表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
26/32

Day 25.揺らぐ

 月曜日の朝、一輝(かずき)愛香(まなか)がいつもより遅い時間に登校すると、朝の光が差し込む廊下では、大雅(たいが)とメイサが話をしていた。



「メメイちゃんおはよー。大雅としゃべってるの、珍しいね」


「おはよう、まなちゃん。黒杉(くろすぎ)も。白石(しらいし)に捕まっただけだよ」


三枝(さえぐさ)さん、俺に当たり強くない?」



 大雅が苦笑すると、メイサは肩をすくめた。



「優しくしたら、勘違いするじゃん」


「ぐ、そうだけどさ」



 きっぱりと言い切られ、大雅は不貞腐れたような顔をした。


 愛香は大雅を見上げる。



「何の話してたの?」


「三枝さんの志望校聞いてた。俺には全然無理だわ」


「大雅、メイちゃんの成績知らないの?」


「……知ってる。ワンチャン狙ったけど無理そう」



 呆れたような顔をする愛香に、大雅は力なく肩を落とした。


 メイサが目を細める。



「そういうところ! ワンチャンじゃなく勝てるように私が鍛えまくってんのに、まだワンチャンとか言ってんのなんなの。根性がないよ、根性が」


「俺、三枝さんのそういうところが好きなんですけども」


「残念でした、ダーリンいますー」


「知ってますー! へいへい、ちゃんと勉強しますよ」



 大雅は不貞腐れたような顔のまま、軽く手を振って教室へ向かっていった。



「じゃあ、私も教室行くね」


「おう」



 一輝は見上げる愛香の頭を軽く撫でて、自分も教室に向かった。


***


「まなちゃん、ついに付き合い始めた?」



 一輝が大雅の後を追って四組に向かうと、メイサは愛香に視線を向けた。



「ううん。でも、うーん。なんか、今みたいなことが増えた」


「黒杉もついに自覚したのかな」


「さあ?」



 愛香はそう言うと、さっさと教室へ向かって歩き出した。


 メイサものんびりとその後をついていった。


***


 放課後、一輝は大雅と共に図書室に向かっていた。愛香から、



『メイちゃんたちと勉強してるから、二人もおいで』



 と連絡が来たのだ。


 一輝は授業以外で図書室を利用することはないが、メイサはよく通っており、愛香も時々利用しているらしい。


 意外に思いながら図書室を覗くと、試験前の賑やか空気の中、愛香とメイサが並んで机に向かい、その向かいの席では藤也(とうや)が二人に勉強を教えていた。



「おつかれ。なんで二年に教わってるんだよ」


「そういうことは須藤(すどう)くんに教わってから言いなよ」


「そうだそうだ。私よりバカのくせに」



 愛香とメイサに同時に言い返され、一輝は言葉に詰まった。


 大雅が苦笑しながら藤也の隣に腰を下ろしたので、一輝も愛香の隣の椅子を引いた。


 藤也は顔を上げることもなく、メイサの教科書をめくった。



「で、さっきまで説明してたのがこの式」


「……あ、なるほど? じゃあ、答えは、」


「そういうこと」


「えっと、こっちは?」


「それは応用。文章をちゃんと読め。数学じゃなくて国語の話だから」



 メイサは教科書へ目を落とした。窓から差し込む午後の光を受け、長いまつげが頬に淡い影を落とす。


 一輝は大雅が藤也の隣に座った理由に気がついた。



「……愛香、ここなんだけど」


「私にもわかんない」


「ダメじゃん」


「須藤くんわかる?」



 愛香が顔を上げると、藤也が一輝の教科書を見た。



「それ、二ページ前に解説ありますよ」


「なんで分かるんだよ」


「黒杉先輩は、なんで二年生にもわかることがわかんないんですか?」


「ぐ、悪かった」


「いえ、どっちかと言うと先輩の感想のほうが正しいので、大丈夫です」



 藤也は呆れたような顔でメイサを見ていた。その視線にあるのは呆れだけではないことくらい、一輝にも分かった。


 一輝は小さく息を吐いて、勉強を続けた。


 しばらくして、メイサが両腕をぐっと伸ばした。



「あー疲れた」


「お疲れ。進んだ?」


「だいぶ。藤也は? ごめんね大人数で世話になって」



 メイサは愛香と一輝、大雅へ顔を向けた。結局、バスケ部の三人も分からないところを次々と藤也に教わっていた。



「本当だよ。なんだよ、三年生が四人もいて。次から助っ人呼ぶか」


「誰?」


草野(くさの)先輩か、(ひいらぎ)先輩か」


「柊ちゃん呼ぶと一ノ瀬(いちのせ)もきてうるさいからなあ。草野はいいかも」


「やだよ、あいつ気障だから」



 一輝が口を挟むと、大雅は思わず吹き出した。



「愛香にちょっかいかけられるもんな」


「草野くん、そんなことしないよ」


「草野部長となんかあったんですか?」



 藤也が首を傾げると一輝は顔をしかめた。



「何にもない。断じて何にもない」



 それを聞いて大雅はますます笑った。


 一輝はムスッとしたまま勉強を再開した。


***


 数日後の放課後、一輝が図書室へ顔を出すと、試験勉強で騒がしい室内で、愛香と草野が並んで机に向かっていた。



「何してんの」



 思わず、一輝の声は低くなった。


 草野はへらりと笑い、一輝を見上げた。



「うける。余裕なさ過ぎ。教室出たときに一緒になったから、そのまま来ただけ。俺は須藤に用事があるんだよ」


「須藤は?」



 低い声のまま一輝が尋ねると、愛香は呆れたような顔で図書室のカウンターへ視線を向けた。



「司書の先生に呼ばれて書庫で作業中してるよ」


「忙しいな、あいつは」


「だから、俺が代わりに教えてんだよ。須藤ほどじゃねえけど、少なくとも四組さんよりは成績マシですし?」


「ムカつく」


「ムカつくなら」



 草野はにこりと笑い、一輝を見上げた。


 一輝は何も言えず、草野を見下ろした。



「やるべきことがあるんじゃねえの? 俺に絡んでないでさ」



 草野は視線を手元の教科書へ戻した。



赤江(あかえ)、さっきの説明でわかった?」


「う、うん。大丈夫、ありがとう」


「どういたしまして」



 愛香が頷いたのを確認して、草野は教科書を閉じ、立ち上がった。



「わかんなければ聞いて。休み時間でもいいし、クラスLINE辿ってくれてもいいし」



 一輝は草野が教科書とペンケースをカバンへしまう様子を眺めた。


 草野の指先はあかぎれや細かな切り傷が目立ち、節くれ立った手は一輝の手よりもさらに硬そうだった。



「黒杉、お前もだよ」


「え?」


「わからなかったら、お前だって俺に聞いていい。別に友達じゃないし、仲良くもないけど、少なくとも顔見知りなんだから」



 一輝は草野の顔をまじまじと見つめた。


 草野はどうでもよさそうな顔で一輝を見ていた。



「……ムカつく」


「はは、そらどうも」



 草野は笑ってカウンターへと向かっていった。


 一輝は黙ったまま愛香の向かいの席に腰を下ろした。


 愛香が困ったような表情で自分を見ていることは分かっていた。それでも、一輝は何も言えなかった。


 しばらくして、一輝の隣に藤也が腰を下ろした。



「何しょぼくれてるんですか」


「ちょっと、器の狭さに凹んでた」


「へー、それ、あとどれくらいかかりそうですか?」


「須藤、人の心ないわけ?」


「あるから聞いてるんです。あ、赤江先輩。その問題は前のページの公式の応用です」



 愛香の名前が出て、一輝は顔を上げた。


 愛香はうつむき、黙々と勉強を続けていた。



「……あと三十秒で立ち直る」


「了解です。俺はもう帰りますから、頑張ってください」


「ありがと」



 藤也はにこりと笑い、騒がしい図書室を後にした。


 愛香は変わらず手を動かし、ノートへ丁寧に文字を書き続けていた。


 一輝も教科書とノートを取り出し、小さく息を整えて机へ向き直った。


ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

楽しんで頂けたらブクマ・評価・感想などで応援いただけると大変嬉しいです。

感想欄はログインなしでも書けるようになっています。

評価は↓の☆☆☆☆☆を押して、お好きな数だけ★★★★★に変えてください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ