強敵
戦闘が続いています。ファンタジーらしからぬ技が登場します。
レトリーにポーションをかけると太郎は周りを見渡した。
騎士たちは、いまのところ危なげなく戦っている。冒険者の方の敵を先に倒した方がよさそうだ。
攻撃対象を決めると、アタックラインと推奨攻撃方法が表示される。それに従い、太郎は戦闘を再開した。
冒険者たちは、モンスターと戦うことに慣れていても、対人戦に慣れている者は意外と少ない。
隊商の護衛で盗賊と戦闘する機会がまれにあるが、盗賊たちも冒険者が護衛についている場合、襲撃を避ける不文律があるため、喧嘩レベルはしょっちゅあるが、兵士や傭兵として戦争に参加しないかぎり命の奪い合いである対人戦闘を経験することはあまりなかった。
不慣れな対人戦闘にとまどう冒険者たちは、実力を発揮しきれずにすでに二人が倒されている。
太郎は、いま、まさに冒険者の一人にとどめをさそうとしている敵にとび蹴りをくらわし、その勢いのまま体当たりでもう一人をふっとばす。
あわてて切りかかってくる敵をかわしざまに体ごと回転させ勢いをつけたひじ打ちで沈める。
『貴様の相手は俺がする』
さらに、次の目標に向かおうとした太郎の前に、射手の隣にいた男が立ちはだかった。
革鎧の一部に金属で補強した鎧をつけ、左右の腰に反りのある剣を身につけている。
襲撃者からは隊長と呼ばれるその男は左腰からゆっくりと剣を抜く。
その姿には一分の隙もなく、かなりの手錬れのようだった。
太郎は、アタックラインの指示に従い、やや右から左に角度をつけたフックとアッパーの中間のような、いわゆるスマッシュというパンチを放つ。
左にかわす隊長にむけて太郎はさらに、抱き込むような鋭さで左のフックを放つが、これもわずかに後ろへ下がりかわされた。
フックの勢いをそのままに、体を回転させ裏拳を放ち、さらに左足での回し蹴りへとつなげ、それがよけられると流れるように右後ろ回し蹴りが放たれる。
『速いだけの素人だな」』
高速で回転しながらの攻撃をすべてかわした隊長は反撃に転じた。
加速する世界にいる太郎でも、さばききれないスピードで隊長の剣は襲いかかってくる。
ギャン!
さばききれず、隊長の刃が太郎の胸を薙ぐとまるで鋼鉄に切りつけたような音と火花が散った。
(直撃!ダメージ軽微)
この姿は、金属鎧を着ているよりも強固な防御力を誇ることに安心しながら、太郎も反撃にうつる。
斬撃をかいくぐり、屈みこんで下段回し蹴りによる足払いから続けて、後ろ宙返り蹴りいわゆるサマーソルトキックを放ち距離をとる。
隊長が二つの蹴りをバックステップでかわした分と、宙返りで飛んだ分、二人の間合いがひらく。
銃か光線といった飛び道具があれば、と太郎は思ったが原点であるこのモデルにはその機能はない。
『バッタみたいに素早く飛び回るうえに、鉄のごとくかたいか・・・やっかいな』
隊長は剣を握りなおすと、素早い突きを放つ。
その剣先を、バックステップでかわすと、まるで伸びるようにさらに剣先が突き込まれてくる、体をそらせてそれをかわすと、さらに剣先は伸び肩口に衝撃がはしる。
(直撃!ダメージ小)
一段、二段、三段!三段突きか!
太郎は、かつて読んだ剣豪小説に出てくる三段突きを目の当たりにした。
驚く太郎に再び突きが襲う。
一段目は、踏み込みを浅く腕を伸ばして突く、伸ばした腕を戻しながら、よりも大きく踏み込んで2段目を撃つ、そして三段目は再び腕を伸ばして突く。
見事な技だった。
だが、一度見てしまえばアシストによる予測もたがえることなく回避できる。
ズギャン!
(直撃!ダメージ中)
太郎は見事な技に感動を覚えつつ三段突きをよけ反撃に移ろうとした刹那、顔面に強い衝撃が走った。
平突きからの払い!
のけぞり倒れながら太郎は前世の知識からどんな攻撃を受けたのかを理解する。
肩口に向かった三段目は太郎にかわされたあと、横に薙ぎ払われたのだ。
頭がすこしくらくらするが、まだ闘える。
相手は、疑いようのない達人だ。達人に凡人が勝つのにはどうするか・・・
「タロ坊、ロ○ケみてぇに体格も武器もずっとすぐれた連中とやるときはな、捨てるんよ。なんもかんもぜんぶ捨てて、ただ相手を倒すことだけをもとめるんじゃ。そうすりゃ、相打ちにはもちこめる」
前世の若いころ、北の大地で塹壕を掘りながら聞いた日露戦争を潜り抜けた熟練兵長の言葉があたまをよぎる。
相打ちを狙う。
相手の剣はそれほど長くない。向こうの攻撃が届くなら、こちらの攻撃も届くはず。
僅かな思考の隙をついて、再び三段突きがくりだされる。
伸びてくる切っ先を、かわすのではなく、狙いをわずかに反らす。
ギャイン!
隊長の剣が、右肩をえぐるのを構わずに、太郎はハイキックを放った。
(直撃!ダメージ中、右肩稼働利率30%低下、回復まで35秒)
頭部を狙って放たれたハイキックは、僅かにかわされ肩当てを吹き飛ばしたのみだった。
『恐いことを平気でやるな、おそろしい素人だ。勝負を急がねばなるまい』
肩当てをとばされ驚きの表情を浮かべた隊長がつぶやく。
隊長は、意を決したように、すばやいバックステップで間合いを広げると、ゆったりと剣を右肩に担ぐように構えた。
緊迫した鋭く濃密な殺気が二人の間に満ちてゆく。
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