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廃妃にされた悪役令嬢、国の食糧を全て握っているので帝国が詰みました  作者: 蒼月よる


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玉蘭の反抗

 翌日、蘇家の長老会議が再び開かれた。


 玉蘭は再び列席した。昨日の発言の後、大叔父から叱責を受けた。「後宮での役割を弁えろ」「蘇家に逆らうなら妹がどうなるか分かっているな」——いつもの脅し文句。幼い頃から何度も聞かされてきた言葉だ。かつてはその一言だけで、玉蘭の背筋は凍りついたものだった。


 だが今日の玉蘭は、昨日とは違った。


 一晩かけて考えた結果、玉蘭は一つの結論に達していた。隠蔽を続ければ、蘇家はさらに追い詰められる。朝廷の調査は進んでいる。鳳家側にも証拠がある。隠し通せる段階はとうに過ぎている。


 広間に入ると、昨日と同じ白檀の香りが漂っていた。卓上には今日も菓子が並んでいる。胡麻の湯圓タンユエンと杏仁の寒天。蘇家の体面を保つための上等な品だが、長老たちの顔色は菓子の甘さとは裏腹に苦く曇っていた。湯圓の胡麻餡がとろりと溢れる甘い香りが、緊迫した空気の中で場違いなほど濃く漂っている。


「皆様。お話があります」


 玉蘭は長老たちの前に進み出た。昨日とは足取りが違う。居室で一晩かけて考え抜いた言葉が、喉の奥に用意されている。


「隠蔽は新たな罪になります」


 大叔父が目を細めた。扇を開き、顔の下半分を隠す。感情を読ませないための仕草だが、目元の険しさは隠しきれていない。


「玉蘭。昨日も言ったが——」


「お聞きください。百年前の文書は既に朝廷に渡っています。鳳家にも証拠があり、北の遊牧国家の伝承も一致しています。三つの証拠が揃った今、隠蔽は不可能です」


「だから否認すると——」


「否認すれば、蘇家は嘘をつく家として記録されます。百年前に鳳家を唆し、責任を押し付け、さらに百年後に嘘を重ねた——そういう家として」


 長老たちがざわめいた。衣擦れの音が重なる。昨日よりも動揺が大きい。玉蘭の言葉が、否認派の論理の隙を正確に突いていることに、長老たちの何人かは気づいている。


「ならばどうしろと言うのだ」


「認めるのです。蘇家の先代が過ちを犯したと。——認めた上で、対処する」


「認めれば蘇家は——」


「認めなければ、もっと悪い結果になります」


 玉蘭の声は静かだったが、論理は明快だった。後宮で培った政治的洞察力が、初めて蘇家の利益ではなく——事実のために使われていた。かつて麗華を陥れるために使った弁舌の切れ味が、今は蘇家の欺瞞を切り裂いている。


 その皮肉に気づいているのは、おそらく玉蘭自身だけだった。


 大叔父が立ち上がった。椅子が床に軋む音がした。老人の体重を支えきれなかった古い椅子が、悲鳴のような音を上げた。


「小娘が。蘇家の百年の矜持を、お前が——」


「百年の矜持が、百年の嘘に根ざしていたのです。矜持を守りたいなら、嘘を認めることからしか始まりません」


 叱責が飛んだ。長老の一人が机を叩いた。茶杯が跳ね、中の茶が卓に広がった。琥珀色の液体が白い卓布に染みを作り、杏仁の寒天の皿を濡らした。もう一人が「若造が」と吐き捨てた。三人目が「誰に口の利き方を教わった」と唸った。


 玉蘭は立ち続けた。


 足が震えている。膝が笑いそうだ。だが——倒れなかった。


 叱責の中で、ふと——思った。


(この人たちは、私のために怒っているのではない。蘇家のために怒っている。蘇家の利益が損なわれることが許せない。私が正しいかどうかなど、誰も気にしていない)


 それは——後宮に送り込まれた日から、ずっと感じてきたことだった。蘇家は玉蘭を道具として扱い、蘇家の利益のために動かしてきた。玉蘭の感情も意志も、蘇家にとっては関係がなかった。


 今もそうだ。


(この人たちは——私ではなく蘇家のために怒っている)


 その認識が、冷たく、しかし確実に玉蘭の中に沈んでいった。氷の欠片が胸の底に着地するように、静かに、決定的に。


「……失礼します」


 玉蘭は一礼して広間を出た。


 廊下の窓から夕陽が差し込んでいた。蘇家の邸宅の庭に植えられた梧桐ごとうの木が、長い影を廊下に落としている。葉の一枚一枚が夕陽に透けて、濃い緑と金の縁取りをまとっていた。その影を踏みながら、玉蘭は歩いた。


 廊下を歩く足取りは——昨日よりもしっかりしていた。


 叱責された。退けられた。だが——初めて自分の意志で発言した。蘇家の命令ではなく、蘇玉蘭としての判断で。


 居室に戻ると、侍女が夕餉を運んでいた。蓮の実の甘煮と、白粥、それにたけのこえ物。質素だが丁寧に仕上げられた膳だった。白粥からは米の甘い蒸気がかすかに立ちのぼり、蓮の実の甘煮には蜜がとろりと絡んでいた。


 玉蘭は椅子に座り、匙を手に取った。


 白粥を一口含んだ。温かい。米の甘みが舌の上でほどけて、喉を通っていく。今朝はほとんど何も食べられなかった。緊張と恐怖で胃が受け付けなかったのだ。


 だが今は——食べられる。


 蓮の実の甘煮を一粒、口に運んだ。ほくほくとした食感に、蜜の甘さがまとわりつく。幼い頃から好きだった味だ。実の中心まで蜜が染みた、あの柔らかい甘さ。歯で軽く噛むと、中から熱い蜜が滲み出す。


(蘇家の甘味は美味しい。それは——否定しない。でも、甘さの裏に隠されていたものが、もう見えてしまった)


 それが何かを変えるかどうかは、まだ分からない。筍の和え物を箸で持ち上げた。薄く切られた筍は歯ごたえが良く、塩と胡麻油だけで味付けされたその素朴さが、今の玉蘭には妙に沁みた。噛むたびにしゃくりと小気味よい音がして、筍の清冽な風味が口に広がる。


 だが——何かが動き始めていた。


 広間で長老たちを前に声を上げた自分。あの瞬間の声は震えていたが、確かに自分の声だった。後宮で皇帝の前に立ったときの、完璧に制御された声ではない。蘇家の教育に磨き上げられた、演技の声でもない。素の蘇玉蘭の声。不器用で、怯えていて、それでも——自分の言葉だった。


 玉蘭は粥を最後まで啜り、椀を置いた。碗の底に残った米粒が、灯火の光を受けて真珠のように光っていた。


 窓の外では、帝都の空が暮れなずんでいた。梧桐の影が庭の石畳の上に溶け、闇と一つになっていく。虫の声が一つ、二つと増え始める。


 蘇家の邸宅は美しい。だがその美しさが、百年の嘘の上に立っていることを——もう、知ってしまった。


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