決着
お待たせいたしました。
少し短いですが切れのいいところできります。
両ひじをはり、右肩に担ぐように剣を構えた隊長は、おどろくべきスピードで踏み込み振り上げた剣をいっきに降り下ろす。
あまりに鋭い一撃に、大きく後ろへ下がりかわす太郎。
まるで示現流一乃太刀のような攻撃だ。ならば、交したあとに隙ができる。次は最小限で交わし踏み込む。
開いた間合いに、再び隊長は構えをもどす。
張りつめた殺気が二人の間に満ち、風が通りすぎる。
いつしか、互いに戦闘をやめ二人の一騎討ちを見守っていた。
再び隊長が動く。するどい踏み込みから、伸び上がるように大上段から剣をふりおろす。
太郎は、わずかなサイドステップと半身を開いてかわすと踏み込んでパンチを放つ。
ガギィン!
(直撃!ダメージ大、右腕昨日低下60%)
降り下ろされた剣を隊長は、身を屈め担ぎ上げるように、振り上げたのだ。
攻撃のため踏み込んだのがカウンターとなって太郎を襲い、もんどりをうって吹き飛ばされる。
一乃太刀の返し…なんて小説で読んだんだったかな?
吹き飛ばされながら、太郎はぼんやりと考える。
痛覚もやわらげられているのか、ジンジンとした感じしかしない。
あえて、吹き飛ばされるままにとばされ、距離をとる。
感触から致命傷を与えたとは思っていないのか、隊長は油断なく構えを戻した。
追撃の選択もあったが、止める。あと一撃、二撃でかたがつくならしかけるが、今の一撃は板金鎧を着た敵でも両断しうる一撃だったのだ。その一撃ですら、致命傷にならない。一撃、二撃で方がつくとはおもえなかった。
太郎は派手に転がりつつ、飛び起きる。
やはり、この敵を無傷で倒すのは無理のようだ。
太郎は覚悟を決めた。
前世でもあった幾度かの修羅場、その時に感じた感覚。
すっと静かに澄んでいくような感覚。
切り結ぶ太刀のしたこそ地獄なり、身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ。
前世で読んだ時代小説の一節を呟き、太郎は全力で一直線に突っ込んだ。
隊長は、突撃してくる太郎にみたび右袈裟斬りの一撃を放つ。
攻撃を受け流すために掲げられた太郎の左腕をなかば切断し左肩へと食い込む。
さらに、いつのまにか左手で右腰の剣を抜き放ち、胴を深々と切り払っていた。
(直撃2!ダメージ甚大!機能60%低下)
『奥義、十字斬…ごふぁ…』
隊長は、口から血を吐き天を仰ぐように倒れる。
左腕、左肩、右脇腹を犠牲にしながら太郎の右拳がついに隊長の左胸をとらえたのだ。
『隊長がやられた!やべぇぞ!逃げろ!』
襲撃者達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
ジンジンとした痛みをこらえながら、他の怪我人の分も含めて、10本のポーションを取り出したところで、緊張が緩んだのかフッと意識が途切れた。
異形の怪物に変身した太郎は、多くの敵と敵のリーダーを倒したあと、ポーションを取り出したあと糸がきれるように倒れた。
『太郎!』
ピノが慌てて駆け寄り抱き起こすと、変身がとけ最後に残ったベルトが砂になり風にとばされていく。
怪我はしているものの、呼吸も落ち着いているので、命に別状はないようだ。
『とにかく、ハチドアへ向かおう。軍の医療班もいるちゃんとした治療ができるはず』
ポーションで治療を受けレトリーに肩をかりたラッシュが指示をだす。
治療が間に合わなかった冒険者二人が命を落とした。
遺体と意識のない太郎を馬にのせて一行はハチドアへ急ぎ走り出す。
白い濃い霧のような闇の中、長い黒髪に女の子間違うような大きな瞳と美しい目鼻だちをした少年が立っている。
『僕のつくった玩具をつかってくれてありがとう。この世界にはまだ僕が残した玩具があるから、見つけたら使ってね。』
『あなたは誰ですか?』
太郎はたずねた。
『僕はあなたの先輩だよ。この世界を救うためにやって来た者さ。あなたと違って世界への影響を考えて赤ん坊として転生したんだけどね』
『あなたは、もしかして…』
『魔導王なんて、たいそうな称号をもらっちゃった、ユーブリックです。僕の作った街を救ってくれてありがとう。』
『私は何もできませんでした』
『あなたがいなければ、キンクンは復活できなかったよ。まったく帝国も困ったことをしてくれる。世界のバランスを考えて欲しいよ。あぁごめん、単なる愚痴だよ。あなたはこの世界でも、平凡に目立たず生きようとしているけど、それはこの世界に流れ着いた流れ人としても、管理者に選ばれてやってきた転生者としても、とても非凡で不自然なことなんだよ。誰にもなんにも遠慮することはないんだよ。チートでずるくても、それは味方のラッキー敵のアンラッキーというものさ。さて、もう時間だね。ささやかなプレゼントを受け取ってくれたまえ。では、よい転生ライフを』
最後にイタズラ小僧のような笑みを浮かべたユーブリックは白い闇に溶けるように消えた。
お読みいただきありがとうございました。




