最高品質を目指して
おまたせしました。今週も増量中です。
夜が明ける前、稜線が少し白み始めたぐらいに工房に入る。
魔力炉に木炭をたっぷり入れて点火、充分暖まった頃合いをみて鉄材を入れた。
鉄が溶けはじめても蓋を開けず、炉のなかで木炭の炭素を充分吸収することを願いしばらく鉄を煮込む。
夜が明けた頃を見計らい蓋をかけ型に流し込んだ鉄を鑑定すると「銑鉄」と標示された。
まだ、融けた状態の銑鉄に対して気絶寸前の魔力をつっこんで錬金術を発動する。
込めたイメージは、折れず、曲がらず、よく切れる。そして、錆びにくい鋼。
鉄をベースに、鉄を硬くする炭素、強くするクロム、そのほかにもイメージを実現するために必要な物質が原子レベルで均一に理想の配分で構成され、不要な不純物がまじらない純粋な状態への変換を錬金術で行う。
火を扱う工房で気絶するのはまずいので使用する魔力を気絶するギリギリまでに限定した。
光が魔方陣となり鉄へと吸い込まれ、熱による赤みがかった光とは別の金色の光が鉄を包み消える。
鑑定すると、「神鋼」と標示された。
神鋼
究極、最高品質の鋼材。
どうやら、うまくいったようだ。そして、錬金術のレベルも上がった。
ほどよく冷えたところで、型から外し、やっとこで掴み鍛造を開始する。
今度こそ、願いを込めてハンマーを振るう。
火花はほとんど飛ばない。
汗だくになりながら、折り返しを3度行い、成形に移る。
刃渡り20センチほどのナイフに成形し、焼き入れを行う。
今度は、折れず少しの欠けもなくナイフが焼き入れを完了する。
冷めるのを待つ間に、街へ出て朝食をとったがナイフが気になって落ち着かない。
気もそぞろに屋台でホットドックにかぶりついていると、ピノに見つかった。
「おはよう!タロウ、最近モンスターが多くて忙しいんだよ〜早くけりつけててつだってね〜」
ひとしきり文句をいわれるかと思ったが、急いでいるようで、パンを加えたまま走りさっていった。
工房に戻り、しっかり覚めたころを見計らって砥を始める。
砥石の上を滑らせるが、減るのは砥石ばかりで刃が研げていない。
神鋼の硬度は砥石の上をいくようだ。
迷わず、砥石に錬金術を使う。イメージはダイヤモンドに近い固さの砥石だ。
鍛冶と冷めるのを待っている間に魔力は回復していたのだが、またごっそりと持って行かれる。
錬金術で強化された砥石はしっかりとナイフをとぎあげてくれた。
暗い青色がかった滑らかな光沢を帯びた地金のナイフが出来上がる。
なかなか凄みのある刃に満足しつつ太郎は、手早く柄をつけ鞘をつくって完成させた。
鑑定してみる。
神鋼のナイフ
上級の切れ味を持つ高品質のナイフ。
まだ、どこかに改良の余地があるのか。
完成したナイフをウェットに見せにいく。
「おぉ!完成したのか!見たことのねぇ色をしてるな」
鞘から抜いてナイフを傾けたりしながら眺めていたウェットは、手近にあった薪をつかって切れ味をためす。
「おぉ!なんじゃこりゃ!すげぇ切れ味だな!薪がまるで粘土みてぇに削れるじゃねぇか。魔力の通りも悪くねぇ。作り方をぜひ教えてくんねぇか」
子供のように喜ぶウェットに太郎は申し訳なさそうに頭をさげ錬金術を使ったことを説明する。
「錬金術かぁ〜そいつは難しいな。鉄の質か・・・まてよ、あれならいけんじゃねぇか?ちょいとついてきな」
ウェットは太郎を工房の奥へと案内する。
倉庫と住宅部分を通り抜けた奥にひときわ大きな建物があった。
「うちの秘密兵器、二段炉だ」
建物の中にあったのは、大きな炉を二つ重ねたような形の大型炉だった。
「特別な注文があった時にしかつかわねぇ炉だ。上の炉で溶かした鉄がしたにたまる。下では鉄が冷めない程度に熱しつおいて貯める。大体3日ほどためておいた鉄の上と下に仕切りをいれて真ん中の鉄だけ先に取り出す。その鉄を俺たちゃぁ芯鉄って呼んでる。そいつで武器をつくると上質な武器になる。こいつをつかってやってみねぇか?燃料や材料はこっちでよういするからよ。」
たたら炉と同じような理屈に思えた。
願ってもない話だ。燃料は木炭をつかっていることをつげて、材料と人手をかりることにする。
「木炭?なんだそりゃ?石炭じゃだめなのか?」
石炭では、不純物が混じりやすいことをつげて、後で木炭の作り方を教えることを約束した。
炭焼き窯は前世で小さいものだが作ったことがあるので大丈夫だろう。
この日は、炉の掃除と木炭づくりに明け暮れた。
翌日、日の出とともに工房を訪ねて二段炉に火をいれる。
ウェットと3人の弟子たちが温度管理をやってくれることになった。
温度が下がり始めたら、砕いた木炭を足して維持するのだ。大量の木炭を使うと思われるので、薪を魔力のゆるすかぎり木炭にかえておく。
魔力の回復を待つ間に炭焼き窯の説明もしておく。
すると、明日にでも庭の空き地につくることになった。
たたら製鉄にならって4日間、鉄を溜めておいてもらうことにする。
炭焼きにも時間がかかるが、ウェットはこちらにも協力してくれた。
太郎は、こんなにも全面的に協力してくれることが不思議でウェットに理由を尋ねてみる。
すると、今の技術に限界を感じていて、ここ数年よりよい武器を魔法に頼らず作る方法を模作し続けていたのだが、壁にぶちあっていたそうだ。
それで流れ人である太郎の鍛造に希望の光を感じたらしい。
慌ただしく4日間が過ぎ去り、二段炉で熱しつづけられた鉄を型に流し込んだところで鑑定してみる。
玉鋼
炭素を多く含んだ硬質の鋼。
どうやら、鍛造に耐えうる鉄の作成に精巧したようだ。
型から外した玉鋼を試作工房へ運び鍛錬を始める。
ウェットの食い入るような視線を感じながらハンマーを振るう。
火花が少なくなるまで、叩いては熱しを繰り返し鍛え、次に、縦横縦の順に折り返す、最後に成形となるが、せっかくの玉鋼なので日本刀の形にした。
重厚で反りは浅め、記憶のなかの同田貫を思い浮かべて形つくる。
汲みたての井戸水を魔法で冷やし、高温で焼き入れを行う。
厳しい焼き入れをやってみたが、成功したようだ。
冷めるのを待って砥を入れると滑らかな地金に黒い木目のような模様の入った刀が完成する。
鑑定してみる。
無銘の刀
高品質の刀
と表示される。
このまま、銘を切らずに白木で柄と鞘をつくり完成させる。
あっ刀匠というスキルが派生した。
「すげぇ切れそうだが、こんな華奢な剣が実用に耐えるのか?シミターやシャムシールだってもっと太くつくるもんだが」
鞘から抜いて刀身を眺めているウェットは首をかしげた。
「気を付けないと指を落としてしまいますよ。私の国の伝統的な剣です。ちゃんとした使い手が使えば石の柱だって両断しますよ。もう一本普通の直剣も打ちますね」
玉鋼はまだある。焼き入れ用の水を交換して、今度は騎士が使っていたような広刃の直剣を作る。
日本刀よりずっと太い中心部に柔らかさの残る鋼、外側の鋼は固く鋭くなるよう叩き鍛えた。
中央に溝を彫り血抜きの道をつける。
先ほどよりは温度差のすくない焼き入れをし、砥を入れると、刀身には黒い線が木目のように浮かび上がった。
シンプルな鍔をつけ柄と鞘も簡易に仕上げる。
鑑定してみると
鋼のブロードソード+5
最高品質の鋼で作られたブロードソード。
やはり、神鋼のナイフや刀にはまだまだのびしろがあるようだ。
ブロードソードを受け取ったウェットは庭で自ら試し切りをして歓声をあげている。
「タロウ!こいつはすげぇ剣だな!俺ぁ剣術もかじってるからよ。こいつは次元がちがうぜ。こいつの作り方を教えてくれ。頼む、この通りだ」
ウェットは深々と頭をさげる。
「頭をあげてください。私も未熟ですが、一緒に鍛錬しましょう」
ここまでこれたのも、ウェットの協力があったればこそだ。
太郎が目指す武器をつくるには、刀匠のレベルをあげなければならない。
「これからも、よろしくお願いします。」
太郎は土下座しかねないウェットを起こし固い握手をかわした。
お読みいただきありがとうございましたm(__)m
今週で完成するはずだったのに伸びました。予定にない刀やら剣やらつくってるし、これがキャラが勝手に動き出すというやつなんでしょうか




