和馬とガルグリム、エンディングと言う名のざまぁ回
《 和馬の今:奪われた自分と千佳との結婚 》
鈴木和馬は27歳になっていた。
鈴木和馬の中の本物の彼が、異世界から日本に戻ってから10年近く経つ。
偽物だったはずの鈴木和馬。周りから認められ愛され満たされた人生は続き、
名門大学を卒業し大手企業に就職し順風満帆な社会人生活を送っている。
周囲からも将来有望な若手社員として評価されていた。
しかしその陰には永遠に誰にも気付かれない男の存在があった。
本物の和馬は10年の長い時間を魂の牢獄で過ごしていたのだから。
彼の眼差しは虚ろで光を失い、心は凍りついていた。
まるで氷の中に閉じ込められたかのように。
そんな彼に追い打ちをかける出来事が起きてしまった。
「おめでとうございますっ!! おふたりともっ」
純白のドレスを身に纏った女性が、
恥じらいと喜びの笑顔で祝辞のシャワーを受けている。
彼女こそ"偽物"の鈴木和馬の高校時代からの恋人、佐倉 千佳だ。
鈴木和馬が彼女にプロポーズした際、
本物の彼はその場面を見て思わず叫び出しそうになった。
千佳は高校時代からとても可愛らしい少女で学校でもカーストの上位にいた。
本物であった和馬にとっては何の繋がりも無い女性。
だが、女神フィリスによって心を暴かれ自身の仄かな恋心を自覚させられた。
そして、彼女は自分では無い鈴木和馬に恋慕の念を抱いていたのた。
それは和馬にとっては出来の悪い寝取られ小説のような話だった。
実際はBSSにもなってない。
しかし和馬にとってはそう思わないと自尊心が持たないのだ。
そんな佐倉 千佳が今、自分以外の男—―本来は自分がその人生を謳歌する身体――
の隣で幸せそうに笑う姿は彼にとって酷い絶望を与える光景だった。
そしてこの後に待ち受けるのは更なる地獄。
既に何回も見せつけられてはいるが、今日は特別な夜となるであろう。
自分の身体と千佳の夫婦としての初めての夜。
牢獄で和馬の心はとうとう魂の死に陥ろうとしていた。
――――
―――
――
『あらあらぁ? そんな楽な終わり、許すわけないでしょう?』
空気が揺れ、突然現れたのは白い光を纏った女神フィリアだった。
『そんなに絶望しているアンタを見るのも楽しいけれどね~』
『だ・け・ど、もうこれ以上見るに堪えないわ~。
アンタの魂が死んじゃったら面白くないじゃない?』
和馬の目の前に立つフィリア。
女神という事だが和馬にとっては最も憎むべき存在でしかない。
「…………」
和馬は声が出なかった。怒りよりも諦めが彼を支配していた。
『あれ~?いつもみたいに暴言吐かないの?
それとも言葉すら出ないくらいダメになっちゃった?』
フィリアは楽しそうに首を傾げた。
『ダメよぉ~まだ終わってないの。あの偽物があなたの身体を使い終えるまで。
それを全部見てからじゃないと意味がないじゃない?
そうでしょ? アリシアちゃんと私で、アンタの為に用意した罰なんだからね!』
『まったくもう……ヨワヨワなアンタの魂が壊れちゃうと困るからこうやって
いつもいつもアンタの前に現れたのよ。』
『私が揶揄ってあげないといけないと思ったのよ~。ほらほらぁ~頑張れぇ~』
「……」
微かに肩が震えた。和馬の心の奥底から何かが湧き上がってきた。
フィリアは続ける。
『そうそう!結婚してこれから……何?あぁ、セックスよね!』
『もう何回も見たでしょ?結婚してからのセックスがそんなショックなの?
夢見てるの? 乙女なの? 今どきじゃないよ? ほーんと キモイね?』
『あははっ!ねぇねぇ、どうなの?教えてよ~』
と挑発的な笑みを浮かべるフィリア。
「うるさいッ!」
和馬は立ち上がった。顔は真っ赤になり拳を握りしめている。
『もはや本物の鈴木和馬の彼だって分かっているでしょう?
アンタには関係ないんだから、気にしなければ良いでしょ?
無理だろうけどね♪』
とフィリアが嘲笑う。
「黙れッ!お前みたいな奴に言われたくないッ!!」
確かに心は擦り切れそうだったが、和馬の自尊心だけは不自然なほど強靭だった。
他人を傷つけていたのに自分だけは傷つきたく無いのだ。
『はぁ?」とフィリアは挑発的に笑う。
『そんなことを叫んでも何も変わらないのに。ほんとにバカみたい』
和馬は深呼吸しようとするが、うまくいかない。
自分を抑えきれずに口から出てくるのは言葉の暴力ばかりだ。
「俺の人生を奪ったのはお前だ!俺は本当の鈴木和馬なのに、
偽物なんかが幸せに暮らしてるなんて許せるわけないだろ!」
『ふーん』とフィリアはニヤニヤしながら言う。
『それだけ? 』
「アイツは偽物なんだっ、千佳もみんなも騙してるのが腹立たしいんだ!
なんでこんな目に合わなきゃいけないんだ!」
『そんなに怒ってても何も変わらないよ?
だってこれはあなたの贖罪なんだから。それに偽物は本当に優秀だし。
みんなが偽物ちゃんを選ぶのも無理はないんじゃない?』
フィリアはさらに続ける。
『アンタが何をしても無駄。だってその身体は彼のものだからね』
和馬の拳が震える。
「それなら……お前の力で全部無かったことにしてくれよ!
こんな地獄、もう耐えられないんだ!」
フィリアは一瞬真顔になり、『無理』と即答する。
『言ったでしょう?これはあなたの贖罪。逃げることはできない。それにね——』
彼女は微笑んだまま続けた。
『偽物はちゃんと周りを幸せにしてるよ? だから何の問題もないじゃない?
本物が不幸でも、鈴木和馬とその周りがが幸せならそれでいいじゃん!』
和馬は顔を上げるが、怒りと悲しみで歪んだ表情しか浮かべることができない。
「どうして……どうしてこんなことになるんだよ!」
『アンタが私のアリシアちゃんやアルくん、他にも酷い事したからでしょ?
だから……相応の罰を受ける必要があるんだよっ!』
とフィリアは冷たく言い放った。
和馬の胸が痛み出した。心の中で何度も叫ぶ。
しかし誰にも届かない。いや、届いても拒絶されるだけだ。
彼の瞳に涙が滲んだ。
それでも彼は泣かなかった。泣けば敗北を認めるような気がして——
蹲ったままの和馬は歯を食いしばっていた。
悔しさ
僻み
妬み
怒り
悲しみ
不満
無念
嫌悪
嫉妬
恨
怨み
苦しみ
憎悪
劣等感
およそ考えられる限りの負の感情が、彼の体内で渦巻いていた。
それでも未だ後悔という感情は無い。それは反省を伴うものだからだ。
身体が震え、爪が掌に食い込むほどの力で拳を握りしめる。
嗚咽をこらえる喉からは、押し潰されたような音が漏れていた。
「くそ……畜生……」
呟きは掠れ、虚空に吸い込まれていく。
その刹那───
『これで少しは大丈夫かな……? 次は出産かねぇ?』
フィリアの残した言葉が響き渡った。
和馬の表情が歪む。
「出産……」という言葉の意味が理解できた瞬間、彼は更なる絶望に沈んだ。
『まぁ、頑張ってね~』
そう言ってフィリアの気配は完全に消え去った。
魂の牢獄には再び静寂が訪れた。
そして彼の前には一つの映像が浮かび上がる。
『鈴木和馬』として生きる男の姿。
両親と妹が笑顔で彼を祝福し、友人たちが輪になって祝杯を挙げる。
父親は肩を叩きながら「よくやった」と言葉をかけ、
母親は涙を拭きながら「幸せになるのよ」と微笑む。
妹の美咲は兄の晴れ姿に羨望の眼差しを向けつつ、
「私も早く結婚したいなぁ」などと冗談交じりに囁いている。
彼の隣には純白のウェディングドレスを着た千佳が座っていた。
恥じらいつつも幸福そうな表情で彼に寄り添い、
指先を絡めながら微笑みかけてくる。
二人の姿はどこから見ても理想のカップルだ。
皆が拍手を送り、幸せを願う。
その全てが『鈴木和馬』が、その人生を真摯に生きてきた結果だ。
「……違う……」
和馬は小さく呟く。
「俺じゃない……俺じゃないんだ……」
牢獄の中には彼の絶望に満ちた声だけが虚しく響いた。
その一方で現実の時間は進んでいく。
人々は彼の不在など気にすることなく幸せを享受していく。
和馬がどれだけ拒絶しようとも
『鈴木和馬』として生きる彼は順調に人生を歩んでいった。
そして───フィリアの呟いた通り、
次なる絶望の種が芽吹こうとしていた───。
----------------------------------------------
《 ガルグリムの今後:差し出した神力と女神》
ガルグリムが白い世界に辿り着いてからしばらく経った。
女神フィリアの勇者と聖女に敗れ、
現世での依り代たるグルムドの肉体を失った後、
その魂は女神フィリアの力によりこの空間へと引き寄せられたのである。
ガルグリムは辺りを見回す。
【白い世界】──その名の通り一面が純白に包まれた何もない空間だ。
彼の感覚では時間の流れさえ曖昧になっているように感じていたが、
実際にどれほど時間が過ぎたのかは定かではない。
『──ここは……まさか、女神フィリアの……』
『フィリア! 出てこい!』ガルグリムが吠える。
漆黒の闇の塊から赤い双眸が爛々と輝く。彼の怒りは凄まじい。
特に今回は本来は勝っていたはずの世界を無かった事にされたのだ。
その怒りはおよそ収まるものとは思えないだろう。
叫び続けても応答がないことに焦れた彼は、周囲を警戒しつつ足を踏み鳴らす。
『どこだ! 女神め!』
その動きが白い空間に波紋のように広がっていく。
だが、彼以外には何者の姿も見当たらない。
怪訝な表情を浮かべるガルグリム。やがて、静寂の中から忍び笑いが響いてきた。
『ふふっ……ふふふっ……』
『!?』
ガルグリムが上空を見上げると、フィリアが宙に浮いていた。
両手でお腹を押さえ、全身をくの字に曲げて笑いを堪えている。
やがて限界がきたのか、「ぷっ!」という声とともに身をよじらせ始めた。
銀髪が揺れ動き、白いドレスが波打つ。
まさに笑いすぎて空中で悶絶している情けない姿そのものだ。
『ちょっ……ちょっとまって……ふふ……』
フィリアは息も絶え絶えといった様子で言葉を漏らす。
『調子に乗りまくって、余裕ぶっこいてたと思ったら……あっさり負けてんの……』
そこまで言うと再び爆笑し始めた。
『しかも……無駄に深読みしすぎたせいで……チャンス逃してたし……』
まるで"誰か"を見てきたかのように具体的な言葉が続いた。
そして思い出したのか再び笑い出す。
突然の事態にガルグリムは困惑した表情を浮かべる。
一瞬ではなく、そこそこの長い時間、彼女が何を言っているのか理解できなかった。
だが段々と事態が飲み込めてくる。
この女神が自分を嘲笑っているのだということに。
理解した途端、ガルグリムの赤く輝く双眸から火が噴いた。
『貴様……!』
怒りで全身が震え始める。
まるで目に見える炎のように、その怒気があたりの空間を揺るがせた。
『フィリア! 貧乳女め! 降りてこい! 卑怯者め!』
ガルグリムの怒号が白い世界に響き渡る。
『ああんっ!? 誰が貧乳だって!? ギリギリCはありますぅ!』
フィリアは顔を真っ赤にしながら叫ぶと、一気に地上へと降下してきた。
白い衣装が翻り、まるで羽根のように軽やかに舞い降りる。
『てか、私が貧乳でもガルに関係ないでしょっ!』
女神は眉を吊り上げると、笑いを堪えていた表情が一変した。
一瞬の沈黙の後、鋭い眼光でガルグリムを睨みつける。
しかし次の瞬間――
『ぷっ……!』
再び爆笑が始まった。
『ちょっと……! アンタあの戦い……! 最後まで情けなかったわね!』
腹を抱え、腰をくねらせながら大口を開けて笑い出す。
目尻には涙が光り、飛び散る唾がガルグリムの闇の表面に付着する。
『ざぁこ❤ ざぁこ❤ ガル君ったら、ほんっと弱っちいんだからっ!』
聞き飽きたような侮蔑の言葉が次々と投げつけられる。
その姿は神とは到底思えぬほど卑俗なものであった。
ガルグリムの闇が僅かに震え出す。
ゆっくりと顔の部分に触れた手が、怒りに震えながら唾を拭い取る。
『……人を指差すな。嗤うな。失礼すぎるぞ、この痴れ者が』
赤い双眸から迸る怒気は凄まじく、白い世界さえも歪ませるようだ。
しかし、フィリアはその怒りを涼しい顔で受け止め、さらにニヤリと笑った。
『は? だって事実じゃん? そんなアンタが私に向かって“降りてこい”とか何?
はいはい、ご命令通り降りましたけどね? 貧乳呼ばわりのお詫びもなし?』
挑発的な言葉に、ガルグリムの怒気が頂点に達する。
『いい加減にしろ! クソ女神ぃっ!』
闇の表面が波打ち始め、周囲の空間が不穏に揺れ始める。
ガルグリムの怒りは頂点を超えていた。
先の勝利していた世界――自分が完全に優位に立っていた世界――が、
まるで最初から存在しなかったかのように抹消されてしまったのだ。
それを思い出すだけで、彼の闇の体は激しく波打ち始める。
『盤面返しだと……? ちゃぶ台返し……だと!? この外道女神めがぁっ!』
漆黒の影が揺らめき、その輪郭が溶けるように不安定になる。
明らかに秩序を破壊する行為に対する激しい憤怒が滲み出ている。
フィリアは一瞬たじろぐような表情を見せた。
確かに自分が行ったことは強引だった。しかし……
『まあまあ落ち着きなさいよ……』
女神は自己申告ギリCの胸を張りながら言葉を紡ぐ。
その態度には若干の後ろめたさを感じさせるものの、確固たる言い訳もあるようだ。
『そもそもアレなのよ? 真の魔王のアンタが顕現したと同時に、
"魅了能力持ち"のクソみたいな召喚勇者が出てきたじゃない?
あれこそ天災だったのよ。全く……負けそうになっちゃったじゃない?』
その言葉にガルグリムの怒りがさらに燃え上がる。
『負けそう? いいや違う!"負けそう"だったのではない! 貴様は"負け"たのだ!
私はっ魔族は勝ったのだっ、間違いなくあの世界ではなっっ!』
赤い双眸から閃光が走る。
まるで稲妻のような怒気が空間全体を揺るがせる。
しかし……それまでは不貞腐れたり、へらへらしていたフィリアだったが、
突如としてその表情を変えた。
『……は?』
女神の瞳から遊び心が消え去った。代わりに宿るのは冷徹な光。
まるで神殿の奥底に眠る古の刃が目を覚ましたかのようだ。
『いい加減……ちょっと待ちなさいよ……』
フィリアの周囲の空間がゆがみ始める。純白の世界に微かな亀裂が走る。
それは女神の怒り――いや、より正確に言えば"威厳"が形となったものだ。
『そもそもね?』
フィリアの声色が変わった。これまでの軽薄さが嘘のように消え去り、
重厚な威圧感が場を支配する。
『あの世界の原初から、私の創造した人類種が歴史を紡ぐと決められていたのよ。
そのように主神の"決裁"が下りた世界なんだよ?』
唐突に突き刺さるような殺気に貫かれ、ガルグリムは押し黙った。
闇の表面がわずかに震える。まるで本能的な恐怖に慄いているかのようだ。
『そこに横槍を入れて魔族なんてもんをぶち込んだのはアンタでしょ?』
フィリアはさらに言葉を続ける。
『だから仕方なく……ね? 私が"寛大な慈悲"を持って魔族も人類として認め、
この世界に受け入れたんじゃないのさ?』
彼女の声には明らかな傲慢さが混じり始める。
『それなのに……! 私の創造した人類種にちょっかい出して滅ぼそうと……!』
女神の瞳に怒りの炎が燃え上がる。
『元々、横紙破りはアンタでしょ? "魔の創造神"? ププッ……未認可だったくせに!』
彼女は軽く吹き出すような素振りを見せつつも、その目は笑っていない。
『主神と私が"仕方なく"認めてあげたことで初めて魔の創造神になれたんじゃない』
ガルグリムはもはや無言だった。ただ赤い双眸を細めるだけだ。
『なのに、ずっと嫌がらせしてきてさぁ……本当に迷惑極まりないっ!』
フィリアは大きくため息をつき、肩をすくめる。
『さて』
女神は突然態度を変え、まるで茶番劇の終わりを宣言するように言った。
『ほらっ土下座しなさいよっ!』
ガルグリムは「ハ?」という顔をした。
『負けたんだから当然でしょ?』
フィリアが片眉を吊り上げて言い放つ。
『いや、だからそれは……』
ガルグリムが反論しかけた瞬間、
『キィエエェェ!!』
フィリアの奇声が白い空間を切り裂いた。ちなみに目も白目だった。
鼓膜を揺るがす金切り声にガルグリムの闇の体が一瞬硬直する。
『負けたのだから謝るのが筋ってもんよっ!』
『土下座だ土下座! 申し訳ないと思ってるなら当然のことでしょうが!』
フィリアは何度も同じ言葉を繰り返す。
そのたびにガルグリムの闇から汗のような黒い霧が滲み出る。
『そもそも私が負けたとしても申し訳ないとは……』
ガルグリムが苦々しく呟いた瞬間、女神の手のひらが青白い火花を散らした。
『あ゛? 全てテメェのワガママなのにか?』
低く唸るような声が響く。
かつて何度もガルグリムを跪かせてきた声だ。
『土下座ぐらいできないの? これだから魔の創造神様(笑)ってのは……』
『いやしかし! 土下座などそんな屈辱的な……』
『本当に申し訳ないと思っているなら、
熱した鉄板の上だろうと土下座したくなるものよ』
『エライ人もそう言ってたんだから!』
フィリアは腰に手を当て偉そうに宣言すると、
『そこの床、燃やそうか?』
と微笑んだ。目は全く笑っていない。
『そもそも私は……』
ガルグリムが言い訳を続けようとすると、
『殴るぞ』
フィリアの一言が全てを遮断した。
赤い双眸が見開かれ、ガルグリムの闇の体が震え始める。
まるで過去の記憶――かつて彼がこの女神の「殴る」と言う名の
暴力で叩きのめされた経験――が蘇ってくるかのように。
『……も…申し訳……ありませんでした……』
次の瞬間、漆黒の闇の塊は音もなく平伏していた。
満面の笑みを浮かべたフィリアの顔からは、まるで太陽のような眩しさが溢れていた。
しかし、それは単なる喜びではない。長年続いた敵対者の屈服に対する優越感――
神話の女神としてはあまりにも俗っぽく、しかし人間味溢れる表情だった。
『やったやった! 大勝利ー! 勝利のブイッ!』
嬉しそうに小躍りしながら、どこから取り出したのか分からない
6×9判の中判フィルムカメラを掲げる。
『せっかくだから記念撮影しなきゃね?』
彼女は腰をかがめ、レンズを床に這いつくばるガルグリムへと向けた。
『ほらほら、もっとちゃんと頭下げなさいよー?』
シャッター音が白い世界に響く。一度、二度、三度――
『はっず~』
舌を出しながら小馬鹿にしたように呟くフィリア。
その表情は完全にメスガキのそれだ。
『こ、この……っ!』
黒い影から小さな火の粉が飛び散った。
怒りのあまり震えるガルグリムの姿は滑稽そのものだ。
『この写真、ガルの眷属に見せんぞ?』
フィリアの言葉が空気を凍らせる。
『そ、それだけは……どうか……お許しを……』
必死で懇願するガルグリムの声は震えていた。
数千年単位で繰り返されてきたこのやり取り――
すでに両者の間では「様式美」と化している。
『さ、て。落とし前をつけてもらいましょうか?』
フィリアの声色が変わる。
今度は女神としての威厳を取り戻し、冷徹に命令する。
黙ってガルグリムは自らの闇の表面から漆黒の塊を引き剥がした。
それは彼の全ての神力が凝縮されたもの――本来ならば簡単に手渡せる代物ではない。
『ふん』
フィリアは満足そうに受け取ると、掌の上で漆黒の玉を転がした。
まるで宝石鑑定士のように光に透かして眺める。
『じゃあまたシャバに出てくるまで数千年頑張ってね~』
手をヒラヒラさせながら笑うフィリア。
『……』
ガルグリムは無言で背を向けると、白い世界の中に溶けるように消えていった。
一人残されたフィリアは、しばらく黙って闇の玉を弄んでいた。
そして――
『よし』
彼女は立ち上がり、嬉しそうに呟く。
『んじゃあこの神力使って……良い事でもしますか♪』
まるで子供が秘密基地を作る時のような無邪気な表情で笑う女神。
彼女の企みが誰と誰に何をもたらすのか――それはまだ分からない。
すいません。次で最終回なので全力でふざけました。
反省しています。女神にヘイトが集まりそう。。。
次回、いよいよ最終回です。
おそらく賛否両論、がっかりされる方のほうが多いかもしれません。




