Day 11.直線
月曜日の朝。体育館の隅で、メイサは愛香から試合の様子を聞いていた。
愛香に動画を撮ってきてもらっていたため、二人は並んでスマホを覗き込んだ。
男子たちもストレッチをしながら感想を言い合っていた。
「さすがに大学生は体が大きいな」
「そうなんだよね。大学でもバスケしてるくらいだから。んーでも、動きがそこまでいいかっていうと……」
「だね。ま、私もそういう相手を選んだんだけどさ」
メイサはそう言って、ストレッチを終え、筋トレへ移る男子たちへ目を向けた。
一輝と海斗は淡々と試合の様子を藤也に説明し、大雅と翔は「やべー」「でっかかった……」「あの人たちと試合すんの?」と顔を見合わせながらぼやいていた。
メイサはその様子を見て、愛香に視線を戻した。
「……午後はストレッチと筋トレが終わったら、視聴覚室でみんなで試合を見ようか。それで、試合を見てどう感じたか、それぞれ私と藤也に教えてほしいな。あ、まなちゃんは口出ししないでね」
「いいけど……」
首をかしげる愛香の耳に、メイサはにやっと笑って顔を寄せた。
***
放課後、バスケ部は視聴覚室へやってきた。愛香のスマホをプロジェクターにつなぎ、大学生同士の試合をスクリーンへ映し出す。
メイサは愛香と並んで後方の席に座り、画面ではなく男子たちの表情や反応を見守っていた。
「ここのポイントガードの動き良かったな。全員攻めないで、ちゃんと周り見てて。まさに司令塔って感じ」
愛香の前に座る一輝が、目を細めて言った。
そのさらに前に座っていた大雅は、「マジか」とつぶやき、改めて画面へ目を向けた。
「本当だ。俺、四番の選手がガツガツ攻めてるとこしか見てなかったわ。いや、迫力すごかったんだよ」
「わかります。俺もこの選手……スモールフォワードかな。めっちゃ走ってるのにびっくりしました。足早いな……」
「わかる。全体的にガツガツ動いてるっつうか」
前の方では海斗と翔が頷き合っていた。その隣に座っていた藤也が振り返る。
「三枝先輩、あの背の高い人、ポジションなに?」
「あれはセンター。まさに背の高い選手のポジションだね。……私じゃなくて、まなちゃんか他の選手に聞いてよ。私だって付け焼き刃だから」
「すみません、つい」
まったく悪びれた様子もなく謝ると、藤也は再び画面へ目を向ける。
それから一時間ほどで観戦を終えると、メイサは頷き、手元のノートを愛香に見せた。
「まなちゃん、ポジション、これでどう?」
「……いいと思う」
「は?」
大雅が声を上げた。
「待て待て、なんで今の流れでポジションの話になるんだよ」
「試合するなら、ポジション決めないといけないじゃん」
「そうだけどさ」
淡々と言い切るメイサに、大雅は目を白黒させた。
一輝が肩をすくめる。
「三枝、ポジション決めるために、俺らに感想聞いた?」
「そうだよ。試合をどう見てるのかを聞きたかった」
「で、どうだった?」
二年生三人は慌てて立ち上がり、メイサと愛香の後ろへ回って二人の手元を覗き込んだ。
藤也が「なるほど……なるほど?」と首を傾げた。
「俺がセンター? あのゴール前にいる、でっかい役やるの?」
「そう。でっかいんだから、でっかい役、よろしく」
「海斗くんはスモールフォワード。器用だからね。オールラウンダー向きだよ。頑張って走って」
愛香が言うと、海斗は拳を握った。
「が、頑張ります!」
「俺シューティングガード……できますかね」
自信なさそうな翔へ、メイサは笑顔を向けた。
「やるんだよ」
「……はい」
「茶野は器用だし小回りもきくけど体力がないから、そこさえなんとかなればどうとでもなるよ。サッカー部おいで」
「い、いきませんよ!」
翔をからかい終えたメイサは、一輝と大雅へ目を向けた。大雅は不満そうな顔をし、一輝は困ったような表情を浮かべていた。
大雅が先に口を開いた。
「三枝さん、なんで俺がパワーフォワード? そんなフィジカルないけど」
「まあ、フィジカルなら黒杉のほうがあるんだけどね」
「なら」
「あんたがいつも一番先に私に突っかかってくるでしょ」
メイサに言われて、大雅は言葉に詰まった。
「誰よりも先に突っ込む。それが白石、あんたの役目」
大雅は何度か瞬きをして、顔を上げた。
「……須藤、この子俺にちょうだい」
「死んでも嫌です」
大雅と藤也がにらみ合うのを無視して、メイサは大雅を見た。
「黒杉はポイントガード。司令塔。このチームは、あんたが引っ張るの」
「……愛香は、それでいいと思う?」
「思う」
愛香は即答した。
一輝は小さく頷く。
「わかった。やるよ、ポイントガード。つっても、今までずっとパワーフォワードだったから、いきなりできるかわかんねえけど」
「できるよ。一輝ならできる」
そう言って、愛香は立ち上がった。
「じゃあ、ポジションも決まったし、練習練習。とりあえず走ろう。今見た通り、相手は運動量が多いからね。うちは交代選手もいないし、後半バテないようにしないと」
一輝も愛香の後を追って立ち上がった。
「あの二人、さっさとくっつけばいいのに」
メイサが呟くと、大雅が返事の代わりにため息をついた。
***
試合前日の金曜日。体育館では、メイサの前で二年生三人がそろってめそめそしていた。
「無理です、吐きます」
「トイレで全部吐いたら戻っておいで」
「鬼か?」
「サッカー部に聞いてなかった?」
「聞いてましたけど!!」
「三枝先輩、褒めてください」
「はいはい、偉い偉い」
すり寄ってきた藤也の頭をひと撫でしてから、メイサはストップウォッチを片手に笛を吹いた。
「はい、もう1セット」
三人はパスを出し合いながら走り、ゴールを決める練習を繰り返していた。立ち位置やシュートを打つ役を入れ替えながら、そのメニューを延々と続けている。
「三枝せんぱーい! 俺がゴール決めましたよー! 見てましたかー?」
「見てなかったからもう一回。青川、手首使って、茶野、歩幅が狭い。周り見て」
「いや、めっちゃ見てるじゃないですか!!」
「お黙り。最初は青川から、スタートもうちょい早く」
メイサに言われ、海斗と翔は顔を見合わせた。だが、助っ人の藤也が「はい、三枝先輩!」と機嫌よく走っていくのを見て、二人も踏ん張って後を追った。
愛香は、床に汗を落として倒れ込んでいる一輝と大雅にタオルを差し出した。
二人はオフェンスとディフェンスを交代しながら、何度もシューティング練習を繰り返していた。
「二人ともお疲れ様」
「ちょ、むり、きつ」
言葉を絞り出す大雅に、愛香は微笑んでドリンクを差し出した。
「五分休んだら、もう一回ね」
「鬼だ……」
「マネージャーはそういう生き物だって師匠が言ってたから、私も心を鬼にして厳しく当たることにしたんだ。一輝も水分補給して」
「ん」
愛香がドリンクを差し出すと、一輝は小さく頷いて受け取った。喉を鳴らして一気に飲み干し、空になったボトルを愛香へ返す。
「師匠って、あれ?」
一輝の視線の先ではメイサが二年生に指示を出したり笛を吹いたりしていた。
一番楽しそうなのは藤也だった。要領のいい海斗はなんとか食らいついていたが、体力の少ない翔はついに倒れ込んだ。
愛香は笑顔で首を横に振った。
「うん。私も、優しくするだけじゃ駄目だと思って」
「……なんか、ごめん」
謝る一輝に、愛香は首をかしげた。
「俺の太陽が、北風になっちまって」
「何言ってるの……」
目を丸くした愛香に、一輝は耳を赤くしてそっぽを向いた。
「ごめん。キモかったわ」
「まあ、どうかとは思うけど、他の人には言わないでね」
「言うわけねえだろ」
「……俺もいるっつうの!」
いたたまれなくなった大雅が飛び起きた。
「よし、次こそ! 勝つ!」
大雅は一度も一輝からゴールを奪えず、一度もゴールを守り切れていなかった。
愛香とメイサから、チームの得点源として期待されているのに。
一輝は目を丸くしてから、ゆっくりと起き上がった。
「へえ、期待しとくわ」
大雅は一瞬怯んだが、にやっと笑った。
「期待してくれ、これでも副部長だからさ」
愛香は目を細めて、幼馴染二人のタオルを拾った。
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