表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
17/32

第十六話 絶対服従


 珍しい光景が貧民街で見られた。

 一日の仕事をあらかた終えて家に帰るこの時間、とある一軒家から火の手が上がった。


 パチパチと音を立てながら家の壁を燃やしていき、真っ黒な煙を立ち上らせる。

 その黒煙は一般市民が住まう市井でも、目視出来るほどであった。


「お、おい、火事じゃねぇか?」

「ホントだ、でもあの方向って」

「なんだ貧民街かよ」

「ほっとけほっとけ」


 一般階級の人間が貧民の火事に目もくれない。

 何故か、それは貧民だからだ。

 王都の入口である北と南の門。

 それを中心に考えると貧民街は南門側の左端に寄せられている。


 そこが火事になろうとも生活に支障をきたす程度でなくば誰も助けにいかないのが普通である。


 誰も傷つかない。誰も焦らない。誰も叫ばない。

 そんなわけは無い。

 唯一、この悲劇に呼応する人物がいる。


「やめてぇぇえ!!」


 なけなしの微量な水魔法で鎮火をする雪色の少女。

 無垢な顔はやや強ばり、大粒の涙が頬を伝っていた。

 特に少女が気にかけていたのは家の脇にポツンとある両親の墓。

 そこだけは死守せんと鎮火させていた。

 だが、立ち上る炎はどういうわけか勢いが強まるばかりで衰える様子は一切見せない。


「やめて、やめてよ! 燃やさないで!」


 パチパチと絶望の音が彼女の体を、心を蝕んでいく。

 焼け焦げた灰の匂いが彼女の鼻を刺激し、より彼女に深い絶望を与える。


 この貧民街には緑が無い。

 何故か、大地のひび割れを見れば一目瞭然。つまり湿気というものが存在していなのだ。

 故に炎は力強く、かつ気高く上がる。

 彼女の家を訪れ、墓を見た時からオレはこの作戦を考えていた。


 寧ろルメアでも動かせなかったのだからオレに解決できるはずがない。

 強引ではあるもののこれしか手段は無かった。


「酷いですね兄上」

「酷い? ライトにはそう見えるんだ。オレは違うね」

「一体どんな景色を見ているんですか?」

「あれは希望の炎だ。オレたちに取っても、彼女に取っても未来のための炎。なんの問題もない」


 オレたちはそれをやや後背から見ていた。

 ライトは少し驚愕しオレを見ていたが、それでも彼はこう言った。


「流石ですねムミョン兄上」


 ライトの忠誠心はこれで判明した。

 彼は間違いなく良い配下になる。



※※※



 大炎が鎮火されたのはそれから一時間後だった。

 全てを焼き尽くすまでオレとライトは口を挟まなかった。

 最も彼には最後の布石として機能してもらうために見えない場所にいるが。


 ただ真っ黒な土ともいえない土だけが残っていた。

 彼女が懸命に守ろうとしていた墓も、家も、思い出も全て焼け焦げ、消滅。

 拠り所としていた唯一の支えを失った。


 ザッと誰かが地面を踏み鳴らし塀の内側へと侵入する。

 彼女は咄嗟に振り返る。

 すると、みるみると表情が憤怒の形相に変わっていく。


「これでもまだ、オレと行かないというか? ラナ」

「……っ!」


 奥歯が割れる音と共に、彼女の清廉潔白な顔に般若が宿る。

 怒ってもなおキレイな子だ。

 ラナは勢いに任せ、先程の大炎を再現するが如く炎を召喚。

 炎柱が、オレを包み込む。

 想定外──まさか、言葉も無くいきなり魔法を使われると思わなかった。


「……うそ」

「窮鼠猫を噛む、ってやつだ。ラナ諦めろ」


 だが、オレには効かない。

 オレには勇者のルーンがある。

 アビリティにある『全属性半減』が作用した。

 それによって暖房程度の熱量に低下したのだ。


 彼女は魔法使いのルーン所持者。

 よってオレとの相性は最悪だ。

 ラナはめげずに魔法を行使する。

 火、水、風、土と属性を変更してでもオレを拒む。

 火に当たっても燃えず、水に晒されても溺れず、風に当たっても切り裂かれず、土に当たってもオレは割れない。


 やがてオレとラナの距離は息がかかるほどに近くなる。

 何をしても効かない──そんな絶望が彼女を襲うかと思いきや、水晶の瞳にはオレを蔑む感情が宿っていた。


「憎いかラナ」

「……っ」

「君の大事な拠り所である家を燃やし、君の攻撃を全部受けても倒れない。

 大事なモノを壊したオレが憎いのに倒せない。悔しいか」

「……絶対に、許さないっ」

「それでいい。ラナ、その感情を持ったままオレと一緒に行こう」


 ソッと彼女に手を差し伸べる。

 しかし、ラナは払い除けた。

 尻もちをついたままでも、彼女の気迫は衰えない。

 紅色の唇を真っ白な歯で噛み締めながらひたすらに見上げる。


「復讐したいんだろ。オレを殺したいんだろ? ならオレの常に近くに居ればいい。そしたら、常にオレを殺せる」

「……っ!」

「もう一度言う。ラナ、オレと来い。憎むな、なんて言わない。だけど、君の力が必要なんだ。この世界を終わらせるためには──だから、一緒に、来て欲しい」


 オレはもう一度手を前に出す。

 ジッと彼女を見据える。

 もしも、ここで取らなければ──。

 なんて事ないはず。

 彼女ならば、取ってくれる。


「分かった……でも、忘れないで。全部が終わった後、アタシがあんたを殺すから……っ!」


 細くしなやかな眉が吊り上がった直後、彼女は恨みの情も込めてオレの手を握った。

 これにて目標達成。




 明日から、王宮に侵入し、『聖剣』ハバギリを、この手に──。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ