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元帝国と魔界、エンディングと言う名の再出発

《 帝国の今後:エリックとミリア 》


―――激闘を制した後の一ヶ月、


エイリュシオン帝国の帝都グランフェリアは傷痕の刻まれた街並みを見せながらも、

少しずつ日常を取り戻しつつあった。


早春の暖かい風が瓦礫の山に積もった埃を払いながら通り過ぎていく。

そんな光景を横目に、エリック・ダグラスは汗を拭いながら作業を続けていた。


エリックはかつてのアルフォンスの部下であり、今では帝都の復興に尽力する騎士の一人だ。


黒く重厚な鎧を脱ぎ棄てて簡素な服に身を包んだその姿は、

かつての豪胆な印象から一変して親しみやすさを感じさせる。


しかし、彼の手に持つ工具は確実に街の修復に役立てられており、

その手腕には揺るぎないプロフェッショナリズムが垣間見える。


「ほらっ!次はそっちの壁を補強しろ!」


彼が鋭く指示を出すと、周囲にいた兵士や市民達はすぐに従った。

まるでそれが当たり前の流れであるかのように。


それに対して彼は満足そうに頷くと、ふと通りかかった老婦人に話しかけられる。


「ありがとうねぇ……騎士様。本当に助かりますよ」


皺だらけの笑顔で言う老婦人に対しエリックも笑顔で応える。


「そんな畏まらないでくれよ。俺だって、元は平民なんだからさっ。

 大層な仕事をしてるなんて、最初は不安だったくらいなんだよ」


「そうですか……それにしても凄いスピードで進んでいますね」と感心している。


それもそのはずだ。

エリックを筆頭に多くの騎士団員や兵士達の尽力で作業は順調に進んでいるのだ。

皆、かつてのエリックの上司であるアルフォンスに薫陶を受けた者たちだ。


しかしそんな彼らの姿に羨望の眼差しを向けているのは何も老人だけではない。


幼い子供達がエリックの姿を認めて駆け寄ってくる。


「お兄ちゃん!ありがとう!!」

「今日は何を作るんですか?」


など質問攻めにあって困惑するが悪い気はしない。


「おう!そうだな……今日はこの辺りの建物を全部直すつもりなんだぜ?

 楽しみにしていてくれよな!」


そう言って彼は誇らしげに胸を張って答えた。


その言葉通り翌日にはほとんどが元の姿を、

取り戻していたので人々の喜びもひとしおだった。


「お疲れ様ですエリックさん! 

 今日はまた一段と大きな瓦礫を片付けましたね!」


明るい声がエリックの耳に飛び込んできた。

振り返るとそこには、小さな影が彼に向かって駆け寄ってくる。


栗色の短い髪が風になびき、元気いっぱいの笑顔を見せるのはミリアだ。


彼女はかつてカズマの魅了に囚われていたものの、

今は聖女リーン=世界線Aのアリシアの助力により絶望の記憶は浄化され、

その身は清らかな乙女として再生した。


記憶は消え去っても、カズマに媚び寄り添っていたときの彼女の悪評は残る。

しかし女神フイリアの聖女であるリーンが、聖教会をはじめ民にもカズマの

真実を伝えた。その尽力により彼女の名誉は守られ回復した。表面上はであるが。


そして日々、帝都でボランティア活動者として振舞っている。

彼女の献身的な姿勢は多くの住民たちの尊敬を集め続けていた。

それは、いまだ残る悪評など祓いのける程の奉仕の賜物でもある。


今では孤児院の世話係として忙しい日々を送りながらも、

帝都の復興支援にも積極的に参加している。


「ありがとうミリアちゃん。まぁこのくらいなら大したことじゃないさ」


「そんなことありません!エリックさんは凄いんです!みんな尊敬してます!」


ミリアの熱っぽい語り口調に思わず苦笑するエリック。

以前はカズマへの盲目的な崇拝に似た感情を持っていた彼女だが、

今ではそれとは対照的な自然な笑顔が溢れている。


二人が出会ったのは一ヶ月前のあの戦いのあとすぐだった。

リーンが二人を引き合わせ、共に帝都復興のため力を合わせるように促した。


当初こそ互いに戸惑い気味であったものの、次第に打ち解けていった。

それは単なる偶然ではなく必然と言えるかもしれない。


なぜなら二人ともかつて同じ帝国に所属しながらも、

それぞれ立場を違えた運命の犠牲者同士なのだ。


とはいえミリアの方は自分が騙されていたことを認識していない。

ただ聖女リーンに感謝しているだけであり、ミリアも彼女の事情は知らないままだ。


一方、エリックの方も複雑な心境である。


己がかつての上司アルフォンスを追い出した側の人間であることと、

直に彼の元に駆け付けられなかった事に、いまだ自責の念があったからだ。

だがそれを表に出さず今は目の前にある仕事に没頭している。


---


午前の作業が一段落し昼休憩に入った頃合いのことだった。

広場に設置された仮設ベンチに座りながらエリックが汗を拭いていると、


「あのぉ……すみません!」

声の主に目を向けるとそこには先程のミリアが立っていた。


「どうしたんだ?」

エリックが優しく尋ねると、


「お腹減りましたよね。良かったらこれ食べませんか?」


そう言いながら彼女は持参したバスケットを開ける。

中に入っていたのは彩り豊かなサンドウィッチとリンゴジュースだった。


「おお!これは美味そうじゃないか!」


嬉しそうに受け取るとエリックは一口食べる。

新鮮なハムと野菜が挟まったそれを齧ると口の中に旨みが広がっていくようだ。


「どうですか?」

心配そうな顔をするミリアに対しエリックはニッと笑って答える。


「最高だよミリアちゃん。君も早く食べるといい。

 こんな美味しい食事を頂けるなんてありがたい限りだぜ」


その言葉にホッとした表情を浮かべるミリア。その様子を見て改めて思う。


『ああ。やっぱり彼女は優しい子なのかもしれないなぁ』



それから暫く談笑しながら二人して食事を済ませた。

その後片づけを終えてふと見ればミリアはじっと帝都を見つめている。


その帝都を見つめた後、彼女はぽつりと言った。


「あの……」


「ん、なんだい?」


エリックの問い掛けに対して少し躊躇した様子だったが思い切ったのか続けた。


「これから……この街は、帝国はどうなるのでしょうか……」


確かに今回の戦いで多くのものが失われた。


政治中枢を担っていた要人たちの多くが亡くなったことは想像以上に深刻なものだ。

特に皇族直系の者たちは全滅しておりその意味は大きい。


現在、生き残っている辛うじて主要人物たちと呼べる者たちといえば、

帝都外に居住する傍系の皇家と領地貴族たちくらいだろうか。


しかし彼らの間では帝国の覇権を得るために内紛が起きることも"危ぶまれた"のだ。


そう、"危ぶまれた"のだ。


ある奇跡……いや、それは必然だったのかもしれない。


誰に感謝される為でもなく人々の為に尽くしたふたりの男女の賜物により、

今、帝国は新たな歴史に入ろうとしていた。少なくとも現在のところは。


なぜならあの決戦の夜よりひと月経った今尚も、帝都に続々と人が集まってくる。

彼らの共通点はただ一つ、国の未来について憂い焦がれる気持ちである。


それらは全てかつて真の勇者に覚醒する以前に、

アルフォンスとリーンが歩んだ旅路で培ったものなのだ。


解放者と"救済者"と呼ばれ多くの人々を助け歩き続けたふたり。

幾多の不幸から救い出された村人や避難民たちは彼らこそ真なる希望として讃えた。


二人は各地で起こり続ける魔族の襲撃に国の助けがなく苦しむ人々を助け導いていた。

時には魔族の攻撃により壊滅した地域まで赴くことも厭わずに。


そして、アルフォンスとリーンが帝都を救った情報は帝国中に広がった。


多くの人々が"解放者"と"救済者"の力となるべく、帝都を支えるべく集まったのだ。

その熱量は凄まじく、領地貴族も傍系皇家も野望の実現を封じられるほどであった。


そして民衆たちの間では、共和制への移行も希望されつつあった。


二人の旅に助けられた民衆達は気づいた。

この国の行く末を左右するのは既存の権力は絶対でははないと。


だからこそ我ら自身も立ち上がるべきなのだと知った瞬間でもある。

だからこそ帝都の窮状を見て見ぬ振りなどできよう筈も無かったのだ。


今、彼らは帝国の行く末について意見を交わしながら瓦礫をどかしている。

未来への小さな希望を絶やさぬよう、方々より運び込まれた食料で炊き出しをする。


そんな様子を眺めながらエリックがポツリと呟くように言った。


「大丈夫さ。きっと良くなるはずだ。

 アルフォンス様……さんとリーンさんの無私の奉仕のおかげでな……」


「あの二人のような人がもっともっと増えていく。

 ミリアちゃんが作ってくれたサンドウィッチとリンゴジュースも、

 彼らの好意によってもたらされた物だ。民は皆に優しくなれるんだ」


「だからさ、帝国は違う形としてだけど、変革できるんじゃないかと思うんだ」


それを聞いていたミリアは大きく首を縦に振った。


「はい! 私もそんな国に世界になって欲しいです。

 そのためだったらどんなことでもしたいです」


二人はお互いの意思を確かめ合うかのように見詰め合ったあと、

微笑みを交わしたまま再び帝都全体を見渡した。


「アルフォンス様とリーン様……どうされているのでしょうね……」


少し寂しそうにミリアは独り言のように呟いた。

それをそのまま流すさずにエリックはミリアわ元気づけるように応える。


「二人はようやく自分たちの幸せを目指して歩み始めた。俺たちは二人の幸せを祈ろう。

 と言っても……絶対にどこかで人助けしてそうだどな」


「フフ……そうですねっ!」


「さてと……じゃあご馳走様っ! じゃあ俺は次の現場に行かないと」


彼は自らの心にも決意を入れ替えて歩き始める。

その背中を眺めながらミリアはぽつりと呟いた。


「やっぱり素敵ですね……エリックさんも」


そうして再び仕事に没頭した彼らを夕日の赤い光が包み込む。

明日もまた新たな一日が始まるであろう予感がそこにあった。


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《 魔界の今後:四天王ガルドムの重責 》


魔王ガルグリム消滅のあと、魔族の領地は深い悲しみと混乱に包まれていた。

帝国との激戦から一月が経過した今も傷は癒えていない。


四天王最古参にして最後の生き残りであるガルドムは、

魔族の統率者として重責を担っていた。


灰色の肌と六本の角を持つ老練な戦士は、

この地獄のような状況を打開すべく奔走していた。


---


朝靄が立ち込める魔界の大広間。


かつて魔王の玉座があった場所には中身の無い冷たい石棺が置かれ、

その上には漆黒のローブのみが残されていた。


ガルドムは巨岩に腰掛け、深いため息をつく。

彼の顔には疲労の色が濃く刻まれていた。


「また来たのか」


突然の声に振り向くと、配下の若い戦士たちが集まっていた。

彼らの目には怒りと使命感が燃えている。


「ガルドム様!魔王様の仇を討つべきです!」


「そうです!我々の力を結集すれば必ずや勝利できます!」


魔族の若者は血気に逸り、復讐の念に燃えている。

ガルドムはその感情を理解しながらも、静かに首を横に振る。


「落ち着け。今の我々に争いを仕掛ける余裕はない」


「なぜですか?魔王様の霊が報われないではありませんか!」


若い戦士が叫ぶ。その声には悲痛な響きがある。

ガルドムはゆっくりと立ち上がり、静かな口調で答える。


「敵は勇者と聖女だけではない。帝国の首脳陣は失われても帝国の兵は健在。

 そして民たちの団結は目を見張るものがある」


「それに……我々の役目は今は変わった……魔族を守り育てるのが今の最優先事項だ」


その言葉に若い戦士たちは納得できない表情を浮かべるが、

ガルドムの威厳ある姿勢に圧倒され押し黙る。


「我々は耐えなければならない。

 いつの日か必ず再び立ち上がる力を蓄えるためにも。

 今は団結して生き延びることが大切だ」


若者たちの目に失望の色が宿る中、ガルドムは更に続ける。


「それでも尚、戦いを望むならば止めはしない。

 しかし……無謀な突進は一族に大きな損失を齎すことになる」


若い戦士は反論しようとしたが、ガルドムの厳しさを感じ取り沈黙した。


「ではせめて……我々の指導者が必要ではございませんか?

 ガルドム様こそ新たな魔王にお成りください!」


その提案にガルドムの眉が僅かに動く。彼は深呼吸をして答える。


「儂はその器ではない。

 儂はただの戦士であり過去に学び残された者に過ぎない」


「ですが……貴方様こそ適任では……!?」


若い戦士が反論しかけるがガルドムの鋭い眼光に言葉を飲み込む。


「いい加減にせよ。我々が求めるべきは新たな支配者ではなく結束力だ」


そして静かに告げる。


「解散しろ。もし尚も愚行を繰り返す者がいれば儂が相手をする」


その言葉に若い戦士たちは渋々踵を返して去って行った。

しかし一部は未練を残すように足早に去らずにいた。


---


彼らが完全に去るまでガルドムはその場で佇んでいた。


彼自身もまた内面で揺れていた。


本当は戦いたいという衝動が無いわけではない。


だが同時にそれが果たして正しい選択なのか悩む部分もある。


かつての主人——ガルグリム様は依り代として息子グルムドを選んだ。

ガルグリム様のために全力を尽くせたことに誇りを持ちながらも

息子を失った悲しみと憤りも当然胸の奥底にある。


しかしそれでも尚……


(儂は守る。それが我々魔族にとって最も大切な使命だろう……)


かつて人間たちとの戦いで多く失った家族や友人たち。その犠牲を考えれば

無謀な戦いで新たな犠牲を生むことは絶対に避けねばならない。


「……グルムド……」


石棺に向かい語りかけるように名を呼ぶガルドム。


冷たく硬質な感触しか感じられない棺からはもちろん返事などない。

しかし彼の中で確固たる決意があった。



最終回前の話しとして一話で纏めようと思ったのですが、

長くなりそうなので分けました。尚、アリシアの汚名を晴らすのは難しかったです。

だって本人が居ないんですもの。。。


ep44話に燃え尽きた灰から蘇るものイメージイラスト集UPしてます。

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