切っ先三寸
あけまして、おめでとうございます。
拙い小説ですが、本年もどうかよろしくお願いいたします。
太郎の声が聞こえていないのか大柄でポニーテールの女性は、太郎にかまうことなくアーミーアントと戦闘を始める。
女性が手にしているのは、大きめのシャムシール。片刃で先端が曲がっている曲刀とも呼ばれているものだ。
「せいや〜!」
女性は気合一閃、深い踏み込みとともに、近くのアーミーアントの胴体を薙ぎ払う。
太郎とは技の腕前が違うのだろう、さほど業物とも思えないシャムシールの一撃でアーミーアントは胴体を両断され体液をふきだしながら倒れた。
パキィン!
それと同時に澄んだ金属音響きシャムシールが折れた。
「ちゃ、ちゃ、ちゃ、げにまっこちこの世界の剣はなまくらでいかんぜよ。切れ味はともかく、この脆さはなんとかならんちあ」
えせ高知弁をしゃべる女性は、さほどあわてずバックパックから予備と思われるシャムシールをとりだした。
こともなげに仲間が両断されたことを警戒したのか、アーミーアント達はすこし包囲の輪をひろげ顎をガチガチ鳴らしている。
「かかってこんがか?なら支度させてもうらうぜよ」
包囲するアーミーアントにらみつつ、バックパックをおろした女性は、その中から何本も剣をとりだし、地面に突き立てはじめる。
「なまくらで、脆いんはわかっちょるきの。予備はたくさんあるぜよ」
ネコ科の猛獣を彷彿とさせる凄みのある笑みを女性は浮かべる。
「よっしゃこれでいいき。準備できたがやき、あしからいかせてもらうぜよ」
素早い身のこなしで、包囲の一角にいる大きめのアーミーアントを袈裟がけに切りつけ、返す刀で隣のアーミーアントの首を狩る。
横から攻撃してきた爪を払った時、また剣が折れた。まるで当然予測できたかのように、残った部分をアーミーアントの顔面めがけて投げつけ、もう一体に蹴りを入れて距離をあける。
「あぁ〜大業物とはいわんき、森じいちゃんの数物でもあれば、こがなやつらなで斬りにしちゃるがやき」
えせ高知弁の女性は、ぼやきながら、地面に突き立てたシャムシールを抜く。
「あるよ、めいちゃん」
太郎はアイテムボックスから一振の日本刀を取り出した。
青海波を鍛える前につくったもので、黒神鋼はつかっていないが、神鋼でできた最高品質の一振である。
銘を「壱花」(いつか)といい、柄先を3寸ほどながく、反りはやや深め頑丈な鉄鞘に納めた居合刀だった。
「おまん、なんであしのあだなをしっちゅう?まぁこまいことはあとで聞くか。刀だ!刀だ!まっこち刀きや」
めえちゃんと呼ばれた女性はキャットフードに猛然と駆け寄る猫のように一目散に太郎に飛びつき刀をひったくる。
「ちゃ、ちゃ、ちゃ、げにまっこちたまらんぜよ。本物の刀ちあ。美より武に優る造り、しかも、森じっちゃんの流れを感じる。いよいよ、おまんがなにもんがか、きになるき」
太郎からふんだくった壱花をすらりと抜き刀身を眺めながらめえちゃんが言う。
「まっ早いとこ、話を聞くためには、こいつらをちゃっちゃと片付けにゃ〜いかんき」
刀身を鞘に納めた、少しベルトを弛めるとめえちゃんは壱花を腰にぶっさした。
洋服のベルトに差せるよう金具をつけてあったのだが気がつかなかったようだ。
あれ、最初はいいけど、あとでズボンが下がってきて動きにくくなるんだよなぁ〜。
だから、ベルトに差せるような金具をつけたのだ。
洋装に刀を差す日本の警官や軍人ために金具ができたのは明治になってからである。幕末には刀を差すために洋装なのに腰に帯を巻いたりしていた。
「めえちゃん、金具つかいなさい。ズボンさがるよ」
太郎は、思わず子供の頃を思い出すように注意する。
「めえちゃんじゃない!あしは入鹿 真維がぜよ」
やや顔を赤くして叫ぶと、金具をつかって刀をとめなおした。
外見、かなり若返っているから、真維は私に気がつかないんだな。じいちゃんなんだが…
太郎は少しため息をつく。
なんでウィンディアに現れたかはわからないが、目の前にいる女性は孫の入鹿 真維に間違いない。
太郎の幼馴染みで剣術家の入鹿 真元、その息子、真来に嫁いだ娘、美鶴子の子供だ。
幼い頃からやんちゃでおてんば、しかし、類いまれなる剣才をもち、中学にあがるころには、古流武術である入鹿流の免許皆伝をえている。
もっとも現在の入鹿家の生業は剣術道場ではなく、賃貸を中心とした不動産業なので、どちらかと言えばそちら方面の才能を期待されていたが、体を動かすいがいはさっぱりな脳筋娘なのだった。
「あしは、脳みその半分を真太のために置いてきたんよ」
といってはばからない。
余談になるが、真維の弟、真太は姉の逆で、子供のころからおとなしく、本が好きで頭のよい子供だった。
実家の不動産業に役立てるために、といって難なくK大法学部にはいり、司法書士の資格をとるつもりが勢い余って司法試験に合格している。
どちらも、太郎にとっては目にいれても痛くないほどかわいい孫だった。
チ〜ン!
呼び鈴を強く鳴らしたような音が響く。
少し遅れてアーミーアントが真っ二つになった。
「ちゃっちゃっちゃ、こりゃ〜ええ刀ぜよ。手に吸い付くように馴染むし、切れ味がたまらん」
音の正体は高速で放った抜刀術による鍔なりであった。
「これなら、こげな敵もののかずじゃないぜよ」
真維は、無造作にアーミーアントの群れへと足を踏み入れた。
風に舞う柳の葉のように、ゆらゆらとアーミーアントの攻撃を交わしながら、歩く。
鍔なりがするたびに、1、2体のアーミーアントが両断され倒れた。
強い殺気を放つでもなく、気合いの声をあげるわけでもなく、ただ飄々と散歩でもしているかのように、アーミーアントの中を歩く。
それなのにすれ違ったアーミーアントは次々と倒れていった。
半数以上のアーミーアントが倒れた時、逃げ出したのか援軍を求めに出たのか一匹のアーミーアントが太郎達に背を向ける。
踏み込んでも、一歩切っ先が届かないであろう間合い。
「身腰に三重の理、柄先に三分の利、切っ先三寸風で斬る!」
呪文のようにつぶやきながら真維は、神速の踏み込みのあと、大きく体を引き絞り、両手で抜刀術を行う。
切り上げた切っ先が天を指す。
刃は背を向けたアーミーアントには届かなかったように見えた。
「入鹿流奥義、風の斬」
アーミーアントは数歩進んだところで、逆袈裟斬りに両断される。
カマイタチ、真空波のようなものが切っ先の届かない敵を切り裂いたようだ。
その後、アーミーアントの組織的な抵抗はなくなり、散り散りに逃げ始める。
体力が回復してきた太郎も加わり、二人でアーミーアントを殲滅していった。
お読みいただき、ありがとうございました。
著者は高知にいったことがありません。こんな言い回ししないぞということもあるかと思います。
真維の台詞はあくまでエセ高知弁としてご理解ねがいます。




