ある日、森のなか
混雑で投稿が少し遅れてしまいました。
少し短いですが、切れのいいところで引きました。
『よし、出発するぞ』
いち早く正気に戻ったラッシュの掛け声で全員がふたたび動き出した。
太郎はレトリーの、ピノはラッシュの後ろに乗る。
引っ張り上げてもらった馬上は、思っていたより視界が高く感じ視野も広くなりすこし怖い。
一同は、朝もやのけむる街の中を、速歩で抜ける。小刻みに上下する揺れが結構しんどい。
門を抜け街道にでるとさらに速度があがり駆歩になった。速度が上がり今度はうねるような揺れとなる。内股がこすれ、腰が強ばるが、急ぎ旅なので我慢しながらそのまま2時間ほど走り、休憩となった。
ハチドアへ向かう街道はほぼ涙河にそっているので、河岸に出れば水場に苦労しなくてすむ。
馬に水を飲ませ、体をふき、角砂糖をやる。騎士や冒険者達が自分や替えの馬の世話をするなか、太郎は初めての乗馬で腰や内股がしびれ立ち上がることすらできなかった。
休憩をおえると再びレトリーに引っ張り上げてもらい移動を再開する。
その後も、2時間ほど走り休憩するペースで走り続け、太郎がすっかり疲れ果て、ほとんどレトリーに背負われているような状態になったころ、日が暮れ野営することになった。
騎士や冒険者たちはふたたびてきぱきと行動し、簡易なテントを立て、火をおこしまたたくまに野営の準備が完了する。何人かは近くに狩りに出かけ鳥や兎を捕ってきたようだ。その間太郎はどうにかトイレを済ました以外、立ち上がることもできずにいる。『乗馬ってしんどいんだなぁ…』
へたりこんだ太郎のもとにピノがかけよってきた。
『疲れに効く実をとってきたよ!美味しくないけどね』
元気いっぱいのピノは狩りに同行したようである。
すもものような木の実を受けとりかじると、鮮烈な酸味と深い苦味が口の中に広がった。確かに美味しくないが果汁が心地好く染みる。
そうしているうちに、歩哨は騎士たちが交代でおこなり、疲労の強い太郎はテントも使えることになった。 焚き火を囲んだ夕食は、かたいパンと騎士団スープ。それに捕ってきた鳩と兎を炙った肉である。騎士団スープとは小さな四角い塊を湯に溶かして作ったものだ。その塊は肉や野菜、香辛料、さらに薬草などを煮詰め固めてあるそうで、レシピは騎士団の秘伝なのだという。濃く独特の香味があるコンソメのような味がした。こちらの世界では、香辛料はさほど高価ではないのか、肉には香辛料がふんだんにまぶされ山椒と胡椒を混ぜたような味付けがされている。野趣あふれる肉の旨味を存分に味わう気力がなく、太郎は肉一枚とパン一つを騎士団スープで流し込むように食べると気絶するように眠りに落ちた。
夜があけるまえ、遠くの山の稜線がくっきりしはじめたころ、一行は動き始めた。昨夜とほぼ同じメニューの朝食をすませ、テントを片付ける。
太郎は、ガチガチに強ばり傷む下半身をストレッチでほぐしどうにかするだけでいっぱいいっぱいで作業を手伝うことができなかった。
朝日が夜の闇を切り裂くように差し込むころ、一行は走り出す。
ピノの指導によるストレッチでかなりほぐれたものの、足腰に痛みがのこり力が入らないため、今日はロープでレトリーと縛ってもらっていた。
昨日と同じペースで走り続け、2回目の休憩を過ぎたあと、目の前には鬱蒼とした深い森が広がる。
街道は狭く曲がりくねるようになり、頭上を覆うように拡がる木々の枝により日の光も遮られ暗いところもあった。
『ここが一番の難所っす。ここを越えたらハチドアは目の前っすよ』
レトリーも心なしか緊張しているようだ。
見通しが悪いため速度を落とし、密集して走り続ける。
行けども行けども森の中で、同じ場所をぐるぐるまわっているような錯覚をおぼえ、鳥の鳴き声も不気味に感じた。
一行が幾度目かの大きな曲がり道を抜けようとした時、大きな金属音がしてラッシュが馬から落ちる。
一緒に乗っていたピノも巻き込まれて落ちた。
突然の落馬に驚き慌てて馬をとめようとする一行、馬の嘶きが響くなかラッシュの馬だけが主のないままに走り去る。
その先には5人の男が梯子のようなもので柵をつくり街道を塞いでいて馬を捕まえた。5人は、それぞれ装備は違うが武装しており、一人が大きな鉄の弓をかまえていた。
ラッシュの右肩には、槍のように大きな矢が貫通している。もう少し下だったらピノの頭も危なかっただろう。
ラッシュは意識がないのかぐったりと横たわったままだが、ピノは足をひきずるようにしながらも起き上がり武器を構えた。
『まずいっす、たぶん囲まれてる』
レトリーは青ざめた顔で呟く。
『ある日森の中で出会うなら熊さんぐらいにしてほしいなぁ〜』
ピノの緊張感に欠ける呟きを聞き流しながら、一行は馬を降りて戦闘準備をはじめた。
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