第8話 夜襲 その2
『侵入者だ、殺せッ』
『武器はどこだッ!!俺が出る』
『待て、相手は銃を持ってる。一人とはいえ警戒しろ』
統率の取れていない怒号と、慌ただしい足音が喧しく響き渡っている。
そんな様子を横目に、悠哉は目的を達するべく階段を登っていた。
一階にあったビル全体の構造図を思い浮かべながら、主戦場になるであろう場所を考える。
聞こえてくる限り、敵の人数は精々が20人程度であろう。
このビルは5階以外にこれといった大きな空間は存在しない。必然、廊下や階段といった狭い空間での会敵となる事が予想される。
敵がまだ集合できていない今が最大のチャンス、ここを逃してしまえば一人のこちら側が不利になる。
ここで攻め切る
そう結論付けて目の前に意識を戻せば、そこにはフロアと階段を隔てる鋼鉄の扉があった。
鍵や罠の類はない事を確認して扉を開く……
「くたばれッ!!」
扉の内側、気配を消してこの瞬間を狙っていた男の手によってダガーが悠哉の頭部を狙って全力で振り下ろされる。
扉を隔てた別空間への移動を狙った完全な奇襲。勝利を確信したか、ニヤリと男の口角が上がる。
「警戒しない訳が無いだろ。こんな古典的な方法を」
男が違和感を抱いた時にはもう既に手遅れであった。
全力で力を込めているはずであるのに、腕がピクリとも動かない。
気づけばダガーを握っているその手首を悠哉が片手で押さえ込んでいた。
抜け出そうと僅かに身体をずらそうとする試みすら、その片手で抑えられてしまう。
何が起こっているというのか。
そんな理解不能な状況に男が戸惑いの表情を浮かべる。
「てめぇ、何を……」
ゴトリと床に大きな塊が……それこそ「人間の頭程の大きさ」を持った物が落ちた音が鳴る。
『えっ』
悠哉が振り抜いたナイフが男の首を横一文字に薙ぎ払う。
何が起こったのか分からずに戸惑いの「声」を出すことすらなく、男はその意識を終える事となった。
切り離された男の胴体からは噴水のような血飛沫が吹き出ている。
「こっちだッ!!1人やられた」
息つく暇もなく廊下の奥からそんな怒号が聞こえて来た。
応援……3、4人といったところか
足音のばらつきから凡その人数を割り出す。
目の前は直線の通路、避ける場所は無い。
ならば……
銃が撃たれるまでの刹那、半ば反射的に手が動く。
その瞬間、男の死体が宙を舞った。
同時に悠哉が駆け出す。
突如現れたその「障壁」に、射撃主の狙いが僅かに逸れる。
────発砲
狙い外れた数発の弾丸は壁を撃ち、死肉を穿ち、その致死性を失う事となる。
それでも、誰が撃ったか。依然として3発の弾丸が、目前の敵を殺さんと空を進んでいる。
何発防がれようとも、一撃当たれば死にかねない。
「ッ?!」
その瞬間、悠哉の身体が僅かに沈む。
音速に迫る弾丸を、確かに見据えながら。
本来であればその脳天を貫いていたはずの軌道。しかし、その弾丸は僅かに悠哉の真横を掠めるように過ぎ去るのみであった。
''避けられた''
常人には認識すら不可能な弾丸。速度にして音速にも並びかねないそれを、確かに目視で回避したのだと。
その事実を目撃したからか、男達の中から驚愕の声があがる。
戸惑い、混乱、緊張、抱える感情はそれぞれ違う。しかし、確かに全員が一瞬、別の思考に意識を回してしまった。
その時間が彼等にとって、致命的である事を知らずに。
────発砲、一閃
一発の弾丸が一人の脳天を貫き、一筋の刃閃がまた別の男の腹を切り裂く。
その光景を過剰なまでに引き伸ばされた体感時間で認識していた。
残り2人
「うぉおぉおおぉッ!!」
廊下の端に立っていた男が、目の前で繰り広げられた惨劇からいち早く正気を取り戻し、悠哉に向かって拳銃を向け、その引き金に指を掛ける。
だが、その簡単な動作ですら遅い。
男が引き金を引くよりも尚早く、悠哉の脚撃がその腹を穿った。
肉体が宙を舞い、轟音と共に壁に叩きつけられる。
「アッ……」
僅かに漏れた呻き声を最後に、男の身体から力が抜ける。
即死だった。
残り1人
「ひいッ!!」
残された最後の一人が、怯えたようにうずくまっていた。
「すみませんすみませんすみません助けて助けて助けて……」
恐怖からか、保身のためか、それとも生存を求める生き物の本能からか。気が狂ったように命乞いをする男の姿がそこにはあった。
その目からは涙がとめどなく流れており、その身体は小刻みに震えている。
最早戦う意思は欠片も残っていないのだろうその姿に、悠哉は……
残り0人
ナイフに付着した血糊を今殺した男の服で無造作に拭う。
廊下にできた血溜まり、硝煙と鉄錆が混ざったような匂いが鼻を突く。
地獄と形容できる程の惨劇がそこにはあった。
それを自身の手で生み出したという事実。
それでも、奇妙なまでに心は凪いでいた。
「……フッ」
思わず嗤いが漏れ出てくる。
戦闘や殺人への愉悦の嗤いではない。自分でも自覚できてしまう程の変化への自嘲のそれだった。
こんな時ですら、思考の半分は来るかもしれない敵への警戒に向けられていた。
常在戦場の意識もここまで来れば呪いだな……
視界の端に映った起動中のカメラを撃ち抜き、情報を遮断する。
さて、ここから上にどうやって向かうか。
馬鹿正直に階段を登ったところで撃ち下ろされて蜂の巣にされるのが関の山だ。
幸いなことにこれ以上の応援はここにはやってこない様だ、考える時間はそれなりにある。
「外、か……」
割れた窓の外にはどこまでも続くような星空とそこに浮かぶ三日月だけが存在した。
注 この作品は「異能力主人公無双」に分類されます
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