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第二十三話 脱出方法

「もしかしてさっき、これを警戒してたのか」


 ラナは首をゆっくりと縦に振るう。

 彼女の知識源については一旦さておき、本格的にまずいことになった。

 彼女はため息をつくと、壁にもたれ足を抱えた。

 貧民街で見せた、あの姿だ。


「兄上、どうしますか」

「無限ループの破り方、ね」


 正直言って破り方は幾つもあり、それら全てを伝えず試したが全てダメだった。

 結果を伝えてしまえば彼らは酷く肩を落とし、士気を無くすだろう。


 もし、もしもの話だが──ここに『剣神』がいたらどうするだろうか。

 ピサロでも良い。

 規格外、人智を超えた化け物たちは一体このような状況を打破するか。

 弱者ゆえの考え方だ。

 恐らくだが、彼らはそもそも罠に掛からない。

 ならばそれまで、だがもしも、もしもの話だ──。


 理由はどうであれ、このように複雑怪奇な罠に嵌められたならば彼らはどうするか。

 単純明快である。

 その規格外さを利用し、説明出来ない御業で罠を破壊するのだ。


 オレは右手を大きく掲げる。

 アビリティ『星運』を信じて、この状況を脱出できますようにと祈りを捧げた。


 勇者ならばこの程度で足止めは喰らわない。

 もっといえば、怪物級の者たちはこれくらいどうってことはないと吐き捨て解決する。


 だが、このアビリティはここでは藻屑らしい。何の反応も無いまま、時間だけが過ぎていく。


「ねぇ」

「どうしたぁ?」

「なんとかしてよ」

「それをやってるんだが」

「アタシ、あんたと心中なんてごめんだから」

「……それは悪かったな」


 ラナは少し悲観的になっているのか、先程の調子からいつもの雰囲気を既にまとっている。

 慣れたわけではない。

 この状況への絶望と、オレと閉じ込められているという事実を受け入れ難いのだろう。


「兄上……僕、眠いかも、です」

「あぁ、寝てて良いよ。力を借りすぎた。ゆっくりしてくれ」


 ライトのルーンに頼りすぎたせいか、彼は疲労感でその場で寝てしまった。

 クウと小さな寝息を立てて眠る様を見て、まだ五歳児であることを再認識する。


「ラナ、何か思い出せないか?」

「むり」

「いや、そこをなんとか」

「できない」


 内側から何も出来ないなら外側から何かするしかない。

 だが、もしも物理的な時間が外の世界で止まっているならオレたちは詰みだ。

 永遠に助けは来ず、ここで餓死するしかない。


「無限ループってだけでやっぱり何も出来ないな」


 オレは再び前へと進むが、やはり後ろへと戻ってくる。

 

「一つ、実験をしよう」


 闇雲にやっても総当りになるだけだ。

 こういう時は仮説を立て実験を繰り返していくことが大事だ。


「何してるのよ」


 興味を見せていなかった彼女も出られるかもしれないという可能性を感じたのか、疑問を投げた。


「実験だよ。ずっと気になってたやつ」


 オレはそう言って壁に立てかけてあった松明を手に取る。

 ラナが目尻を上げて「罠」というが、こたびはブラフであったようで何も起こらなかった。

 

 手に取った松明をそのまま窓の外へと投げ込む。

 すると、不可思議なことが起こる。

 下に落ちたと思えば松明は再び上から落下、そしてまた落ちたと思えば上から降ってくる。異様な動作を繰り返し続ける松明。


「マジか、外に出なくて良かった」


 実はオレは窓の外に出てみようかと何度も考えていた。

 もしかしたらループの罠がはられているのは通路だけで、外は大丈夫では無いかと思ったのだ。

 しかし、それも無駄ということが判明した。

 ループは通路だけでなく、ここら一帯をループするようになっている。


「はぁ……」


 結果を見届けたラナがため息をつく。

 ため息をつきたいのはオレなんだが……。


 ところで、この無限ループは少し変わっている。

 ループする範囲はもちろんのこと、場所を繋ぐ場所もおかしい。

 周回する場所にたどり着き、後ろを振り向けばラナや寝ているライトが見えるはず。

 だが、後ろを向き見える景色はループ前に歩いていた道。


 異空間に飛ばされた、という考えもあったがそれも無しだ。

 もしもそうなら、罠にハマる前に歩いていた場所など見えるわけがない。

 となればここは現実。

 やはり、特定の箇所に罠をはめ込んだと考えるのが無難。


 それも魔法道具を使っているような様子は無い。

 薄いロープのようなものに接触する度に装置が作動していると思ったがそれも無い。

 小道具を使った細工という路線は捨てた方が良さそうだ。


 となれば、オレの中で残る仮説は一つ。

 魔法陣の存在だ。

 不可視の魔法陣くらいは恐らく組めるはず。

 少なくとも前世のファンタジー世界ではそうだった。

 そういえば、似たような事例に嵌められたことがあったな。


 あの時は結局丸一日かけて謎を解いたが、魔法陣が原因だった。

 しかも、不可視の。

 同じやり方が別世界でもあるわけないと思ったが、まさかだ。

 最終選考に残ったのは最初から弾いていた仮説。


「ラナ、ルーンを使って魔法陣を探せるか」

「ねむい」

「この仮説がダメだったらいくらでも寝ていいぞ」

「今すぐがいい」

「ダメだ。ほら、起きろ」


 そっと彼女の肩を揺さぶる。

 小さな唸り声を上げながら彼女はパチリと宝石のような瞳を向ける。

 やっぱりラナは綺麗だ。

 瞼が重いのか、半開きとなっているのだが、おっとりとした印象を受ける。

 そんな彼女も──、


「変態」

「違うわっ」


 ともかく彼女の持つ『魔法使い』のルーンの特性上、魔法に関することは敏感なはず。

 彼女は再び瞼を閉じた。

 寝た、と思ったがどうやら違う。

 オレの指示に従ってくれているのだ。

 殺すと言っていたのだが、余程にオレと共に死ぬのが嫌なんだろう。


「……魔法陣が二つある」

「……ッ!」


 ゆっくりと長い睫毛と瞼を上げた彼女は期待通りの答えをくれた。


「ラナ、破壊出来そうか?」

「破壊って……無理よ。アタシまだそこまで成長してない。早いけど、言われたことをするわ」


 そう言って彼女は首に捧げていたネックレスを外しオレに渡した。

 紐の中心には紫の石が通され、それが眩い光を放っている。


「ん」

「まぁそうだな。ありがとう」

「別に……ここを出たら一発殴るから」

「……はい」

「壊さないでよ? お母さんのものだから」

「もちろん。花より丁重に扱う」


 家を出る前に彼女に耳打ちしようとして断られたこと。

 告げたことは『有事になったらルーンを貸してほしい』ということ。

 彼女の宝物を貸してほしいということは無理難題であることは理解している。


 このような罠打開のためではない。

 本来であれば戦闘のために、王を殺すために

使おうとしていた。

 国のトップに立つ人物だ。

 そうとう腕が立つに違いないと思った故。


「寝ていいよね」

「どうぞ、後は任せろ」

「信じてない」

「知ってるよ」


 そのまま彼女は深い眠りへ。

 オレは彼女から受け取ったネックレスを掛ける。

 

「母親、ね……」



※※※

 


 破壊が無理と、彼女が言った理由が分かった。

 単純に力不足と言っていたが間違っていなかった。

 だが、同時にこの魔法陣複雑過ぎる。

 やはりループというものを作るには高度なプログラミング力を必要とするものだ。


 核をぶち壊す。

 それだけで解決する。

 

 オレは刀身を鞘から走らせると魔法陣目掛けて突き刺す。

 だが、どういうわけか強く弾かれた。

 何度も、何度も剣を突き立てるがやはり弾かれる。

 コアに届く前に張られた防御が硬い。

 オレはそれを引き剥がすのがせいぜいベストだろう。


 だが諦めん。

 勇者である限り諦めるなど有り得ん!


「かぁぁ!」


 自らを奮い立たせ、勢いをつけるための咆哮をいれながらオレは再び刃を立てる。

 すると、核を守る防御魔法陣はめくれて行く。

 そこへオレのマナ攻撃を当てればなんとかなる。


 そう思い、左手の人差し指を離した直後、弾かれてしまった。

 地面に尻もちをついたオレは腰を擦りながら顔を顰める。


 たかが指一本。

 にも関わらず、オレは届かない。

 きっと、離した指がいけなかったのだろう。

 そう思い、何度も別の指で試した。

 しかし、尽く弾かれその都度、腰を強打した。


「はぁ、はぁ……」


 一人でできないはずがない。

 『剣神』やピサロなら一人でも出来る。

 オレだって、奴らに肩を並べようとするオレだって出来なければいけない。


 この窮地で、仲間が限界を迎えた中でオレは戦わねばならん。

 二人の主として、勇者として、ルメアの志を受け継ぐ者として、挫ける訳にはいかんのだ!


 一人でも出来るはず。

 これしきのことが出来ないで何が勇者だ。

 成り上がれるわけがない。


「ルメア……力を貸してくれ」


 オレはもう一度深呼吸し、リズムを整える。つま先まで酸素が行き渡ったのを確認したオレは全身全霊をかけて突き立てる。


「がぁぁあっ!」


 力づく。そう力づくだ。

 結局パワーがものを言う。

 化け物どもは一人でこれ以上を出す。

 マナで強化してなおこれだ。

 素の自分など相手になるはずも無い。

 だからこそ、この程度のことでつまづいていられない。

 きっとルメアなら簡単に突破してる。

 ライバルにも遅れを取ってるオレは、一人で突破出来なければ意味が無い。

 

「くっ……そぉ」


 再びこじ開けることは出来たもののそこで限界が来る。

 余力はない。

 これが最後だ。

 指を離せ、指を、離せ!


「がぁっ……」


 ダメ、か。

 魔法陣が再び元に戻る。

 オレ一人じゃあダメなのか。

 オレはあいつらと肩を並べられないのか。

 諦めん、諦めてなるものか。

 ルメアの意志を継ぐと決めた。

 世界を恨んだあの時から、心に決めた。

 困難が迫ろうと何とかしてみせると。

 誰もが諦めてもオレだけは諦めないと。


 だが現実は無情にも残酷だ。

 オレのパワーは押し負け始めた。

 また、一からやり直しかよ……。


「ダメだ……押し戻され」


 そう思い諦めた時、オレの背中にフワリと良い香りが漂った。

 同時に細く透明感の高い両手が柄を握った。

 頭には柔らかい感覚。

 

「バカっ! 何やってんのよ!」

「ラナ……っ!?」


 だけでは無い。

 もう二つの腕が伸びてきた。

 オレ程屈強とは言えないが、男の腕だ。

 その手もまた柄を握った。


「兄上っ! すみません、一人にして!」

「ライト……!」

「早く何かしなさい! アタシたちが抑えるから!」

「……ッ!」


 見れば魔法陣は先程の倍めくれている。

 そのめくれた箇所から顔を出すのはコアと呼ばれる箇所。

 コアを破壊すれば魔法陣の機能は停止する。

 そうすればこのループから抜け出せる。

 数時間という時間が気が付けば経過していた。


 オレは右手の人差し指を立てる。

 そのままマナを──ではなく、彼女から借りたルーンを用いて魔法を、人生初の魔法を使う。


「ハァァ!」


 特大の火玉をコアに向けて射出。

 火玉は業火となり、コアを飲み込んだ。

 ボワッという音が聞こえた直後、魔法陣は光を失っていく。

 徐々に徐々に、光を失っていきやがては真っ黒になる。


「やった……やったぞ! 二人とも!」


 オレはぐったりと倒れようとしていたライトとラナの二人を抱きしめる。

 何故かオレは嬉しい気持ちでいっぱいとなった。

 魔法陣を破れたから?

 ここにいる誰もが解けなかった謎を見破り、打ち勝ったから?


 違う。きっとこれは違う。

 仲間と共に困難に打ち勝ったからだ。

 この感覚、久しぶりだ。

 どうやら何か大事なものを忘れていたようだ。

 一人でやろうとしていたのが間違いだった。

 頼れば良かったのだ、『仲間』を。


「変態!」

「ぐぼぉっ!?」


 ラナから手痛い拳を顔面に貰う。

 そういえば殴るとか言われていたような……。


「兄上!」

「大丈夫大丈夫。むしろ、いきなり悪かった。次やるときは事前に許可を──」

「変態」


 それでもダメらしい。

 さて、これで無限ループの謎は解けた。

 次かかってもこれで大丈夫だ。

 かからないのが一番だが。

 立ち上がって先を急ごうとした刹那、


「……ッ! 二人とも!」


 オレは本能的に二人を抱え横っ飛び。

 すると、それまで自分がいた箇所の床、壁に裂傷が走る。


「すごいな。前までは避けられなかったのに。障害でも残しちゃったかなぁって思ったんだけどそうじゃ無さそうだね」

「お前は……っ!」


 無情という言葉が似合いそうな白髪と、青葉色の瞳。

 剣士服の右胸、双剣の勲章がある箇所に手を当て一礼。


「『剣神』アレクサンダー・ヴァール・ジークハルトの一番弟子『剣王』タケル・タティス」

「……ッ!」


 友を殺した憎き怨敵が、偶然、いや見計らってのタイミングで現れやがった。

 




 

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