第二十七話 武器庫に眠る宝石
ようやく中毒の症状が治まってきた時には武兵館もほとんど終わりがけだった。
念の為、あちこちに視線をやり、武器庫らしきものがないか、というのを確認していたが意味無かったようだ。
武兵館と武器庫が眠る準堂館を繋ぐ通路を歩いていた時、ふと背後で足音が聞こえたような気がして振り返った。
目に移ったのは誰もいない、今自分が歩いてきた粗雑な道。
気のせいかと思い、再び歩みを進めたが、こちらが進むペースに合わせるように足音が聞こえる。
ライトとラナは至って普通、いや彼女も時折何か気になっているのかチラチラと目が泳いでいる。
「ねぇ」
ラナがついに切り出した。
彼女の言葉が発せられて尚、誰も止まる気配はゼロ。
無論、彼女も足を止めるつもりは一切ない。
オレたちには時間がない。
ピサロもじきに限界を迎える。
「あんたは吟遊詩人の言っていたことを覚えてる?」
「んん?」
予想と違う言葉にオレは自分でもよく分からない声が出た。
彼女にそう訊ねられ、頭の中で行きがけの中で見かけた吟遊詩人を思い出す。
何やら勇者にまつわる話をしていたことは覚えている。
「それがどうした?」
「『聖剣』について言及していたわよ」
「なんて?」
オレが聞いていなかったことに少しばかり驚いたのか彼女はため息とともに肩を落とした。
いやいや、だってバレたらほぼ死の場面で聞き耳を立てる余裕は無いよ。
呆れたように彼女は言う。
「ドゥーム湖を知ってる?」
「知らないな。初めて聞いた」
「本当に『聖剣』を入手しようとしてる?」
「なんだよそれ。因果関係でもあるのか?」
聞き返してオレは少し後悔した。
なぜなら彼女が再びため息をつき、より一層肩を落としたからだ。
「ドゥーム湖はかつて、『聖剣』が沈められた伝説がある湖よ」
「へぇ……。まさかだけどさ」
「そうね」
まだ何も言ってない。
最悪な可能性はその湖に『聖剣』が眠っていてこの王国内にはない、ということ。
それが事実である場合、オレたちは今すぐにでも方向を転換しどこにあるのかも分からないドゥーム湖とやらに行かねばならない。
「ラナ」
「なに」
「お前、隠し事してるだろ」
「してない」
「してる」
「してない」
単語のやり取りをするオレとラナに対してライトは苦笑いをしながら静観している。
「ラナ。別にオレは良いと思う、人に隠し事をしているのは。だけどな、バレたくない場合。
安易に真実にたどり着かれるかもしれない情報は口にするもんじゃないぞ」
「おせっかいね」
「正直オレは君が王宮出身である可能性を出会ってから持ってる」
理由は言うまでもない。
あのように朽ち、汚い場所で一人だけ煌々と眩い光を放っていた。
髪質、肌の綺麗さ、体の肉、手入れの行き届いた爪、細かいところまで挙げればキリがない。
「君は両親の地位が降格したのに引きずられ貧民街に落ちてきた、そう思ってる」
「そう。面白いわね」
「面白くないな。オレから君の生き方は」
「不満ってこと?」
「ああ。もしそうならどうして自分達を不幸にした人間に仕返しをしようと考えないのか、不思議で仕方ない」
これはオレだから言えることだろう。
ルメアを『剣王』タケル・タティスに殺されたオレは、ルメアの意志と仇を背負った。
彼女もそうであるなら、どうしてそのような信念を抱かないのか。
「さぁね。どうしてかしら。あたしにそんな力が無かったからなのか、そんなことより過去に縋っていたかったからなのか。
どちらにしても考えても無駄ね。アンタに答えを教える日は来ない。
なぜなら──」
「それを知る前にオレを殺すから、だろ?」
「そう」
当たり前のように殺害宣言。
自分で言い当てたが、結構心のダメージが深い。
他人に仇にされるのって、辛いことなんだな。
「今は仕方ないから。いずれの日か、ここを離れる日が──ッ!」
オレは反射で、彼女の手を掴み、壁へと押しやっていた。
互いの息遣いが聞こえるほどの至近距離。
彼女の整った目鼻がすぐ目の前にある。
やはり、綺麗な子だ。
「許さん。お前は、オレが頂点に立つのを一番近くで、隣で見ていろ。
それからオレを殺せ。オレの許可無しに抜けること、何より死ぬことは許さない」
「──ッ、脅しのつもり?」
「そうだ。脅している。こちらが殺されるという重い足枷をあてがわれているように、オレもお前に足枷を掛ける。
絶対に抜けるな。永久に、オレの隣にいろ」
「……気持ち悪い。離れてくれる?」
緊張の空気感から一変、彼女がいつもの調子に戻る。
そのタイミングで、ライトがオレを引っ張る。
「兄上、内輪揉めはご法度でしょう? 配下同士の喧嘩は認められないように、兄上も喧嘩はダメですよ」
「それは、そう、だな」
珍しくライトから貰った正論に、オレは強く握っていたラナの手を離す。
そんなに強く握ったつもりはないが、彼女の体には応えたらしく握られた箇所を気にしている。
「わ、悪かった。今すぐなお──」
「必要ないわ」
拒絶の言葉を残しながら彼女は先へと急ぐ。
その背中は早くついて来いと言わんばかりに何かを物語っていた。
確かに急がねば。
こんなことをしている暇は無い。
武器庫までもうすぐ、準堂館はこの通路を渡ればたどり着く。
『聖剣』まで、もう少しだ。
※※※
準堂館の造りはまた武兵館と比べて一変新しいもの。
キラキラと輝く派手な装飾が施されており、夜だというのに眩しくて目が死にそうだった。
準堂館は全部で五階建て。
武兵館とこことを繋ぐ時の階層は三階。
そして、武器庫があるのは三階。
ラッキーこの上ない。
オレは『端末』で地図を映し出しながら、通路を歩いていく。
そして、たどり着いたのが、
「ここか」
大手門と呼ぶに相応しい程の重厚感ある扉。
その前に立つと、如何にその扉が大きいか、自分が小さいか理解できる。
誰もが息を呑む中、円形の取っ手二つを引いて、扉を少し開けた。
刹那、白光が目を刺激。
反射で目を閉じてしまう。
薄らと目を開ければ、眩い光を放っていたのは納められていた数々の武器。
どれもこれもが、新品、鍛冶屋で出来た直後の美しい光を放っていた。
その中には恐らく名工家が作り出したモノが紛れているはず。
「情報が限りなく少ない、一つ一つ探すぞ」
宝探しのように心を踊らせながら、何とかオレは平然を装う。
なぜなら、先程からラナがチラチラとこちらを見てきているからだ。
きっとオレを蔑んでいるに違いない。
馬鹿な顔して、浮かれていたらため息の一つと苦言の一つが飛んできそうだ。
それで宝石の山の中を漁ったオレたちだが、
「無いな」
「でしょうね」
「残念です」
特にこれといって惹かれる魅力的なモノは無かった。
特に『勇者』しか抜くことの出来ない『聖剣』は近くにあれば何かを感じるとオレは踏んでいる。
だが、この武器庫には何も感じない。
故にやはり無いのだろう。
となれば、ドゥーム湖か。
残念だ。
今日この瞬間のために頑張ったが全てが無に、帰してはいない。
ルメアの仇を取れたし、ピサロという仲間を得た。
見返りはあった。大きすぎるほどに。
するとライトが剣を手にしながら、
「兄上、せっかくなので武器を調達しては?」
窃盗の誘いをしてくる。
ニコニコと正直に隠さずに言うライトにオレは笑みを隠せなかった。
「ダメだ。モノを盗むことは禁止する。オレはそう言った類が嫌いだ」
「すみませんでした」
機嫌を損ねたと思ったのかライトはいそいそと武器を戻す。
さて、これにて今宵の一幕は終わりだ。
急いで退避する必要がある。
ピサロのことも気になるしな。
全員でその部屋を後にした直後、言い得ない圧力がオレたちを襲った。
まさか、そう思って振り返れば、
「大人しく投降するんだ。僕は、君たちに手を出したくない」
後をついてきたのは、まさかこの男だった、のか?
ここに来て、最悪の敵襲。
これまでの努力を全て無駄にしてくれる男が……現れた。




