蘇家の黄昏
趙文昌の失脚は、蘇家にも波及した。
帝都の蘇家本邸。かつては門前に馬車が列をなし、朝廷の要人が出入りしていた屋敷は、今や人影がまばらだった。門番の数が減り、庭の手入れが行き届かなくなっている。枯れた落ち葉が掃かれないまま石畳に張り付き、かつての華やかさの残骸のようだった。
趙文昌との結託が露見したことで、蘇家の政治基盤は一夜にして崩壊した。資産の一部が凍結され、蘇家当主は自邸での謹慎を命じられている。完全な失脚ではないが——影響力は急速に失われていた。
その波は、後宮にも届いていた。
蘇玉蘭は後宮の一室で、一人きりの夕食を取っていた。
膳は質素だった。白粥と漬物。蒸した饅頭が一つ。饅頭の皮はわずかに冷めて硬くなり始めており、粥は具のない素粥だ。後宮に入って以来、玉蘭の食卓がこれほど寂しくなったことはない。
(かつては毎晩——鳥の蒸し物、蓮の実の甘露煮、翡翠粥に点心。蘇家が送ってくる高級食材で、私の食卓だけが後宮で一番華やかだった。他の嬪妃が羨む食卓。それが蘇家の力の証だった)
今、蘇家からの食材は途絶えている。後宮の厨房が出す定番の膳だけが、玉蘭の食卓に乗っている。
粥を啜った。味がしない。いや——味はあるのだろうが、玉蘭の舌が受け取れない。心が食を拒んでいる。匙が粥の中をかき混ぜるだけで、口まで運ぶ気力が湧かない。
窓の外に目をやった。後宮の庭園は冬枯れで色がない。灰色の空に、裸の枝が広がっている。花の季節には牡丹が咲き乱れ、蝶が舞うこの庭も、今は骨だけの木が寒風に晒されていた。
(趙文昌が失脚した。蘇家が弱体化した。——次は、私の番かもしれない)
玉蘭は箸を置いた。
後宮での立場は日に日に悪くなっている。趙文昌と蘇家の力で後宮に君臨していた玉蘭だが、その後ろ盾が崩れれば——取り巻きは蜘蛛の子を散らすように離れていく。
昨日まで笑顔で挨拶していた嬪妃が、目を逸らして通り過ぎる。足音を聞いて振り返った侍女が、玉蘭だと気づいた瞬間に歩調を速めた。侍女の数も減った。付き従うことが「蘇家につく」ことを意味する以上、離反は当然の打算だ。
(打算。——私自身が、打算で生きてきたのだから。笑顔で近づき、利用し、利用された。それが後宮の流儀だった。今、同じことをされているだけ)
玉蘭は鏡を見た。美しい顔がそこにある。涙を流せば男は守りたくなる左目。演技で震わせることのできる唇。頬の線は完璧で、肌は白磁のように滑らかだ。後宮に入って以来、この顔が武器だった。
だが今、鏡の中の顔は——疲れている。目の下に薄い隈が浮かび、唇の色が褪せていた。
(私は蘇家のために何をしてきたのだろう)
初めて、その問いが浮かんだ。
蘇家の三女として生まれた。姉たちは別の名門に嫁ぎ、末の玉蘭は後宮に送り込まれた。「蘇家の駒」として。皇帝の寵愛を得て、後宮での蘇家の影響力を確保する——それが玉蘭に課せられた役割だった。玉蘭自身の意志は、一度も問われなかった。
鳳麗華を陥れたのも、蘇家の指示だった。偽証の内容は蘇家の当主が用意し、玉蘭はそれを後宮で広め、弾劾の空気を作った。涙を流し、声を震わせ、「鳳貴妃の暴虐」を嘆いて見せた。全ては演技だった。
(あの時——鳳麗華は微笑んでいた。廃妃を宣告されても、一度も泣かなかった。私が泣いて見せたのに——あの女は、笑っていた。目の端に涙の一粒もなかった)
あの笑顔が、今でも玉蘭の脳裏に焼きついている。
(なぜ笑えたのか。私には——わからなかった。今も、わからない。全てを奪われた者が、なぜあれほど穏やかに笑えるのか)
膳を下げに来た侍女が、玉蘭の食べ残しを見て黙っていた。粥の半分、饅頭は手つかず。以前なら侍女が気遣いの言葉をかけただろう。だが今、残っている数少ない侍女は、余計なことを言わない。
「……下げて」
「はい、玉蘭様」
侍女が出ていった。足音が遠ざかり、部屋が静寂に沈む。
一人になった玉蘭は、窓辺に座った。
(蘇家の道具。それが私だった。美しい道具。泣いてみせる道具。男を操る道具。——道具に自分の意思は必要ない。道具は使う者の手の中にあればいい)
(でも今——蘇家は弱った。道具を使う手が、なくなった。残されたのは道具だけ)
(私は——これからどうなるのだろう)
後宮での処遇は皇帝次第だ。趙文昌のように弾劾されるか、それとも蘇家から切り離されて後宮に残るか。皇帝の寵愛が残っているかどうかは——わからない。最近の承乾は距離を置いている。玉蘭に目を合わせなくなった。玉蘭の美貌が政治の道具だったことに、若い皇帝も気づき始めている。
(もし後宮を追われたら。もし蘇家に帰されたら。——蘇家に帰っても、私には何もない。嫁いだ姉たちは、もう私を助けられない。蘇家自体が沈みかけている船だ。沈む船に戻って、何になる)
玉蘭は膝を抱えた。後宮の嬪の位にある女とは思えない、幼い姿勢だった。衣の裾がだらしなく床に広がり、髪飾りが一つ落ちたのにも気づかない。
(鳳麗華。あの女は——廃妃になった後、何をしたか。領地に帰り、食糧を武器にして国を詰ませた。追放された後に、自分の力で立ち上がった。自分の足で歩いた。自分の手で食を作り、自分の頭で策を練った)
(私には——何がある?)
何もない。美貌と演技力。それだけだ。蘇家の庇護がなければ、美貌は武器にならない。演技は——誰に見せるのか。観客のいない舞台で踊る役者に、価値はない。
(「鳳麗華に会いたい」)
玉蘭は自分の口から出た言葉に驚いた。
憎んでいたはずの女。自分が廃妃に追いやった女。なぜ——会いたいなどと思うのか。
(あの女は——笑っていた。全てを奪われても、笑って去った。あの強さの正体を——知りたい。あの笑顔の下に何があったのかを、知りたい)
(知って——何になる?)
答えは出なかった。
後宮の夜は長い。灯火の油が少なくなり、炎が弱々しく揺れている。以前は上等な灯油が潤沢に供給されていた。今は——後宮の標準品だけだ。
玉蘭は窓の外の暗い空を見つめながら、手つかずの饅頭のことを考えていた。
(食べればよかった。——お腹が空いた)
小さな空腹が、玉蘭を現実に引き戻した。政治も権力も後ろ盾も失った後に残るのは、体が食を求めるという単純な事実だ。
立ち上がって棚を開けた。奥に、以前蘇家から届いた干し果実の包みが残っていた。没収を免れた小さな甘味だ。
一つ口に入れた。甘い。干し杏の凝縮された甘さが、空っぽの胃に沁みた。舌の上で杏の味が広がり、体の奥がじんわりと温まる気がする。
(甘い。——お腹が空いていると、甘いものがこんなに美味しいなんて。鳳麗華は——いつもこんなふうに、食べ物の味を感じているのだろうか。あの女が食にこだわる理由。食は命だと言った理由。——少しだけ、わかる気がする)
もう一つ食べた。甘さが喉を通り、体に熱が戻る気がした。
(食べれば——少しだけ、生きていけると思える。こんな単純なことが——)
鳳麗華が食にこだわる理由が、ほんの少しだけわかった気がした。
食は命だ。それは——蘇家の三女として華やかな食卓しか知らなかった玉蘭には、実感のない言葉だった。だが今夜——粗末な膳の白粥と、棚の奥の干し杏で、初めてその言葉の重みに触れた。空腹という肉体の訴えが、言葉に実感を与えた。
(「鳳麗華に会いたい」——やはり、そう思う。あの女が持っているもの。私が持っていないもの。それが何なのか——知りたい)
(蘇家の道具ではない、蘇玉蘭として。——初めて、自分で何かを「知りたい」と思った)
夜が更けていく。
後宮の灯火が一つずつ消え、闇が深まる。
玉蘭は干し杏の包みを棚に戻し、寝台に横たわった。
蘇家の駒だった女が、初めて自分の未来を考えた夜だった。




