第二十六話 昇級
大の字に倒れ、やがて目の光を失った『剣王』を見届けたオレは糸が切れたようにその場に倒れゆく。
奴と同じように倒れようとした時、誰かが体を支えた。
「兄上! すごいですよ!」
興奮気味に息を荒くし介抱するのはライト。橙色の髪のように明るいテンション感で騒ぐライトに対してオレはもうボロボロのボロ雑巾だ。
「マジで、紙一重、だった」
「紙一重などではないですよ兄上! あれは正しく兄上の完勝です」
「どこを切り取ったらそうなるんだよ。逆転ならわかるけど完勝は無いな」
それを聞いたライトは「あ、確かに」と訂正したが、興奮は抑えられていなかった。
チラリと視線を横にずらせば腕を組んで見下すような視線を送る美少女が。
ラナはオレが死ななかったことが悔しいのか、バツが悪そうに口を尖らせていた。
「仇は取った。ルメア──」
──ピコンっ!
まるでスマホの通知音のような音色がその場に響いた。
オレはその音源であろう『端末』を取り出し、何事かと確認する。
すると、
『昇級報告。『剣王』タケル・タティス撃破によりクラスがマスターへと昇格しました』
「え……?」
『よって実力ランキングを更新します
国別ランキング 21位/1,640,319
世界ランキング 101位/8,046,751
ジョブランキング 89位/5,643,041
種族ランキング 239位/41,934,673
なお、貴方は戸籍登録、昇格試験を受験されていないためこのランキングは適応外です。
あくまでの指標としてご覧下さい』
「ランキング……更新された」
「兄上いくつですか!?」
「国別、つまりカリスティア王国内だと21位
世界だと101位、らしい」
「えぇっ!?」
ランキング、そうだこの世界には明確に順位が可視化されていた。
オレは国別と世界しか知らなかったがジョブ、種族などもあるらしい。
だが、どれも概ね上位に組み込んでいる。
恐らくこれはタケルの順位がそのままオレに適応されたということだ。
念の為と、オレは『端末』でタケル・タティスの名前を検索する。
「……消えてる」
検索バーに名前を入力したが、検索結果は誰もヒットしなかった。
リアルタイムでの更新。
決まった日時ではなく、今この瞬間でランキングは変動する。
オレは倒れている男に視線を移す。
これが奴の持っていたランキングだとしたらオレは奴以上の実力を有していることになる。
面倒なことになった。
避けては通れない道だが、オレは面倒なことに片足を突っ込んだかもしれない。
何せランキング目的でこれから入れ替わりの戦いを申し込まれることがあるだろう。
そうなればオレのやりたい事が出来なくなる。
断ってもあれこれと罵声を浴びせられ、不意打ちを貰うだろう。
承諾し、万が一負けたとなればどうなるか……それは、
『入れ替わり戦で三度敗北した場合、『降りる』ことになります』
「それは、なんだ?」
「『降りる』、この世界で『降りる』とは全てを投げうち最下層の人間として生きる道を選ぶこと。なお、それを承諾した場合、ルーンは効力を失い、永遠にランキング内に入ることは出来ません」
オレは『端末』に映し出された文字を見ながら眉を顰める。
用語の説明やらで、疑問に思ったこともあるが、こいつ今、オレの言葉に反応したな。
自動音声付きか?
この世界、いずれ情報社会に成り代わるんじゃないか?
「だけど、オレは戸籍登録、昇格試験も受けてないため、本来のランキングは適応外、ね」
ならば問題はない。
だが、いずれ来るだろう。
戸籍登録をするか、昇格試験を受けるかのどちらかを選ばざる得ない状況が。
そうなれば間違いなくオレは──今は決められないな。
各々のメリットデメリットを言えない今は、妙な考えを抱くべきじゃない。
「死んだ人間は、名前すらも消されるんですね」
「……だが、人の記憶には残る。現にオレたちの脳内にはあいつが残っている。忘れることは、一生ない。こいつはオレの仇だ」
「そんなことより、急ぐべきじゃない?」
再び『剣王』を討ったことに浸ろうとした時、ラナが現実を突きつけた。
言われてみればそうだ。
オレたちの戦いは一区切りだ。
妙な無限ループから、友の仇。
嫌な割り込みはあったが、本命はまだ達成出来ていない。
全ては過程にすぎない。
『聖剣』を手に入れるまでは──。
「あぁ、まだクラクラするな」
「兄上、いざとなったら弟である僕の背中を頼ってください」
「お前はいつの間に弟になったんだ……」
ライトに支えられながらもオレは立ち上がる。
マナによる治癒も難しい。
ここら一帯に存在するマナを取り込みすぎた。
そのうち、症状が──、
「ゲフッ……!」
「っ、兄上!」
血の塊を吐き出してしまった。
取り乱すライトに対してオレは手を前に出し、落ち着かせる。
その後も咳き込みながら血を含む唾液を噛み締めながら堪える。
すると、口から地面へと落ちた血塊を見たラナはオレに向けてどういう意味か分からない手を差し出してくる。
純白の柔らかい手のひらに吐けということだろうか。
いや、この眼差しは違うな。
「はやく返して」という顔だ。
首に掛けていたペンダントを取り外し、彼女の手のひらへと乗せた。
自らの細い首へとそれを大事そうに掛けると、火魔法を使いだす。
右の人差し指を、オレが吐き出した血塊に向け魔法を行使する。
「何して──」
「この血はマナを含んでる。それも高密度の。王宮だから大丈夫だけど魔物が寄ってくる可能性が普通ならある。だけど、別の理由で燃やしたわ」
「……『剣神』ですね」
「そう」
なるほど、汚くて見るに堪えないから燃やした訳ではないらしい。
どうやら彼女もあれこれと四苦八苦していたようだ。
オレが素直に感謝を伝えると怪訝そうな顔をされた。
やっぱり仲良くはなれそうにないのだろうか。
そう思いつつオレはライトの首に手を回し歩き始めた。
「身を寄せるには最適、かもな」
そのすぐ背後で、何者かが後をつけて来ていたことなど知る由もなく。




