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第二十話 絶対的な忠誠心

 殿下と呼びながら走ってくる魔族のような男を見た瞬間、攻撃をしようと思ったところで手が止まった。


 なぜなら敵意や殺気が微塵も感じられなかったからだ。

 ワザと隠している可能性も捨てきれないのだが、それ以上に無いと言い切れる要素がある。


「殿下! さぁこちらに!」


 あの男の満面の笑みだ。

 魔族というのにラナに劣らずの肌の綺麗さは右眼下にある紋様を除けば大したもの。

 純粋無垢を貼ってつけたような笑みが攻撃の手をさせてくれなかった。


 三人とも全員が呆気に取られていた間に男は距離をゼロにし、ラナにではなくオレに飛びついた。


「だ、誰だあんた」

「なんと! 忠実なる下僕ですよ。お忘れですか?!」


 今度は悲観的な瞳。

 猫にも負けないうるうるの眼差し。

 マジで誰だ。 

 こんなやつ今まで見た事ないぞ。

 正直この顔を傷つけたくない。

 だって、忘れたって言えば多分こいつ死ぬぞ。


「あぁー。思い出した、お前か! あの時の、久しぶりだな」

「おぉ……。覚えてくださいましたか! はい、ワタクシでございます」

「なんだよ久しぶりじゃん。元気にしてたか?」

「それはもちろん。殿下、ぜひとも今一度ワタクシの名前をお呼びください! さすれば再び貴方の下僕になることができます」


 おい待て。それは無理だろ。

 名前なんて知るはずがない。初対面だぞ。覚えてるもクソもあるかい。


 チラリと二人に視線を送れば一方は驚きで目を丸くし、もう一方は訝しんでいる。

 どうやら助けは無いらしい。

 

 というよりも名前だ。

 もう、いっその事適当でいいかな。

 偶然言った名前が当たっちゃいましたー、的なノリでいこう。

 間違えたとしても、聞き返せば多分教えてくれる、はず。


「名前は、あれだよな。ピサロ・ロイヤッティルだよな?!」

「おぉ……まさか、まさかです」


 魔族の男が赤褐色の瞳を大きく見開く。

 いかん、間違えたか。

 そうなれば大人しく実名を、


「覚えておいでとは! はい、まさしくピサロ・ロイヤッティルです。今世もお仕えすることができ、光栄にございます」

「え?」


 ちょっと待て合ってるの? 

 オレが考えた偽名みたいなもんだよ?

 それに、今この男仕えるって……。


「ところで殿下、どうしてこのような所に? 添加して、かの二人は」

「あぁ、えぇと王宮に少しの用があるんだ。それと、あの二人はオレの配下だ」

「な、なななな! ワタクシ以外にも配下を? 何故でしょうか、このワタクシにご不満が?!」


 ピサロがオレにしがみつく。

 そういう訳じゃないんだが。

 だって、初対面だし。


「と、ともかく。配下ってことでいいんだよな?」

「もちろんでございます! このワタクシを再び配下の末席に添加していただけるならば、恐悦至極でごさいます」

「よ、良かろう。今世もよく仕えるのだ」

「御意にございます殿下!」


 殿下、どうしてオレをそんな風に呼ぶ。

 どちらかと言えば場面の流れ的にはラナが呼ばれるべきなんだが。

 まぁいい。

 配下になって力を貸してくれるなら今は良いか。

 後で裏切る、なんてことは無いか。

 

「殿下、王宮に用とは何故ですか? もう、ここは二度と来ないと言っていたではありませんか」

「ここに『聖剣』があるという噂を聞いたんだ。それを手に入れに来た」

「『聖剣』……なるほど。確かにワタクシも聞いた覚えがあります」

「なら話は早い。力を貸して欲しい。頼む」

「もちろんです。では行きましょう」


 と言ってピサロは胸に手を当て一礼。

 騒がしくした。

 素早く移動しなければ兵士が飛び出して来てもおかしくない。

 オレはチラリとラナを見る。

 彼女はツンとした眼差しを向け「早く行きなさいよ」という顔をしている。


 そうしてオレたちは王宮内部へと侵入した。



※※※



「赤い絨毯。歩かないで」

「どうしてですか?」

「多分罠が動く。死ぬわよ」


 ラナがライトに警告する。

 オレは無意識に端を歩いていたがなるほど運が良かった。

 おそらく彼女はオレが真ん中に敷かれた絨毯を踏んだところで警告一つくれないだろう。


「殿下ご安心を。その時はワタクシが助けますので」


 しかし、何故か代わりに食らってくれる盾が最近配下になった。

 ピサロと適当に名前をつけたが、その所以は魔族のような角といで立ちだからだ。

 今は気を張っておき、警戒心を緩めることがないようにしておく。


 オレにベッタリとはいえやはり、ラナのように殺意を胸に秘めているかもしれん。

 安易に人を信じてはならないと、日本で生きたオレが言っている。


「『聖剣』は武器庫には納められていない可能性をご存知ですか?」

「なんでだ? 武器なんだから当然武器庫にあるはずだろう」

「高潔さ故ではないでしょうか? それとも力が強すぎてただの武器庫には納められないのかもしれません」

「その通りです。名も無き少年よ」

「名はあります。ライトという名前が」

「これは失敬。ライト殿、その通りです」


 オレ以外の人間には好意的では無いにしろ、友人的な関係を持つ意識はあるようだ。

 すると、チラリとラナを見つめるピサロ。


「ラナ」

「そうですか。これからよろしくお願いしますラナ君」

「変態」

「む、変態とは心外ですね。ワタクシは決して変態などでは」


 どうやら仲良くやって行けそうだ。

 ワタクシの方が忠誠心があると、豪語するのかと思ったがその心配は杞憂だったな。


 そんなことを思いつつオレはたん……もう端末でいいかな。

 『チェッカー』然り『端末』に時折視線を落とした。


「殿下。それは何でしょうか?」

「これは『チェッカー』だ。オレは『端末』と呼んでいる」

「なるほど。『チェッカー』しかし、殿下は『端末』、そう呼んでいるとこれはメモせねば──」


 そう言ってあろうことはピサロはポケットからメモ帳を取り出し、何かを書き込んでいる。

 おいおい、嘘だろ。

 まさかその中には「殿下」に関する内容がぎっしりと詰まっているのか?


「おやおや、兄上のことをメモしなければ覚えられないと?」

「む、ライト殿。これは違いますよ、殿下の偉大さを後世にまで伝えるためです」

「いやいや、実は記憶力が悪いからメモを取っているのでしょう?」


 いかん。この流れはいかんぞ。

 頼む、頼むからピサロ乗らないでくれ。

 お願いだ。

 だが、オレの願いも虚しくピサロは足を止めてライトと向き合う。

 その雰囲気は一触即発。互いに顔を近づける。


「まさかまさか。このワタクシが殿下のことについて覚えていないことはありませんよ」

「いやいや、僕もその自信はありますよ。寧ろそれは、配下として、いえ、『右腕』として当然です」

「『右腕』ですと? このワタクシこそがその地位に相応しいでしょう」

「僕は貴方よりも先に兄上に仕えてました」

「ワタクシは前世から仕えていましたよ」

「実は僕、前前世から仕えてました」

「ワタクシは前前前世から仕えていましたよ?」


 予想通りの展開になった。

 ライトのオレへの愛が強いか。

 ピサロの忠誠心が強いか。

 面倒なことになった。

 オレはチラリとラナを見る。彼女はこの争いに入らないのかな。

 入ってくれたら嬉しいんだけど……。


「何? 見ないで」

「はーい」


 まぁですよね。

 オレは美少女に拒まれて興奮するという変態ではない。

 だが、彼女がこの争いに入ってくれたらもっと面白いことになると思うんだけど。


 二人の討論が熱を帯びる中、とある部屋が視界に入った。


「……ッ!」


 オレはその部屋の名札を見つけた直後、足を止めた。

 同時に心の奥底から火山噴火の如き怒りが込み上げてくる。

 この宮に入ったら必ず暗殺すると決めていた人物の部屋だ。

 憎き怨敵。あの日、あの出来事を起こした張本人。

 殺してオレがその地位に成り代わる。

 さすればかなり飛び級して、ランクが上がるのだ。


 オレは迷いなくドアノブに手をかける。

 中に押し入って、寝ている人物を殺す。





 その名札には──『王の部屋』と、文字が彫られていた。


 

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