第六話 少女を仲間に
日の出よりも数十分ほど前の時間に俺は目を覚ました。
ルメアと約束していたのだ。
試験開始よりも早く起き、目的地に集合することを。
まだ重たい瞼と体に鞭打って俺は約束の場所へと向かう。
家を出て数分後、昨日と同じような場所で同じ人間がいた。
「よし……今日こそは!」
声が届かない距離で、俺は決意する。
雪のように白い長髪を風に揺らしている少女の元へと足を運ぶ。
「あの」
ゆっくりと顔をこちらに向ける。
パチリと水晶の瞳が瞬きし、俺を捉えた。
やはり綺麗な少女だ。アイドルと言われても信じてしまう。
「何ですか?」
「いやー名前を知りたいなーって」
単刀直入に、回りくどいことはせずに本題に入る。
確か恋愛テクニックの一つに数えられていたはず……。
それを聞いた彼女は、眉を逆立て懐疑の念を抱いたのか瞳が曇ったように感じられた。
「いやです。どうして貴方なんかに?」
「デスヨネー、でもさほら。三人一組の仲間に」
「やだ」
「…………」
プイッと顔を逸らされてしまった。
くそう、前世で結婚してたらその知識を活かせるのに!
何で童の帝のまま老衰したんだ俺はよ!
「そもそも、試験って?」
聞く気になったのか彼女からのクエスチョン。
これは気がある、という訳では無いので勘違いはしないように!
「世界中にハンターって奴らが放たれて、僕たちを殺しに来るんだ。それらから生き残るためにグループを作る。期限は明日の朝まで、あと数十分で始まるよ」
「……そんなの、知らない。聞いたことない」
「えっ」
知らない、という訳はないだろう。
魔道具を持っている父はそれを見て、試験を知ったように思える。
父母のいる彼女もまた、知っているはずだ。
ルメアだって、兄から聞いたと言っていたし。
「死ねるなら、死にたいなぁ……」
「何でそんなこと言うの?」
「関係ないでしょ。とにかくアタシはやだ」
「でも」
「やだ」
すみません、こういう場合ってどうしたらいいんでしょうか。
この近辺に恋愛テクニックマスターみたいな人いないかな。
膝を抱えたまま虚空を見つめている彼女を見下ろした。
綺麗な子だ。
他の子供と比べても汚れが少ない。
やはり、身分を落とされ、この貧民街に流れ着いたのだろうか。
「おーい! ムミョン!」
惚気にふけっていたところ、名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
視線をそちらにやれば、大きく手を振りながらこちらに走ってくる金髪の少年が。
丁度良いところに助っ人が現れてくれた。
「道草食ってると思ったらやっぱりか」
「いやいや誤解だよ。この子を誘ってたんだ」
説明すると、ルメアは彼女と同じ高さに身と視線を落とす。
すると、不思議に思ったのか彼女は顔を上げルメアと対面。
「おはよう」
「……」
「今日危ない試験があるんだ。オレらと組もう?」
「やだ」
「大丈夫。オレたちは腕に自信がある、死ぬことはないよ」
「やだ」
「誰もこの試験で死んで欲しくない。弱者を蹴り落とすようなこんな試験で、君に死んで欲しくない」
「……やだ」
「オレたちはこの実力主義世界を変えたい。今はまだこんなちっぽけだけど、いつか大きくなってみせる。君の両親のような人を、減らしたいんだ」
「…………」
ルメアは彼女と縁があるのだろうか。
少女の両親がどういった状態にあるのか、俺は少なくとも知らないが──。
「気が向いたらでいいよ。試験が始まってからでもオレたちを見つけて声をかけて欲しい。いつでも歓迎するから」
会話の終わりを告げるとルメアは歩き出した。
え? 終わり?
ちょ、なんだよそれ。真摯に向き合おうとしてた俺がバカみたいじゃないか!
「……ラナ」
「ん?」
「アタシ、ラナっていうの」
「そっかラナちゃんか。いい名前だね。改めて、オレたちと組んでくれない?」
「……良いよ」
ラナと名乗った少女は重い腰を上げた。
昨日はそこから立ち去るまでが早かったが、今回はその様子が無い。
身長は俺と拳二つ分の差がある。
彼女は光が漏れる手のひらを前に出し、大きく広げた。
紫色の光が周囲を照らす。
「それは……!」
「お母さんがアタシに遺してくれたもの。これで、頑張る」
「分かった。一緒に頑張ろうか」
なるほど、自分のモノではないようだ。
母が一体どのような人なのか分からないが、この世に居ないことは分かった。
「協力するのは苦手……戦ったことない」
「大丈夫、オレとムミョンが何とかするよ」
「そうそう! 任せて!」
グッドポーズを決めたのだが、何故か彼女に怪訝そうな顔をされ、すぐに顔を逸らされた。
あれ、俺嫌われてる?
「あ、名前を伝えてなかったね。オレはルメア、彼はムミョンだ」
「うん……分かった」
懐疑的な気持ちは晴れていないのか、彼女の暗い雰囲気は払拭出来ていなかった。
「そういえばさムミョン」
「ん、どした?」
「あのルーンってどうなった?」
「あー、何故か使えそうになかった。父さんは奪えば使えるって言ってたけど、ダメだった」
あのルーンとは、かつて俺がモルモットとして世界観を広げるために扱った女性から盗んだもの。
ルーンは他人の適性を詰め込んだものであり、本人にしか扱えないわけでは無いらしい、一部を除いて……。
彼女がもっていたルーンが、特殊であった可能性は拭えないが、天文学的な数字を引けるわけがないだろう。
「二年後、オレたちも奪われる立場になる。取られても良いように、戦えるようにしとかないとね」
「そうだね。この試験で自分の力が分かる、今までの成果を出さないと」
「ラナちゃん、その石は大事に持っていてね。助けが必要な時は大声で呼ぶんだよ」
「……大声苦手」
「分かった。なるべく離れずにいるよ」
爽やかな好青年のルメアは口数少ない彼女にも明るく振舞っている。
俺も見習わないといけないな。
薄暗い路地裏に、暖かい光が射し込んで来た。
同時に、試験が──始まった。




