表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/25

Day 12.謂はぬ色

 よく晴れた土曜日の朝。改札を抜けたメイサの目に、すでに全員そろって待っている部員たちの姿が飛び込んできた。



「おせーよ、マネージャー」



 睨む大雅(たいが)にメイサは手を振った。



「ごめんごめん……って、まだ約束の十分前じゃん」



 メイサが辺りを見回すと、一輝(かずき)愛香(まなか)は肩を寄せ合って緊張した面持ちで立ち、二年生三人は足元の地面に石でまるばつゲームを書いて時間をつぶしていた。


 メイサに気づいた藤也(とうや)が顔を上げて目を細める。



「おはよ、メイサ」


「おはよ。行こうか」


「……うん」



 愛香が蚊の鳴くような声で答えた。



「緊張しすぎ。黒杉(くろすぎ)は大丈夫? 駄目ならポジション変えるけど」


「駄目じゃない」



 一輝が唸るように言って歩き出した。


 海斗(かいと)(しょう)も立ち上がり、全員で大学に向かって歩き出す。


***


 大学の体育館は広かった。天井も高く、コートの向こう側が遠く感じられるほどで、高校の体育館の倍近い広さがあった


 海斗は「吐きそう」と呟き、翔も「体力保つかな」と呟く。


 メイサは、



「吐くならあっちにトイレあったし、体力がなくなっても走るんだよ」



 と笑って言うと、そのまま相手側のマネージャーへ挨拶に向かった。


 挨拶を終えるとすぐに戻り、一行は控室へ移動した。


 男子たちが黙々と着替えを始める中、少し遅れて愛香が控室へ入ってきた。



「おかえり、まなちゃん。どうだった?」


「メイちゃんの言うとおりだった」


「なに?」



 靴ひもを結んでいた大雅が顔を上げた。


 一輝も愛香とメイサに顔を向ける。



「まなちゃんに迷子のふりして、敵情視察してもらってきた」


「俺の愛香にそういう危ないことさせんな。せめてやらせるなら、先に言えよ」


「言ったらあんたが自分で行くって言いだすからダメ。あのね、ここのバスケサークル、そんなに真面目にやってるとこじゃないからさ、高校生相手なら遊び気分だと思ったんだよね」


「うん。そんな感じのことを話してたよ」



 愛香は大学構内を歩いているときに耳にした、バスケサークルの大学生たちの様子をメイサへ報告した。



「終わったらマネージャーだけ呼んで合コンの予定だってさ」


「は?」「あ?」



 藤也と一輝の声が重なった。


 他の三人も顔を上げて愛香を見ている。



「そんなことだろうとは思ってたけどね」



 メイサはにやっと笑って手にしていたノートをぱたんと閉じ、着替えを終えた部員たちをゆっくり見回した。



「あんたたち、やっておしまい」


「いや、だからなんで悪役ムーブなんだよ……」



 藤也が呆れた顔で笑った。


***


「よろしくお願いします」


「そんな緊張しないでいいよ。気楽にやろうぜ」



 一輝がサークルの代表に挨拶をすると、相手はへらっと笑った。


 相手チームは終始笑顔だった。だが一輝には、その笑みが愛香とメイサを品定めするようなものにしか見えない。


 それぞれが軽く頭を下げてから、試合が始まった。


 愛香はスコアボードの隣へ立ち、メイサはコートの反対側で三脚に据えたビデオカメラを回しながら、ノートへ細かくメモを取っていた。


 三脚もカメラもサッカー部から借りてきたものだという。強い部活は備品も充実していて、一輝には少しうらやましかった。


 だが、バスケ部をここまで弱体化させたのは自分だ。そんなことを口にする資格はないと、一輝は胸の内で苦く笑った。


 一輝は前を見た。


 コートの中央では大雅が屈伸している。


 メイサから「初手でぶん殴れ」と指示を受け、緊張しながらも「任せろい」と張り切っていた。


 大雅の斜め後ろでは藤也がメイサに手を振り、その近くでは海斗が嫌そうな顔で手首を回していた。翔はコートの右側で膝に手をつき、周囲を見回している。


 一輝は息を吸って吐いた。


 審判役の大学生がボールを投げる。


 大雅が跳んだ。


 あいつ、ジャンプ高くなったな……。そんなことをぼんやり思いながら、一輝は走り出した四人の少し後ろを追った。


 大学生たちが大雅を取り囲もうとしたが、藤也と海斗が間へ割って入った。


 二人の間を抜けて大雅がゴールを決めた。


 一瞬静まり返るが、すぐに試合は再開する。



「翔!」


「はい!」



 一輝が怒鳴る。翔と海斗がボールを持つ大学生に追いつく。翔がボールに手を伸ばし、大学生がかわそうとしたところを海斗が奪って藤也に投げる。



「うりゃっ!」



 藤也が投げたボールはリングに弾かれたが、大雅が拾ってゴールを決めた。


 大学生がざわつく。


 一輝は唾を飲んだ。



「そこで日和ったら刺す」



 物騒すぎる声援が聞こえて振り向くと、メイサが笑顔で手を振っていた。


 たぶん、一輝にしか聞こえていない。


 聞こえていたら、藤也があんな笑顔でメイサに手を振っているはずがない。……たぶん。



「うっせー、見てろ、バカギャル」


「いてこましてきなさいよ、モラハラ」



 一輝は走り出した。




 その後も試合は、一輝たちが主導権を握ったまま進んだ。後半に入ると大学生側は明らかに力を抜き始めたが、一輝たちは最後まで気を緩めることなく勝ち切った。



「ありがとうございました」



 試合後、一輝が頭を下げると、相手の主将はへらっと笑った。



「いやー、若いっていいねー。俺らなかなかそこまでガチでやれねーわ」



 一輝は拳を握る。すぐ後ろにいたメイサが笑顔で顔を出した。



「胸をお借りできてありがたかったです。お世話になりました」



 返事を待たず、メイサはくるりと踵を返した。



「さー、帰ろー。藤也、午後はバイトでしょ。私も学校に顔出してから行くからね」


「あ、俺も学校行く。部長に呼ばれてるんだ」


「メイちゃん、私も行くよ。ビデオ見せて」



 一輝は一瞬きょとんとしてから、もう一度大学生たちを見上げた。



「ありがとうございました」



 笑顔でもう一度頭を下げると、仲間たちとともに控室へ向かった。


***


 控室に着くと、メイサがどかっとベンチに座った。



「あーすっきりした」


三枝(さえぐさ)先輩、褒めて褒めて」


「藤也、一発目のシュート外したでしょ」


「うぐ」


「三枝さん、俺は初手、決めたよ」



 藤也が言葉に詰まる横で、大雅がニヤニヤしながらメイサの前へ進み出た。



「よくできました。撫でてあげようか?」


「えっ、おねが……い、いらねえし!」



 頭を下げかけた大雅を藤也がじろっと睨んで割って入った。


 一輝はその様子を笑いながら眺め、制服に着替えた。


 愛香はメイサから少し離れた席でノートに何かを書き込み、メイサは続けて海斗と翔を褒めていた。



「俺は?」



 一輝が何の気なしにメイサに聞くと、「うん」とやる気のない返事が返ってきた。



「ポイントガード、初めてだったんでしょ? 途中ちょっと日和ってたけど、よかったんじゃない?」


「……『日和ったら刺す』は声援じゃねえと思うわけよ」


「発破をかけたんだよ。声援はまなちゃんにかけてもらって」


「……これ以上愛香に甘えたら見捨てられないかな」


「本人に聞け」



 一輝は振り返ると、少しためらってから愛香の隣に腰を下ろした。



「……俺、ちょっとはマシになったかな」


「なった」



 愛香は顔を上げずに答えた。


 一輝は愛香の華奢な肩を見つめ、小さく目を細めた。



「そっか」



 一輝は静かに立ち上がり、荷物をまとめ始めた。



「三枝ー、このビデオってさ」


「ちょっと、乱暴! それ、サッカー部のなんだからさあ」


「それは知ってるけど」


「丁寧に扱ってよね」



 怒るメイサに大雅が笑った。



「むしろ三枝さんが俺らを丁寧に扱ってほしい」


「は?」



 低い声に、大雅の笑顔が引きつる。



白石(しらいし)、月曜からの朝練でランジ追加」


「らんじ?」


「こういうやつ」



 メイサは片足を前に出して、膝を曲げ、腰を落とした。



「……スクワットの足を前後に開くやつ? なんだよ、余裕じゃん」


「そう? 余裕なら後ろの足は椅子に乗せてやってね。体幹強化が足りてなさそうだから」


「余裕余裕……んあ」



 大雅は言われた通り、後ろに引いた足をベンチへ乗せて腰を落とし……そのまま見事にひっくり返った。



「え、なんこれ、難しくない?」


「余裕なんでしょ?」


「でも」


「余裕だよね、白石(しらいし)くん」


「……はい」



 メイサは大雅に笑顔を向けると、そのままビデオを片付け始める。



「まなちゃん、忘れ物ない?」


「大丈夫、帰ろうか。一輝はどうする?」


「……俺も愛香と学校行く。試合のビデオ見るんだろ?」


「なら俺らも行きます!」



 結局、全員で学校へ戻り、視聴覚室で昼食をとりながら練習試合のビデオを見返した。


 途中でメイサと藤也は席を立ち、それぞれの部活へ顔を出しに向かう。


***


「須藤くん、元気だね」



 藤也が中庭のベンチで草野(くさの)と並んで部員名簿をめくっていると、(ひいらぎ)莉子りこがじょうろを抱えてやってきた。



「愛する彼女が頑張ってるんで。まーそりゃきついっすけどね」


「メイサちゃん、体力あるからなあ。でも、メイサちゃんがいないとサッカー部の男子たちが元気ないって、(そう)くんが言ってたよ」


「それはそれで面白くないんですけどね……」



 藤也は名簿を閉じて立ち上がった。


 中庭を抜けて校庭へ向かうと、メイサが後輩マネージャーに何か話している姿が見える。



「メイサーあとどれくらいー?」



 藤也が声を張ると、メイサが顔を上げて笑った。



「あと三十分!」


「りょーかい!」



 藤也は満足そうに頷くと、足早に中庭へ戻る。


 途中でふと顔を上げると、視聴覚室の窓が開いていて、風に揺れるカーテンが目に入った。



「あと三十分で終わる?」


 莉子に聞かれて藤也は力強く頷いた。



「終わらせます」



 藤也は莉子を見送り、副部長の(やなぎ)に声をかけに向かった。

ちなみに「謂はぬ色」は「いわぬいろ」と読み、少し赤みのある黄色だそうです。

つまりバスケットボールみたいな色ですね。

そういうことにしておいてください。

***

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

楽しんで頂けたらブクマ・評価・感想などで応援いただけると大変嬉しいです。

感想欄はログインなしでも書けるようになっています。

評価は↓の☆☆☆☆☆を押して、お好きな数だけ★★★★★に変えてください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ