異形の
今回も戦闘回です。本作初、主人公がチート戦闘をします。してる…よね?人が死にますのでご注意ください。
太郎の視界は薄赤く染まっていた。細い線の六角形が視界を区切っている。
まるでパワードスーツの中からディスプレイごしに見ているようだった。
視界の右端には、実行中スキルと書かれた枠の中で、超回復、身体強化、加速、攻撃支援、防御支援、技能付与(格闘術)という文字が点滅している。
『とにかく、ピノを助けなきゃ』
太郎はつぶやくと、スローモーションのように見える世界をやけに軽い体で戦斧の男にむかった。
戦斧の男は、ピノの髪をつかみ顔を持ちあげて下卑た笑いを浮かべている。
ピノをつかんだ左腕に弧を描いた矢印がついた。
矢印の根本にはアタックライン1手刀推奨と書かれている。
チョップを振り下ろせということか、太郎がアタックラインを認識すると次の矢印が現れた。
アタックライン2右足蹴り推奨、裏拳でも可と書かれている。
ラインのとおりに右手刀を振り下ろすと、金属の手甲で覆われている腕がまるで粘土のように簡単に折れ曲がった。
重心を左足に残し横蹴りの要領で右足を放つと、蹴りがあたった部分の鎧は大きくへこみ、まるでワイヤーアクションをつかった映画ワンシーンを見てるかのように、戦斧の男がふっとんでいく。
以前、戦場で拾った回復ポーションをアイテムボックスから取り出し、ピノにかけようとしていると、視界の一部分が点滅し文字が表示された。
(警告!飛び道具による攻撃飛来中!着弾まで20、19、18・・・)
スローな世界では、鉄弓による攻撃すら人が歩いている程度のスピードに見える。
のろのろと飛んでくる矢をよけるのはたやすいが、矢に矢印が付き、コメントが表示される。
(投げ返し推奨!タイミングカウント10、9、8・・・)
太郎は指示に従い、槍のような矢の中ほどをつかみ、勢いをそのまま生かすように右に一回転し、飛んできた方向へ投げ返した。
驚くべきことに、先程より速度が上がり走るより早いぐらいのスピードで飛んだ矢は二の矢を番えようとしていた射手の胸を貫き後ろの地面に突き刺さった。
射手は、百舌鳥のはやにえのように地面に突き立つ矢で串刺しにされたまま、ぴくりとも動かない。
人を殺したというショックは不思議と今は感じなかった。
まだようやく二人片づけただけだ、敵はまだたくさんいる。太郎は、次の敵へと向かった。
レトリーはピノの悲鳴で意識を取り戻した。右肩が焼けるように痛い。そうとう血を失ったのか、震えるような寒さを感じる。
かすれる視界に映ったのは腹を貫かれ倒れる太郎だった。
回復魔法を!
おぼろげな意識の中、得意ではないが、少しは使える回復魔法を使おうと呪文に集中しようとするが、焼けつく痛みにままならない。
太郎は、おそらく覚醒前の流れ人だ。
流れ人は、常人では遠く及ばない能力や才能を持つ、まれに、その才能や能力が眠っている流れ人がいる。
一説による、あまりにも強大な力であるため、流れ人本人がこの世界になれるまで制限されているのだという。
流れ人のわりに地味な能力しかもたない太郎は、おそらくそれなのだろう。
この、絶望的な状況をひっくり返すのは太郎しかいない。
自分の命よりも太郎の回復を優先させなば・・・
悲痛な決意を胸に呪文を再び使おうとしたレトリーの眼に光がとびこんだ。
光の中から現れたのは、異形の怪人だった。
赤く光る複眼のように線の見える大きな目。
銀色ににぶく光る頭部には二本の短い触覚があり、口とおぼしき場所には波線が引かれている。
首には、赤いマフラー、胸と腹部は、筋肉を模したような凹凸のある緑で、手足、背中はなめならで光沢のある見たことのない黒い布に緑のラインが入っており、銀色の手袋に銀色のブーツをはいているようだ。
伝説や絵本でも、見たことのない姿である。
バキン!
それは、まるで瞬間移動したかのようなスピードで戦斧の男の前に移動すると、ピノを捕らえていた左手を易々とへし折り、大柄な戦斧を持った男を軽々と蹴り飛ばした。
そのスピードとパワーに驚いていると、それはどこからともなくポーションを取り出したかと思うと、突然一回転させる。
グフォ
レトリーの目にはとらえられなかった攻防が存在しまみたいだ。
どうやら、やつはレトリーがよけるまなく受けた鉄弓による攻撃をよけるだけではなく、投げ返したようである。
しかも、一撃で相手の胸を貫き倒した。
それは改めてポーションをピノにかけると、今度はこちらにやってきて、レトリーにもポーションをかける。
『よかった!生きてる、がんばって、よっ』
その異形からはタロウさんの声がした。
レトリーに声をかけているまに、両手剣の男が攻撃をしかけてきたが、軽々とかわす。
かなり鋭い攻撃が異形の太郎を襲うが、完全に見切っているようで危なげなくよけながら、相手の剣を拳で上に弾く。
相手も熟練の戦士らしく、かなりの強さで弾かれた剣を手放すことなく堪えたが、一瞬、バンザイをしたような形になる。
その隙を逃すいまの、太郎ではない、地面に落ちた物を拾うように、地上すれすれまで拳を下げ、そこから一気に相手の顎に目掛けて全身でのびあがりながら、振り上げた。
ぐしゃあ
振り上げられた拳は、相手の顎を砕き、そのまま天にのびあがるように、突き上げられる。
捻りが加えられているようで、勢いあまってとびあがった太郎は、拳を突き上げた姿勢で横に一回転し着地する。
相手は、天を見上げたまま、膝から崩れ落ちた。
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