第3話 過去の残響 その3
「はいー、俺の勝ちぃ。お前の負けぇ」
「勝ちって言っても、お前も貧民だろッ」
「少なくともお前には勝ちましたぁ」
「コイツ、マジでウゼェ」
萩が呼んできた二人を交えて、かれこれ一時間ほどこうしてトランプに興じていた。
久しぶりにやってみると存外面白いものて、ついつい熱中してしまった。
ちなみに宵崎と萩がいつにも増してピリピリしているのは他のゲーム含め、十回近く、二人で下位争いをしているからだ。
「おかしいだろ、これ。三人ともなんかチートしてるでしょ」
「してないって」
「まぁ、ここまで運が悪いと流石に疑っちゃいますよねぇ。次何やります?」
「悪い、俺もうそろそろ見回りの時間だ。ちょっと抜ける」
「いってらー」
そう一言断ってから食堂を抜けだした。
見回りは、このグループの中で決められた仕事の一つで、「休み時間」に合わせて校内を巡回するだけの簡単な仕事だ。
異常がないか、汚れてないか確認するだけのいつもの日課。
「一号棟清掃の必要あり…っと」
手に持った使い古されたチェック表に書き込みをしつつ、時計回りにキャンパス内を一周する。ゆっくり回ったとしても精々が30分ほどで終わる広さだ。
先程までの賑やかな食堂とは一転して、人気のない薄暗い校舎はどこか孤独に似た恐怖を感じさせる。
ポツリ、ポツリと葉に雨粒が当たる音がしたかと思うと、ほとんど間を開けずに外の景色が雨で覆われてしまった。
「雨か…廊下が濡れるのは困るな」
降り始めた雨は次第にその勢いを増していき、巡回が終わる頃にはうるさい程の雨音が校舎中に鳴り響いていた。
「ここも異常なし。後は大講堂だけか…」
大講堂は陽菜が授業を受けている筈の所だ。
普段ならば、ただ異常が無いことを確認してまた食堂に戻るだけなのだが、今は漠然とした不安感があった。
あの時見た動く影のせいなのは分かってる。
拭えない不安感というものは厄介だ。正しい判断すら見失わせてしまう力がある。
「実際に見に行けば良いだけだ」
わざと声に出して、自分を納得させる。
向かう足が自然と早くなってしまう。
曲がり角の先、教室の前。
そこで見てしまった。開かれたままの扉を
「……ッ!!」
最悪の状況が頭をよぎり、息が止まった。
まだ問題が起こったと決まったわけじゃ無い。
不思議と確信に似た予感があった。
そして、その予感は最悪の形で実現してしまう。
「陽菜ッ‼︎」
乱暴にその扉を掴み開ける。
黒板に書かれた文字、何人かの生徒。机に置かれたままの荷物。
一目で分かった。
陽菜が消えた。
どうして
探しに行かなければ
一旦戻って応援を呼ぶべきだ
時間がない
落ち着け
思考が上手く繋がらず繰り返されるように脳を駆け巡る。
その時
カタンッ
誰もいない校舎に響いたその音は、確かに人間の気配を持って耳朶を打った。
そこに、居る。
二号等棟の方から。
それが陽菜ならば話は終わりなのだが…
足早に、その「誰か」に気取られないように気配を消して向かう。
近づくにつれ、次第に話し声が聞こえてくる。
「なぁ、先輩。あいつ、アタリじゃね?」
「落ち着けミツル。声を出したら誰かに気づかれるぞ?」
廊下の曲がり角に身を潜め、状況を伺う。
男の声が二つ、おそらく三十代ほど。
陽菜は居ない。
だが、問題はそこではなかった。
もう一人、そこに誰かがいる。そして、その人物はこの2人に狙われている。
もしそれが陽菜ならば……
「おい、お前ら。ここに何をしに来た」
考えるよりも先に声を出してしまった
ビクッと体を震わせて二人がゆっくりと振り返る。
「驚いたよ、こんな廃墟に人がいるなんて」
背の高い落ち着いた雰囲気の男が話しかけて来る。
手を広げて敵対の意思がないように見せているが油断はできない。
隣には額に傷のある坊主頭の男。手には人を殺すには十分な長さのあるナイフを握っており、こちらを警戒している様子だ。
その目を見た瞬間、気づいた。
───こいつらは「人殺し」だ。
夏の到来を感じる5月の今日この頃……5月?




