玉蘭、衝撃
帝都に真相が届いたのは、それから数日後のことだった。
暁風の判断だった。「皇帝には報告すべきだ」と暁風は麗華に進言し、麗華は沈黙の末に頷いた。反論する気力がなかったのか、それとも暁風の判断が正しいと認めたのか。おそらく両方だろう。暁風は密書を帝都に送り、皇帝にのみ真相の概要を伝えた。
だが情報は——思ったより早く漏れた。
蘇家の調査が進む中で、蘇家の古文書庫から百年前の霊脈操作に関する断片的な記録が発見されたのだ。趙文昌の弾劾後、蘇家の資産凍結と合わせて行われていた調査で、長年封印されていた蔵書が掘り起こされた。朝廷の調査官がそれを解読し、皇帝に報告した。暁風の密書と合わせて、真相の輪郭が帝都に広まり始めた。
そしてその情報は——蘇玉蘭の耳にも届いた。
後宮の居室で、玉蘭は侍女から報告を受けた。居室は後宮の東翼にある。趙文昌の弾劾後、蘇家の立場は微妙になっていたが、玉蘭自身は後宮に留め置かれていた。皇帝が彼女の処遇を決めかねていたのだ。
「蘇家の古文書庫から——百年前の記録が。蘇家の先代が鳳家に霊脈操作を唆した——という内容の」
「……嘘でしょう」
玉蘭の声は、いつもの柔らかさを失っていた。後宮で「儚げな美貌」と称された声が、今は乾いて硬い。
「嘘ではありません。調査官が直接確認し、皇帝陛下にも報告されたと」
玉蘭は居室の椅子に座ったまま、動けなかった。
蘇家の誇り。名門の矜持。百年にわたって培ってきた蘇家の格式。先祖代々の邸宅、後宮に嬪を送り続けた家系、朝廷での発言力——それら全てが、蘇家の「名」の重さによって支えられていた。
その名が——百年前の罪に根差していた。
(蘇家は——鳳家を唆して霊脈操作を行わせた。失敗すれば鳳家の責任。成功すれば蘇家も利益を得る。そういう——そういう計算で、この国の大地を賭けに使った)
卑劣だ。計算高さを誇りにしてきた蘇家の先代だが、その計算は人の命と国土を天秤に載せたものだった。そしてその卑劣さの上に、蘇家は百年間の繁栄を築いてきた。玉蘭自身もその恩恵を受けて育った。蘇家の名で後宮に入り、蘇家の力で寵愛を得た。
手にした茶杯が、指先から滑った。
磁器が床に落ち、澄んだ音を立てて割れた。茶が床に広がり、白い磁器の破片が散らばった。茶は龍井——蘇家の邸宅で愛飲していた高級茶だ。薄い緑色の液体が、白い磁器の破片を濡らしている。
玉蘭はそれを見つめた。
「……嘘。嘘よ。蘇家は——」
声が震えた。
蘇家の駒として生きてきた。蘇家の命令で後宮に入り、蘇家の意向で皇帝の寵愛を獲得し、蘇家の指示で鳳麗華を陥れた。全ては蘇家のため。蘇家の栄光のため。蘇家に逆らえば妹がどうなるか分からない——その脅しを受け入れて、玉蘭は駒であることを選んだ。
その蘇家が——百年前、国土を枯らす片棒を担いでいた。
玉蘭は廃妃に追い込んだ鳳麗華の顔を思い出した。あの日、大殿で微笑んでいた女。偽証で弾劾され、廃妃を宣告されたのに——微笑んでいた。「帝都の食卓が寂しくなりませんよう」と言い残して、背筋を伸ばして去っていった。強く、賢く、美しかった。
(あの人を——私が陥れた。蘇家のために。でもその蘇家は——百年前から鳳家と共犯で、この国を壊していた。私があの人にしたことは——百年前の罪の延長線上にあったのか。蘇家の利益を守るために、鳳家を潰す。百年前と同じ構造だ。唆し、利用し、責任を押し付ける。それが蘇家のやり方だった。百年前も——今も)
茶杯の破片を見つめる玉蘭の目に、涙が浮かんだ。
だがこの涙は——演技ではなかった。後宮で何度も涙を流してきた。皇帝の前で。嬪たちの前で。だがそれは全て計算された涙だった。蘇家に教え込まれた「武器としての涙」。
今の涙は違う。制御できない涙だ。
「玉蘭様……お怪我は」
「大丈夫よ」
玉蘭は侍女の手を払い、一人で破片を拾おうとした。指先が切れ、赤い血が白い磁器に落ちた。龍井茶の緑と、血の赤が、白い破片の上で混じった。
(何のために。何のために麗華を廃妃にした。蘇家の誇りのため? その誇りが——百年前の罪の上に立っていたなら。私が守ろうとした蘇家の名は——嘘で塗り固められた名だったのなら)
玉蘭の唇が震えた。
「——嘘。嘘よ」
繰り返す言葉は、もう信じる力を失っていた。嘘であってほしいという祈りだ。だが祈りは、事実の前では無力だ。
後宮の居室で、蘇玉蘭は一人、割れた茶杯の破片を拾い続けた。指先の切り傷から血が滲む。痛みがある。だがその痛みは——胸の中の痛みに比べれば、何でもなかった。
割れた茶杯は元には戻らない。
蘇家の誇りも——もう、元には戻らないのかもしれない。
夜が来た。後宮の夜は静かだ。宦官の足音が遠くを通り、灯籠の光が窓の外を揺らす。
玉蘭は寝台に横たわったが、眠れなかった。天井を見つめながら、蘇家の邸宅で過ごした幼い日々を思い出していた。
蘇家の食卓は豪華だった。白磁の器に盛られた翡翠色の蒸し魚。金糸のように細い筍の千切り。春には桃花餅、秋には桂花糕。季節ごとに変わる点心は、蘇家専属の料理人が腕を振るった。
その食卓を囲みながら、大叔父が言ったものだ。「蘇家は百年の名門だ。名門の格式を忘れるな」と。
百年の名門。
その百年が——嘘の上に立っていた。
豪華な食卓も、白磁の器も、専属の料理人も——全ては百年前の罪の果実だった。鳳家を唆し、国土を枯らし、その罪を隠し通すことで保ってきた繁栄。
蘇家の料理は確かに美味だった。幼い玉蘭はその味を誇りに思っていた。「蘇家の食卓は帝都一」と言われるのが嬉しかった。
だが今は——あの食卓の豊かさが、どこから来ていたのかを知ってしまった。
玉蘭は寝返りを打ち、壁を見つめた。
明日、何をすべきか。蘇家の長老たちは隠蔽を図るだろう。百年前と同じように。証拠を隠し、嘘を重ね、責任を他に押し付ける。それが蘇家のやり方だ。百年間、変わらなかった。
だが——玉蘭はもう、そのやり方に従いたくなかった。
駒であることを選んだのは自分だ。だが駒であり続ける義務は——もう、ないのかもしれない。
夜が明ける頃、玉蘭の中で何かが固まり始めていた。それが何かはまだ言葉にできないが——確かに、形を持ち始めていた。




