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第七話 ルーン所持者

 開始合図は特にこれといって何も無い。

 日の出と共に試験は勝手に開始となる。有名なカリスティア王国の大鐘は鳴ることが無い。


 刹那、三つの影が俺たち三人を覆った。


 パッと顔を上げてみれば、漆黒の衣を全身に纏ったガタイの良い男が三人。加えて、各々が鋭利な剣を手にしている。

 目元の空いた衣からは強い殺気が漏れている。

 壁を地面のように走り、降りてくる。


 ルメアが木剣を手にするよりも、素早く俺は大気中のマナを発散させる。

 すると、空中で無色透明の爆発が発生する。


「がぁぁあっ!」

「ぐぁぁあ!」

「ぎぁぁあ!!」


 三人はその爆風と衝撃の餌食となり、跡形もなく散った。

 残ったものは、三本の剣だけ。

 金属音を響かせ、それらの剣は地面に落下。


「こういう感じか」

「全く反則だねその技は」


 硬い地面に落ちた三本の剣を俺たちは拾い上げる。

 一本は俺でもう一本はルメア、残りは、と思ったがラナはいらないと首を振った。

 鞘とセットで俺が一本、ルメアが二本所有することにした。


「……強いんだね」

「いや、まだまだでしょ。今のだって影が無かったら気が付かなかった。もっと強くならないと成り上がれないから」

「そう……」


 褒め言葉の一つでもくれるかと思いきや、彼女は素っ気ない態度を返礼した。

 

「うぉっ……真剣って重たいな」


 原材料が木と比べ、真剣は鋼から成っている。

 それを二振りともなれば、三歳児にはちとキツイだろう。


「試験ってさ──」


 俺が口を開いた瞬間、地面がヌプッと音を立て沈んだ。

 顔を上げた瞬間、再び黒衣を纏った者が。

 刃を振り上げ、俺の顔を両断する、かと思われた。


 カァンと金属音同士が衝突する甲高い音が響き渡り、ルメアが間に入っていた。

 間一髪、のように思えたが体格差が裏目に出る。


 ジリジリとルメアが押される、だがルメアは空いた手のひらで魔法を打ち込んだ。

 風刃がその腹に穴を空け、生暖かい血液が滴る。


「ふぅ、大丈夫?」


 ルメアの手のひらを掴み、俺は足を引き抜く。

 最悪なことに足は泥まみれだ。

 今すぐに洗い流したいところだが、そんな余裕は無いだろう。


 と思っていたところ、ハマった右足に水が掛けられた。


「……汚いから」


 歪な顔をしながらラナは水魔法を使っていた。

 それって、善意? それとも悪意なの?!

 まぁ、有難いことには変わりないが。


「話す時間もないな」

「でも、なんとか戦えてるね」


 これが明日の朝まで続くとしたら、夜は眠っている時間も無いということだ。

 となれば、徹宵しなければいけない。

 子供の体には酷だろう。

 ようやく一息つけた、かと思いきや──、


「ぎゃぁぁああ!」


 通路の向こう側で、誰かの断末魔が聞こえてきた。

 俺たち三人は顔を見合せ、すぐさまその方向に走り出した。



※※※



「殺せ! 殺せ殺せ!」

「一人殺せば千ベニーだ!」

「おい! てめぇ俺の獲物だぞ!」

「うるせぇ! 目や耳が無いなら腕を落とせ!」


「やめて! 誰か、きゃああ!」

「だ、れがぁ……!」

「ぎぁぁぁあ!!」


 地獄絵図だ。

 黒衣を纏った男どもが、老若男女年齢問わず皆をなぶっている。

 しかも、四肢を切断され、首が無いものまでいる。


「うっぷ……!」


 地が血で溢れかえったという表現では足りないほどの生ぬるい血液が。

 その瞬間まで人の体内にあった臓物が、ふん尿が飛び出ていた。


「これが、試験、なのか?」

「弱者が淘汰される世界線──」

「……」


 数多の断末魔が悲鳴と、助けを呼ぶ声が混ざり合い複雑に心を蝕んでいく。


「殺せ! 貧民を殺せ!」

「人だけじゃねぇぞ! 家を焼いたら一万だぞ!」

「焼くぞ焼くぞ!」


 それを聞いた刹那、ラナの顔色が初めて変わった。

 虚無か、訝しむという二パターンしかなかった表情に初めて強ばりが生じた。

 やがて、血の気が引いていき、口が小刻みに震え出した。


「やめて!!」


 大声は苦手と言っていたのは嘘であるかのように、彼女は魂を震わせる勢いで声を出した。


「ラナ!」

「ダメだ! やめろ!」


 静止する声なんて聞かずに彼女は麗しい長髪を揺らしてどこかに走って行った。


「あぁん? おいおい!」

「宝玉が来たぜ!」

「ガキに興味あんのはお前だけだっつーの!」


 複数の刃が幼い少女の肉体を屠らんと迸る。

 間に合わな──、


「っ!」


 彼女の肉体が紫色の光を纏ったかと思いきや、彼女を取り囲んでいた黒衣の男たちはバタバタと死んでいく。

 脳天を正確に岩柱が穿ち、風魔法がその死体を遠くに飛ばしていく。


 俺達もその後に続こうとしたが、他の黒衣の男が行く手を遮る。


「ガキだ! 金額は少ないが、足しにはなるぞ!」

「くっそ!」


 大気中のマナを、と思ったが数が多すぎる。

 そうこうしている間には俺も餌食になってしまう。


 腰の剣を鞘から走らせる、そのまま薙ぎに入ろうとした時、腹部に空を切り裂く拳が迫っていた。


「かぁぁっ!」


 マナを左手に集約させる。

 腕に拳が食い込んだが、それはマナの盾によって無効化される。

 勢いまでは殺せず、地面を削りながら後方へ退く。


「ムミョン!」

「構うな、彼女を追え!」


 苦そうな顔をしたが、彼はただ一言を残した。


「信じてるからな!」

「当たり前だ、この程度死んで実力主義を変えられるものか!」


 ルメアは腰から双剣を引き抜く。

 それを縦横に走らせ、敵を蹴散らしていく。

 彼はそこいらの三歳児いや、大人よりも強い。

 

 

 ルメアならば、死ぬことは無いだろう。



※※※



「『拳法家』のルーン所持者、チョウ・サイレン」


 黒衣を纏った男は拱手の礼をしながらそう名乗った。

 周囲には俺の命を屠らんとする輩が集まっている。


「特異な技で我が拳法を防ぐとは許しがたきこと。そればかりか、貧民の名も無き少年とは一生の恥! どんな妙技か知らぬが、見るが良い!」


 刹那、『拳法家』とやらは大地を割れんばかりに踏み抜いた。

 型に沿って演舞を行っているのだろう。

 淀みなく、迷いの無い舞は惚れ惚れする程だ。


「我が拳法に不可能はない! 権利も持たぬ貧民よ、死に絶えるがいい!」


 力強く、加えて固く「フン!」と喉を鳴らした。

 地面を蹴り抜く事なく、奴は打突を放つ。

 距離がある、再び型に沿った舞かと思った。 が、確かに技は届いた。

 空気ごと動かされたような、異様な技。

 

 山勘でマナで身を包み込むと、衝突した瞬間にバリバリと音を立てヒビが入り始めた。

 パッと身を捻ると、後方にいた男が弾かれる。


「バカな、何故避けられるのだ! 我が拳法は不可視の絶対技なのだ!」


 どうやら技に絶対の自信があるらしい。

 ならば──挫いてみせよう。

 面白そうだ。


「もっと打ってほしい。ぜひとも、不可視の攻撃を体感してみたい!」

「舐めるなよ虫以下のガキが! これを見よ!」


 流麗な足捌き。

 固いが柔らかな攻撃。それが、空気を伝ってこちらまで通ってくる。

 掛け声を一つ、また一つと重ねる。

 金属の刃で俺を屠るのではなく、己が肉体を鋼の軸とし、手と足を鋭刃として振るう。


 不可視の弾幕が襲う。

 その都度マナを全身に回し、それを受け止める。


「かぁぁっ!」


 すごい。

 剣を持たずして人を殺せる技がある。

 しかもそれが自らの手足、掠っただけで切り傷のように皮膚が切れ、当たっただけでマナが削られる。


 時にはマナで力強く覆い、時には躱す。

 流麗は彼の足捌きには及ばぬものの、それを真似て俺も動いてみる。


「猿真似を!」


 苦言一つ入れながらも彼は打突を飛ばしてくる。

 だが、どれもこれも俺の肉体には届かない。

 マナの盾に当たりはするものの、砕くまでとはいかない。

 打突の弱点は解析出来た。

 瞬間的な馬鹿力、刹那での殺傷力が高いのみで永続的ではない。


 つまり、それに合わせる形でマナを飛ばす、もしくは厚くしてしまえば容易に防ぐことができる。

 もう学べることは何もないな。

 俺は一歩踏み出した。

 すると、奴は顔を歪め体の回旋を早くした。


 だが、どれも届かない。

 もう掠りもしない。当たってもヒビが入ることもない。


 今度は二歩踏み出した。

 するとまたしても、回旋運動を早くし、今度は打突が重くなった。


「もう届かないよ。得意技は? おしまい?」

「貴様ぁぁぁ!!」


 この一年、いやこの世界に来てより。

 日本での生まれが科学者の俺は、研究の日々に浸っていた。


 未知のことを追求し、自分の知識として落とし込む。それが楽しくて仕方ない。

 この世界に来てからも趣味だからと研究をしたり、解析をしていたわけでは無い。

 あらゆる攻撃パターンに対処し、強くなれるように。

 加えて人の心の折り方や、蝕み方も約百年という時間を使って学んだ。


 人は絶対の自信があるものを易々と躱された時に激怒する。

 人は絶望から希望をみせ、さらに深い絶望を見せると恐怖する。

 人は自分の言葉を体現され、圧倒的差を見せられた時絶望する。

 人は心が折れると人が変わる。

 人は圧倒的暴力や恐怖には結局逆らえない。

 人が成長する時に必要なのは、愛のムチではなくより深い絶望と後悔。


 まだまだ知りたい。まだ学びたい。

 この実力主義社会でも学べることはある。

 成り上がった時の自分がどんなものが気になって仕方ない。

 頂点に立った時に自分が抱えている学びが気になって仕方ない!


「ありがとう。僕はまた、強くなれた。夢に、近づいたよ」


 感謝の言葉を述べる。これが礼儀だから。

 『拳法家』とやらの隣を通り過ぎると同時に、腹部を両断した。

 ツーっと服に血が染み込んだ刹那、切られた箇所の上下で体がズレる。

 違和感を感じたが最後、奴はそのまま地面に突っ伏した。


「打突にはマナでなんとかなる。マナの循環速度も上がった気がするよ」


 刹那、黒衣の懐から紫色の光が漏れた。

 光はやがて強まり、宙に現れた。

 

「そういえばルーン所持者だっけ。でも、使えないんだよね」


 呟きながら魔晶石(ルーン)を両手で包み込む。

 瞬間、自らの体内に力強い闘志が宿ったような気がした。


「これは──!」


 女性から奪取した時は反応の無かったルーンが此度は強く反応した。


 俺は──『拳法家』のルーンを手に入れた。

 

 

 

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― 新着の感想 ―
元は科学者だったんですね! 納得の知識欲。 新たなルーンを手に入れて、これからどんどん強くなっていくのでしょうか。気になります……!
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