第十七話 聖剣をこの手に
翌日。
さて、仲間、といっても二人だけだが一人よりはマシである。
いち早く王宮内に侵入し、『聖剣』を手に入れようとしたが大変なことになった。
「理由は何故ですか」
「単純明快だ。それに、理由は先程述べたであろう」
「ですが、今更どうしてですか」
オレは父と真っ向から意見をぶつけ合っていた。
至って冷静ではあるものの、父の瞳はどこか血走っている。
「この期を逃す訳にはいかないからだ」
「しかし、なぜ──なぜオレ達と王宮に侵入などと?」
オレが今日、王宮内に侵入し、『聖剣』捜索を始めんとしていたところ父が待ったを掛けた。
その理由は、自らも参戦したいという理由だからだ。
意味がわからない。
理由を尋ねても粗末な言葉ばかりを返すだけで、理にかなったものはひとつも無い。
「父さん理由をハッキリしてください。でなくば力づくでも貴方を──」
「ほう。私を力づくとは面白い。やるか?」
問いを投げかけた直後、父の体格が数倍に膨れ上がり、威圧感が増したように感じられた。
鋭い眼光から漏れる殺気に当てられたオレはごくりと固唾を呑む。
ハッタリじゃない。本気だ。
「わ、わかりました。ですが、理由はやはり教えていただかねば」
「私情だ」
「え? 私情?」
「かつての恩を返しに行く。ただそれだけだ」
それだけなら躊躇う必要はなかったんじゃ、と思ったが父にも事情があるのだろう。
「良いな。私も同行する」
「わかりました。では早速」
「愚か者。何をしている」
「え? 今から侵入しようと」
「馬鹿者。こんな昼間に攻め込む者がいるわけないだろう」
「あ……確かに」
「急いては事を仕損じる。何を焦っているのだ」
焦る。
オレは焦っているのだろうか。
だとしたらその理由は、一体何なんだ。
「王宮の内部も知らぬだろう。私が教えてやる。他の二人も呼んでこい」
というわけで、夜になるのを待つ間、色々と作戦を練ることにした。
※※※
「以上だ。私は王宮に入ればそなたらと会うことは無い。助けを求めたとて無駄だ」
「ご心配なく。貴方の息子は強いので」
「息子、か」
何かを憂うように父は繰り返す。
どういうわけか父は王宮のことについてやたらと詳しかった。
警備隊の巡回時間や入れ替え時間、内部構造、どこから侵入すればバレないかなど、普通ならば知りえないことまで熟知していた。
もしやこの人は、
「しても仲間が三人って少ないですね兄上」
「まぁ確かに。でも、攻城戦をする訳じゃないから大丈夫だろ」
「左様。少数精鋭こそ此度に相応しい」
精鋭という言葉に反応し、オレは左右を見る。左には橙色の髪を持ち、オレを兄と慕うライト。
右にはいつまでもツンとした顔を見せ、地面に届くまでの雪色の長髪を伸ばした少女がいる。
『操心家』と『魔法使い』のルーン所持者たち。各々の戦闘スキルについては両者共に不明なことが多い。
だが、問題ない。
オレがいればなんとかなる、はず。
デバフとして『呪いの子』が付いているが、マナの滞りは大分改善された。
「力合わせて頑張ろう」
「はい兄上」
「やだ」
大丈夫かな、心配になって来たよ……。
その後のフリー時間になった。
夜が更けていくのを待っている間、オレはラナに話しかけることにした。
「ラナ、君は本当に協力してくれるんだよね」
「今すぐにでもアンタを殺したい。でも、それが出来ないから仕方なく手伝ってあげる」
「じゃあ、オレが無理なことを言っても君は従ってくれるんだよね?」
「内容によるけれど」
「オレが死ねといえば、君は死んでくれるのか」
「代わりにアンタを盾にする」
「た、盾。なるほど分かった。じゃあひとつお願いがある。耳貸して」
刹那、水刃が通り抜けた。
オレは首を横に動かしそれを回避。
「やだ」
ラナは真顔の表情を動かすことなく拒否。
言葉と行動の順序がめちゃくちゃだ。
オレであったから言いものの、ライトであれば死んでいたかもしれない。
下心は少しあるが、別に百パーセントというわけではないんだが。
止むなく耳打ちをやめて、普通に事を告げる。
その内容に、怪訝そうな顔をされたが彼女は「それなら良い」と言って首を縦に振ってくれた。
さて、時刻は体感十二時を回った。
良い子はみんな寝る時間だが、オレたち三人はそんな良い子ではないので寝ていない。
市井に出る際にはもちろんのこと、ボロ布を脱ぎ捨て若干の普服をまとう必要がある。
さぁどうしたものかと思った時、父がどこか秘蔵の場所から黒衣を取り出した。
加えて、サイズはオレたちにピッタリのもの。
フリータイム中に繕ったか、はたまた事前準備か。
ライトとラナが黒衣を纏うのに苦戦し、互いに手伝いっこをしている間にオレは既に用意が出来ている父の元へと向かう。
「父さん、ひとつ願い事を良いですか」
父は奇妙な顔つきでオレを見つめた。
これまで、そのように願望を告げると宣告したことは無いので珍しく思ったのだろう。
「帰ってきた後、父さんの素性について教えてください」
「素性もなにも私はお主に隠し事はひとつもしていない」
「オレは依然として父さんの名前を知りませんし、経歴も知らない。何より──」
オレは視線を斜め下へと落とす。
シワが目立つようになってきた父の左手。そこにあるのは、なんとも言えない形をした剣のようなもの。
「お主が『聖剣』を手に入れた暁に、な」
「約束ですよ」
いい加減父のことについて知りたくなった。
毎日同じ場所にいるにも関わらず、オレと父はどこか他人のような関係性だった。
それは父が隠し事をし、素性を明かしてくれなかったからだろう。
『聖剣』ハバギリも、父に関することの情報も手に入れる。
オレは強欲に行く。
ようやく着終わったようで二人は扉前に待っていた。
「兄上行きますよ!」
「遠足気分だな」
「それくらいで良い。重く捉える必要は皆無だ」
「……着るのに時間掛かってたね」
「久しぶりだから」
「え?」
「何でもない……」
こうしてオレたちは王宮の武器庫、『聖剣』入手を目指して家を出た。
──二度と帰ることが出来るとも知らずに。




