ハチドアの唄
お待たせしました。
豚肉の味噌漬け、豚みそを仕込んだ夜は、襲撃もなくすんなりと夜が明けた。
濃い朝もやにつつまれた早朝、出立前に確認してみると、いいぐあいに漬かりつつあるようだ。夜には美味しく食べられるかな?
稜線から朝日が差し込み明るくなった街道をひた走り、ハチドアに到着する。
太郎はすぐに軍の本部へ行き、大量の荷物を広げた。
「これほどの荷を一人で運べるとは、やはり軍の専属にならんか?給料は弾むぞ」
どこからともなく、モンド―が現れ太郎を勧誘する。
「しばらくは、自由に旅をしてみたいので、もうしわけありませんが」
太郎が丁寧に断ると残念そうに、気が変わったらいつでも連絡をくれ、歓迎すると言い残して、去って行った。相変わらず、忙しいようだ。
副官らしき人物から、依頼完了の書類をもらい太郎とピノはハチドアの冒険者ギルドへと向かう。
数日離れただけだったが、がれきは綺麗に片付き、新しい建物も増え、町は着実に復興してきているようだ。街ゆく人々にも、どこか活気を感じる。
冒険者ギルドも混雑しているが、難民キャンプのような様相から脱し、多くの冒険者でにぎわっている感じであった。
「冒険者ギルドへよ~こそぉ~♪お祭りの日に帰ってくるたぁラッキーだなタロウさん」
背は低いがメリハリのあるプロポーションをした猫耳娘が声をかけてくれる。
「今日はお祭りなんですか?これ依頼の完了書類です。あと「歌う猫亭」のご主人から頼まれた手紙です」
「復興と明日出立する軍の勝利をねがって夜にはお祭りをやるんだってよ。あぁおやじからだ、しょうがねぇからへんじかくかにゃ~。これボーナス込の報酬2金貨だ。またよろしくってさ」
やっぱりこのこがおやじさんの娘らしい。そして、今回はそんなに苦労したわけじゃないのにボーナスが付いてる。
「そういや、自己紹介してなかったな。僕はタマミール知ってのとおり王都の生まれだけど、この街がだいすきなんだ。そういや、タロウさんを訪ねてきた女の子がいたけど、王都であわなかったかい?」
タマミールはすこし恥ずかしげに猫耳をピクピクさせつつ言った。
「誰でしょう?心当たりがないのですが、すぐ王都を出てずっと騎馬で移動いていたのですれ違いになったのかな?会いませんでしたよ。この街いい街ですもんね」
こちらに来てから、ずっとドタバタしてて知り合いはすごい限られているとおもうんだけどなぁ。
疑問に思いながら、太郎とピノは冒険者ギルドをでて宿を探すことにする。
何軒かの宿は満室で止まれず、港に近い場所で焼け残った建物と新しい建物がつぎはぎになってる小さい宿「だみ声セイレーン」に部屋をとることができた。
宿で一休みして、たらいにお湯をもらって体を拭く。こういうときは、やっぱり湯船に足を伸ばして浸かりたいと思うのは日本人のさがなのだろうか。
夕暮れちかくなると、どこからか笛や太鼓の音が聴こえてきた。
それにつられるように宿をでると、広場に足場が組まれてその上で数人が楽器を演奏している。
廻りには屋台も集まっていて、魚や貝を焼いたものや、果物を絞ったジュースや酒、細工物、ラッパや笛のような楽器なんかを売っていた。
音楽にあわせて、手拍子したり、踊ったりとみんな楽しそうだ。
そのうち、リクエストがはいったのか、演奏者がしめしあわせて、すこし重厚な感じの前奏を始めると、皆が手を止めて唄い始めた。
たとえ、地が割れ裂けるとも
幾度、大火が襲うとも
母なる海のあるかぎり
我らはここへ還りくる。
たとえ、大波さらうとも
幾度、戦禍が襲うとも
母なる海のあるかぎり
我らはここで立ち上がる
たとえ、今は生死をわかつとも
幾度、生まれ変われども
母なる海のあるかぎり
ハチドアの民は還りくる。
寄せてはかえす波ごとく
いくど、いくたび、くりかえすとも
涙は潮風にのせて立ち上がる。
母なる海に還りくるハチドアの民
新しい街、変わらぬ笑顔でむかえよう
最後にはみな、肩を組み笑顔で泣きながら歌っていた。
出店で隣り合ったおっさん曰く、ハチドアの街は過去に何度も災害や戦禍、モンスターの襲撃にあって壊滅状態になっている。
それでも、このハチドアの海に惚れてここに居着いた人がたくさんいるので、くじけず諦めず街はよみがえってきたんだそうだ。
そんな、ハチドアの人々の想いが唄になったのがさっきの曲らしい。
失ったものを嘆く哀しみは簡単には癒えやしない。でも、だからといって楽しむことを忘れない諦めない。まるで生まれる前からハチドアが故郷のようにやってくる旅人を笑顔でむかえるよう、できるだけ早く立ち上がるのがハチドアの流儀なのだそうだ。
この夜、街の人々と祭りの雰囲気に飲み込まれるように、おおいに飲んで喰って騒いで唄い踊った太郎は、ますますこの街が好きになったのだった。
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※誤字修正しました。 避けるとも→裂けるとも




