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第十一話 勇者は呪いの子

 いかん、いかんいかんいかん。

 何でだ。

 思い描いていた構図と全く異なるぞ。

 勇者と名乗れば優遇されるはず、ではないのか!?


 そんな理想とは反対に現実の視界では、武器を手にした兵士たちが俺たちを取り囲んでいた。


「子供だからと躊躇するでない! 一思いに首を飛ばせ!」


 神輿に乗った状態で王が号令を掛ける。

 瞬間、兵士たちが動いた。

 まず初めに動いたのは正面にいる槍を構えた矮躯な者。

 磨かれた鋭利な先端を俺に向けた。

 すぐさま俺は腰の剣を抜き、槍を防ぐ。

 そのまま弾きかえ──


「非力だなぁ!」


 逆に俺の剣が跳ね返された。

 馬鹿な──そんなはずは。

 繋がるように槍が俺の肉体を穿たんと放たれる。

 すぐさまマナで覆う。

 さすれば耐えられるはず。

 俺もルメアも、そう思っていた。

 だが、


「ぐぅぅぅ!」


 槍が横腹を捉えたのだ。

 噴水のように血が噴き出し石畳と装束を赤に染め上げた。

 熱と生ぬるい血液が抜けていくのを感じつつ、俺は身体に起きた『異常』に驚愕する。


「何でだ……」

「ムミョン!」


 ルメアが間に入り、その兵士の脇を切り上げた。

 その兵士は槍を落とし、数歩後退りする。ら


「バカ! 何やってんだ!」

「違う、マナが……纏えない……!」


 そうこれまで通りにマナで身体強化をしようとした瞬間、マナの循環速度が急速に低下し、想定以上の時間が掛かった。

 先程より感じていた違和感の正体──それがこれだった。


 俺は常時マナで身体能力を底上げしている。

 故に子供の身体を逸脱したパワフルさと俊敏さ、思考回転、冷静さが保たれていた。

 マナの加護による恩恵が当たり前となり俺は依存状態に近いものに成り果てていた。


「動けるよな? 勇者がこの程度でくたばるはずがないだろ!?」


 ルメアの主張とは裏腹に、俺は涙を堪えるので精一杯。

 子供の身体は敏感で拙いものだ。

 ちょっとした傷が大怪我のように反応する。

 それが脇腹を抉られたらどうなるか、言うまでも無いだろう。


「おいムミョン! 早くこい!」


 脇腹に手を当てまだ温度がある血液を感じつつ、俺は全身の強い倦怠感に千鳥足となっていた。

 やがてはその場に足を折ってしまった。


「がぁ……」

「おい! うそだろ!」

「ハッハァ! 死ねや勇者とやら!」


 無数の兵士が襲いかかる。

 どれもこれも鎧を纏い剣を振ったところでダメージが入らん。

 まずい、想定外過ぎる……こんな時、どうすれば……。


「おらぁぁ!」

「ぐぉ!」「ぎゃっ!」「がぁっ!」

「まずはこっちのガキを抑えろ! そうすれば後は簡単だ!」


 急げ、立てよ俺。

 マナの滞りが悪くても全く回らない訳じゃない。

 時間は掛かるがいつも通りのことは出来る。

 落ち着け深呼吸だ。

 マナの感知して、呼吸と同じように速度を上げる、そして患部を癒す。


「フーーーー」


 今は辛うじてルメアが引き受けてくれている。

 さすればこの時間を利用すればいつも通りの調子に戻せる。

 大丈夫だ。

 ルメアなら耐えられる。

 ルメアなら俺を信じて復帰を待つはずだ。


「うぉ!?」

「……っ!」

「二人まとめて殺っちまえ!」


 視界が激しく揺さぶられる。

 背中と腰に摩擦熱を感じる。

 地面と近い。

 引きずられている、のか?


「……ぐぅ! 行くぞ!」

「あ、ぇ?」


 首を動かせば全身傷だらけとなったルメアが俺を引きずっている。

 不利と判断したのか、だとしても俺は。


「ルメア離して! 僕は、歩ける!」

「嘘つけよ! あんな歩き方じゃあオレまで死ぬ!」

「大丈夫! マナの循環がやっと上手くいった。傷の痛みも和らいで──」

「さっきダメだったろ! 強がるな!」

「は……でも」

「とりあえず今は逃げるぞ!」


 正面に顔を動かせばゴツイ銀の鎧をまとった兵士が武器を手に追いかけて来ている。

 重量があるのだろう、徐々に距離が離れていき清らかな視界から一変、泥と饐えた匂いのするいつもの世界に戻っていた。



※※※



「馬鹿野郎!」

「ぐぁっ!」


 あれから俺たち、いやルメアは走り続けた。

 自らも手傷を負っているにも関わらず俺を見捨てることなく走ってくれた。


 そんな彼は罵声と一つと共に俺の頬を平手打ちした。

 ジンとする痛みを感じつつ視界が地面と近くなる。


「何やってんだよ!」

「マナの循環が極端に遅くなったんだ。ワザとじゃ──」

「オレがいなかったら死んでたぞ!」


 ぐうの音も出ない。

 異常はあれよりも前に感じていた。

 しかし、確証がないこと、戦闘になることは無いだろうとタカを括っていた。

 そしたらまさかの予想外。

 王に勇者だと明かした途端、毛色が変化し殺されそうになった。

 どういう事だ。

 なぜ勇者が毛嫌いされている。


「マナ頼りになってるからだよ! 異常があるなら早く言えよ!」

「伝えようとした、でも……間に合わなくて」

「言い訳するなよ!」


 俺だって好きで言い訳してるわけじゃない。

 何が何だか分からない。

 マナは使えなくなるし、勇者として殺されそうになるし、父は行方も分からないし……。

 そもそも試験って何だったんだ。


「こっちだ! こっちから声が聞こえたぞ!」

「……っ! 背負ってやるから乗れ」

「いや、いい自分で」

「無理だろ。今だって顔が引き攣ってる。歩けるわけがないだろ、早く乗れ」


 彼は背中を差し出した。

 俺よりも小さく頼りがいのなさそうな背中だ。

 腕も骨が見えそうなほど痩せている。

 乗りたくない。

 ここで乗れば俺のプライドというか、何かが傷つけられる気がしてやまない。


 だが、彼の言うように俺は歩くことは困難。足を引っ張るのは否定出来そうもない。

 俺は仕方なく彼の背中に乗った。


「すまん……」

「勇者のくせに足引っ張るなよ。死んだら元も子もないんだからさ」


 面目ない、と言いたいがここまで言う必要あるのか?

 彼の言動が鼻がつき少し居心地が悪い。

 兵士たちの声を背中に、前では彼の小言が耳障りだった。



※※※



「今日のところは野営だ」


 近場にあった家は全て、兵士たちによって包囲されていた。

 そのため家を出て、市井とは反対の方角に必死に、必死に足を動かした。

 行ったこともないような場所で俺たちは火を中心に車座となって今後の展望をどうするか、考えた。


 だが、各々の脳内でだ。

 何故か顔を合わせて話し合うことはせずに。


「何でこんなことに……」


 事の発端は父から告げられた試験とか言うもの。

 そこから全てが狂った。

 

「明日はもう助けないからな。オレまで死にそうになったし」

「……ごめん」

「浮かれてるなよ。ルーンを授かって、それも珍しい勇者を貰ったからってさ」

「…………」

「ルーンを持っている君が持っていないオレに助けられるなんて恥だぞ」

「……」

「結局ルーンとは名ばかり。三歳で授かったからって吉じゃないね。君が授かってなければこうはならなかった」

「……っ! お前!」


 俺は無意識に胸ぐらを掴んでいた。

 突拍子も無い行動に彼は、目を丸くしていたがすぐさま眉を吊り上げ津波のような勢いを瞳に宿らせた。


「何だよオレは間違ったことは言ってない! 君がルーンさえ授からなければこうはならなかった!」

「僕だって好きで授かったんじゃない!」

「嘘つけよ。年齢まで嘘ついて、オレを騙したくせに! 二人で授与しようって約束を破ったのは君じゃないか!」

「だから僕は! 嘘なんてついてない! 君と同い年だよ」

「じゃあ五歳で行われる『晶石の授与』はどう説明するんだよ!」

「それは……」

「ほらな! 理由説明も出来ないくせに! 君が読んできた本の知識は右から左に流れてるだけなんだよ!」

「……っ! 元はといえばお前が勇者だって公にしたからだろ!」

「それは……」

「こうなったのはお前のせいじゃねぇか! 勇者ってことを使わなくて絶対に良い案が出たはず!」

「じゃあ言ってみろよ! どんな手段があったか、あれ以外の方法があるのか!」


 ただ胸ぐらを掴んでいただけの状況がいつの間にか取っ組み合いに発展していた。

 いつもなら勝負にもならない。

 マナの加護があれば一瞬で勝敗が決する。

 だが、それは出来そうにもない。


「言えないだろ! ほらな、あれ以外無かったんだ!」

「じゃあなんで勇者が、嫌われてるって、知らないんだよ!」

「知らないよ! オレが、そんなこと知ってるはずが無いだろ! 君なら知ってるって、信じてた!」

「僕だって知らない事があるんだ!」

「信じてたのに、君は裏切った! 勇者のルーンも貰って、勇者のことも知ってると思ったのに!」

「そんなの、お前の妄想だろ! 知ってるって思ったお前が悪い!」


 俺は彼を投げ飛ばした。

 年齢は同じであれど、彼は矮躯で筋肉がない。やせ細った体で俺に勝てるわけが無い。


「二人で成り上がるなんて無理に決まってる! 恩に報いることが出来ないお前がこの実力主義世界を覆すなんて机上の空論だ!」

「な……」

「そもそもお前をいじめっ子から助けたのは誰だ? お前に武術を教えたのは誰だ? 全部僕なんだよ! 僕がいなければお前はとっくに死んでた。その恩を忘れて僕を信じられないんだったらどっか行けよ!」

「ムミョン……」

「お前なんか大っ嫌いだよ!」


 尻もちをつく彼の様子を他所に俺はハッとなる。

 言いすぎた。

 くっそ、何でこうなった。

 頭を冷やさないと。

 顔を下に倒すルメアを見て、俺は謝ろうとしたがその言葉が喉を通らなかった。


「……ル」

「やあやあ、見させてもらったよ」


 夜の星々が輝く元に、一人の人物が割って入ってきた。


「醜いね。貧民であること自体がみすぼらしいにも関わらずその喧嘩の仕方まで。でも愉快さは持ち合わせているようだね」


 影を切り裂くように月光を身に浴びたその人物は、上品にかつ丁寧に手を胸に当て一礼。


「私は『剣神』アレクサンダー・ヴァール・ジークハルトの一番弟子『剣王』のルーン所持者、タケル・タティス」

「剣神……だと?」

「剣王……?」

「残念ですが、その愉快な茶番も終わり。あなた方二人には死んでもらいます。忌まわしき勇者は、排除するのが決まりですので」


 優美に月光を跳ね返す白髪の髪が揺れ、剣士服の襟が風に靡いた直後。

 奴の腕がブレた。


 血が噴き出る音が聞こえた刹那、既にルメアは切り裂かれていた。


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