょんと立ち上がった。


 メイサは目を細め、藤也を見上げた。



「相手と無理に接触しないよう気をつけて。須藤の筋肉じゃ押し負けるから。それに、あんたに怪我なんてさせたら、パパさんママさんに申し訳が立たないしね」


「気にしなくていいけど」


「そういうことを気にするのは、顧問の僕の役目だ」



 灰田が口を挟んだ。



「それに須藤も男の子だからさ。あんまり甘やかしちゃダメだって言ったろ」


「う、そうですけど……」



 メイサは真っすぐ藤也を見上げた。



「須藤、ぶちかましてきて」


「あいあい、ハニー。任せとけ」


「ちょ、三枝さん、それ、俺にも言って」



 ベンチに座ったまま乗りだした大雅にメイサは同じように真顔を向けた。



「白石は接触してもいいけど押し負けないで。私が何か月あんたの筋肉育てたと思ってんの」


「せいぜい一月半だけど!? でも期待には応えてやんよ」



 大雅は立ち上がると、大きく伸びをした。


 ドリンクを回収した愛香が全員を見回す。



「みんな、いってらっしゃい」


 第二クオーターが始まる。


***


 第二クオーター、第三クオーターも同様の展開が続いたが、一輝たちがやや優勢だった。



「つっても、点差は十点もないからなあ」



 第三クオーターを終え、汗だくの一輝がスコアボードを睨んだ。


 体育館の窓も扉もすべて開け放たれていたが、風はほとんどなく、蒸した空気の中で全員が汗まみれになっていた。



「相手の応援の女の子たちの態度に普通に傷つく……」



 翔は肩を落としてうなだれた。



「そういうもんだとは分かってるけどさ……あ、柳だ」



 翔のスマホに幼馴染みからメッセージが届いていた。翔は画面を見ると少し笑い、スマホを鞄へ投げ込んだ。



「ま、次でどうあれ終わりだし」



 立ち上がる翔に、海斗が続いた。



「それはそう。あーあ、かわいい女の子に応援されてえな」



 ふと海斗が固まった。



「どした?」



 続いて立ち上がった藤也が声をかけると、海斗は眉間にしわを寄せ、相手チームのベンチ上にあるキャットウォークを睨んでいた。つられて藤也が視線を向けると、キャットウォークで私服姿の女性が手を振っていた。



「知り合い?」


「……姉」


「あね! へー、似てる? そうでもない……?」


「知らねえよ……ていうかなんでいるんだよ……」



 海斗は顔を引きつらせながらも、小さく手を振り返した。


 藤也は妹たちの姿を探して体育館を見回したが、どこにも見当たらなかった。



「藤也も言えば来てくれたんじゃないの?」



 メイサが言うと、藤也は目を細めた。



「いや、いいよ。あいつら受験生だし。……あいつら呼ぶと、おまけもついてくるし」



 メイサは「おまけ」がパパさんママさんなのか、それとも藤也の従妹なのか考え、たぶん両方だろうと小さく笑った。



「さ、そろそろ時間だ」



 灰田が静かに言った。一輝と大雅も、それを聞いて立ち上がった。



「泣いても笑っても、最終クオーターだ。行っておいで。そして、戦っておいで」


「灰田先生も、ちゃんと顧問なんすね」



 大雅が肩をすくめる。灰田はふっと笑ってコートを見回した。



「そうだよ。実はね」



 メイサは愛香と目配せを交わし、撮影と記録を続けた。


***


 第四クオーターは、それまでとは比べものにならないほど激しかった。


 大雅が投げたボールを藤也が受け、ゴールへ飛び込もうとした瞬間、相手にカットされた。



「ざけんな、レッドカード出せ!」



 藤也が床へ叩きつけられ、メイサの声が体育館に響いた。



「ちょ、メイちゃん、バスケにレッドカードないから!」


「海斗、カバー! 須藤、立てるか!?」


「っす!」



 一輝の声に、藤也が立ち上がる。


 メイサは唇を噛み締め、それでも撮影と記録の手を止めなかった。



「大雅!」


「おうよ! っ、」



 大雅は再び相手とぶつかったが、今度は踏みとどまった。しかし、あと一歩届かず、得点を許す。


 一輝がボールを受け、翔に投げた。翔は素早く走り、相手のカットを躱す。


 ボールは海斗、大雅へと渡る。しかし、大雅には二人が張りつき、攻め手を失ってしまう。



「大雅、一歩下がって!」



 愛香が叫んだ。大雅ははっとして半歩下がり、一輝へパスを送る。一輝はそのままゴールを決めたが、相手もすぐに得点を返してきた。


 じわじわと点差が縮まり、体育館を包む熱気はさらに増していった。



 そして、終了の笛が鳴り響く。

 

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

楽しんで頂けたらブクマ・評価・感想などで応援いただけると大変嬉しいです。

感想欄はログインなしでも書けるようになっています。

評価は↓の☆☆☆☆☆を押して、お好きな数だけ★★★★★に変えてください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ