第五話 試験準備
「こ、殺し合い?」
「その通り。殺し合いだ。本気で殺りあうぞ」
「え……それって、僕やルメアも……?」
「対象者は大人子供問わず。お主も参加するのだ」
目を見開いた。
本気で殺し合うというのか。
子供で、まだジョブを授かっていないというのに。
「一人から三人のグループとなり、各地に放たれるハンターと戦う」
「ハンター?」
「我らを狩ろうとしてくる者たちだ。容赦ないぞ。どんな手を使っても殺しに来る。三人でな」
「ま、マジですか」
「制限時間は次の日の夜明けまで。グループの一人でも欠けたら死亡と同義」
「一人でも……? 厳しくないですか!?」
「何を言っている、この試験の目的は弱者を排除すること──この程度で死ぬなら今後の人生はやっていけん」
そう言って父は、ギロッと俺を見据えた。
瞳には一点の迷いも見受けられない。
成り上がらんとする俺とルメアを試すための試験、とも言える。
「で、ではグループを組むのは僕とルメア、そして父さんですよね」
「違う。私はお主と組まん。単独で戦う」
「何を言ってるんですか、一人でなど──」
「お主は何故私がそなたらと組むと思ったのだ」
「父は息子と組むのが当然でしょう? それくらい思いますよ」
「…………」
一人から三人つまりは、二人でも構わない。
しかし、それではハンターとやらに数で劣る。
不安を解消するためには、あと一人拾う必要があるのか。
「質問なんですが、父さんは強いんですか?」
「愚問だ」
「ですよね。しかし、そんな杖のようなもので戦えますか?」
「それもまた愚問だ」
なるほどどうやらこの人は絶対に生き残ることができる自信があるらしい。
ルメアに伝達するのと、仲間を一人拾いに行くことになりそうだ。
時間がない、今すぐに出立をしなければ。
「明日の朝、日の出とともに試験は始まる。生き残り、目標を達成したくば死に物狂いで戦うのだ」
「分かりました……」
立ち上がって父に背を向ける。
扉を開けて、肺いっぱいに空気を吸い込む。
黄昏時を告げる陽光が顔を照らした。
自然と鼓動が速まるのを感じる。
緊張、などという怖気の表れではない。
これは──高揚感だ。
この試験が俺の成り上がり人生の狼煙となる。
世界中に知らしめる機会にしてみせようじゃないか。
※※※
「なるほど。そういうことか」
「驚かない、のか?」
「兄さんから聞いたんだ。昨日から知ってたよ」
「はぁ!? 何で言ってくれないんだよ!」
「ムミョンなら知ってるかと思ってね。仲間集めは君がするんだろう?」
「うん。帰り道に誰か誘ってみるよ」
「分かった。オレは君を信用している。どんな人を選んでもその意見を尊重するよ」
そのようにまとめルメアは家の中へと入っていった。
彼の家は我が家と違って住宅街のように連なる場所にポツンとある。
葉を屋根にし、石を適当に積み上げただけの質素以上に貧しさのが勝つ家だ。
その隣には墓が二つ。
恐らくは最近亡くなったとされる、父母のものだろう。
花も添えられず、土葬されているらしい。
ルメアの家を後にし、誰か良い仲間になりそうな者はいないか品定めを始める。
なるべく強い人材がいいだろう。
俺とルメアは十分に戦える方だ。そのため、もう一人も強い方がよりグループの生存確率が上がるだろう。
「待てよ?」
俺は足を止めて、頭の中で思考を飛ばす。
強い人間、そんなのが貧民街にいるのか?
そもそもルーンを授かっている者がいることすら怪しいぞ。
授かっていたとしても貧弱な体では、一日中戦うことは厳しいはず。
そうなれば、待っているのは死のみ。
いかん、いかんぞ。
「仲間集めは無謀に等しいのか……?」
「だが、力無きものをチームに引き入れ二人で守るという選択肢もある」
ルメアならばきっとそうするだろう。
例え一人しか救えぬとしても。
「となればもう適当に選ぶべきか。だが、適当に選んで試験途中で死ねば意味が無い。となればやはり、少しは戦える人間を──」
通路を一人でブツブツと言いながら歩いていた時、ふと視界の端に何かが入った。
「お?」
壁を背中に、体育座りをしている無色に近い長髪が特徴的な少女だ。
土埃で汚れているものの、その髪の美しさは衰えることを知らない。
「あの、すみません」
「……」
「えぇと、聞こえてますかー?」
「……」
顔をうつ伏せにしているせいか、表情は分からないが負のオーラが全身から滲み出ている。
そっと彼女の体に触れようとした。
瞬間、何かを感じ取ったのかパッと顔を上げた。
「……ッ!」
ハッと心を奪われた。
あちこちが汚れてはいるものの、雪のように白く滑らかな肌と、少し潤んでいる水鉱石の瞳。鼻筋の通った美しい顔立ちをしていた。
貧民街には相応しくない、元貴族なのではないかと思うほどの美しさだ。
「……っ」
本来の目的を忘れ、俺はその容姿を目に焼き付けていた。
一瞬その美形が怪訝そうな顔になった瞬間、本来の目的を思い出し、俺は喉で止まっていた声を口に出す。
「あの、明日の試験……一緒にやらない?」
「……」
「明日は、その世界中で実力測定試験があって、生き残りを掛けて戦うんだ。君は僕のグループに入らない?」
「……」
「えぇっと、返事が無いなら良いということで」
「やだ」
「え?」
「いやだ」
鈴のように美しい音色の声が鼓動の速さに拍車をかけた。
だが、その答えは望んでいたものと反対だった。
「死ねるなら……望んで死ぬ」
縮めていた体を立ち上がらせ、彼女はとぼとぼとどこかに歩いていった。
「ちょ!」
手を伸ばして、彼女の虚しさ残る背中と重ねたが名前も知らない少女はどこに行った。
「コミュ障過ぎたな。もっと明るく振舞った方が良かったかな」
次会った時は名前を聞こう。
綺麗な、女子だった……。




