勝利を祝福する新たなる朝の光
「アルフォンス様――!」
懐かしい声が耳に届く。振り返るとそこにはリーンの姿があった。
「……! リーン……!」
安堵よりも先に驚きが走る。
魔王との戦いの最中での奇跡のような出現だった。
「遅くなり申し訳ありませんでした……!
アリシア様とミリア様をお救いして参りました。
おふたりは安全な場所にいます」
リーンの瞳には確固たる信念が宿っている。
「そうか……良かった……」
身体に力が漲ってくるのがわかる。これまでは独りで戦ってきた。
けれど今は違う。彼女が――リーンがここにいる。
その存在がもう一度アルフォンスの心を奮い立たせる。
右腕以外の感覚が失われつつある。身体も思うように動かない。
だが、幼少の頃より知らずとも積み上げてきた。アリシアと共に育んだ。
そして、リーンと共に鍛え上げた勇者のチカラを信じて彼は聖輝を掲げる!
だが魔王はそんな状況を見て嘲笑う。
「ふん……聖女か。貴様ひとり増えようと我にとっては塵芥に等しい。
貴様が勇者の身体を治す事も出来ない不完全な聖女なのは知っているのだぞ?」
ガルグリムは嗤いながら言う。
しかしリーンは静かに首を横に振る。
そして、凛とした表情で魔王を見据え答えた。
「ええ。私の力が不完全なのは事実です」
「女神フィリア様が顕現され聖女になられた時の本来の力には及びません」
それは――肯定の言葉であった。しかし彼女は続けた。
「ですが、貴方は知らないでしょう。
今の私には二人分の聖女の依り代だった魂が宿っている。
そしてフィリア様から多くのお力を預かっています」
「私は――今この時点でヒトとしての完全なる聖女なのです!」
その宣言と共にリーンの全身から眩い光が溢れ出す。
彼女を中心とした波動が空間を満たしガルグリムの闇すら弾き飛ばす勢いだ。
「貴様っ……! 騙したか……!」
ガルグリムの身体に震えが走る。
それを見たアルフォンスは察した。
(これは――以前にはなかった圧倒的な力だ)
「アルフォンス様。貴方の身体がこれまで癒されなかった理由を教えましょう」
リーンの瞳には静かな決意が宿っていた。
「召喚勇者カズマの呪いによるものです」
「彼の界渡りで得た能力がこの世界では【呪い】となって、
貴方の傷は修復不可能になっていました」
「その呪いこそが今まで私たちの最大の障壁だったのです」
魔王ガルグリムは聖女リーンが何故あの時、あの男を送還したのか。
その理由をここにきて初めて知り愕然とする。
「貴様……! 不完全ゆえ治せないと考えたが……あの召喚勇者が原因でっ!」
「しかし――今それが解かれたのです!」
リーンは微笑む。そしてアルフォンスに向き直り両手を差し伸べる。
「アルフォンス様――見ていてください。
これが――女神の力であり、聖女の奇跡なのです!」
彼女の指先から放たれた金色の光がアルフォンスの身体全体を包み込む。
温かな波動が全身を巡り、失われかけていた感覚が蘇っていく。
切断されていた左腕の切断面から新しい細胞が生まれ始め、
そして次第に形を成していった。左目の失明も火傷も回復していく。
(これは……本当に……俺の身体が……元に戻っている……)
アルフォンスの身体は完全に癒された。
五感全てが再び機能を取り戻し力強い血流が全身を駆け巡る。
それはまるで――新たな生命を得たような感覚だった。
更にアルフォンスの魂にも変化が起こる。
それは魂と連動し結実している勇者のチカラをも完全なものにした。
それは真の勇者として覚醒したと言えた。
完全なる魂と完全なる器――その両方が揃ってこそ至るべき境地。
「これが……真の勇者のチカラ……!」
アルフォンスは体内に満ちる未知の力を感じ取った。
それは以前までの比ではなく、
まさに顕現した魔の創造神に匹敵する強大なものであった。
隣に立つリーンに向き直り改めて感謝の意を伝える。
「ありがとう……リーン。君のお陰で……またこうして立ち上がれる……」
彼女は微笑む。その姿は聖女そのものでありどこか儚くもあった。
「これからですよ。アルフォンス様」
「私はもう貴女を失いたくない。だから共に戦います。
アリシア……様の想いと共に貴方のために」
リーンの真摯な眼差しを受け止める。
自分もまた同じ気持ちだった。
ガルグリムはその様子を見て歯噛みをする。
「よくもここまで我を愚弄したな……!
完全に回復した程度でいい気になるなよ勇者ども!」
その叫びと共に魔王の黒いオーラが一気に膨れ上がる。
「我が現世で顕現を続ける為の神力を全て使ってでも、
貴様たちをここで葬ることこそが我が魔の創造神としての使命となった!」
巨大な闇の柱が立ち昇り魔王を中心に破壊のエネルギーが収束していく。
「リーン。準備はいいか?」
「はい。いつでも行けます」
二人は並んで魔王に立ち向かう。
世界の命運を握る最終決戦の幕が切って落とされた。
---
両者の戦いは熾烈を極めていた。
ガルグリムが放つ黒い稲妻をアルフォンスの聖輝が打ち砕き、
リーンの聖なる防壁が彼らを守る。
魔王の拳がアルフォンスを捉えてもその衝撃は彼の装甲によって弾かれ、
「くっ……! 魔王とはここまで圧倒的なのか……!」
「まだ終わらないぞ……! 我が存在を全て注いでくれる!」
魔王の周囲に漂う黒い霧が凝縮され再び襲い来る。
しかし今度はリーンの聖光がそれを浄化した。
「無駄です! 何度繰り返しても女神フィリア様の奇跡の前では無意味です!」
リーンの神光の輝きが増すごとにガルグリムの闇は薄れていった。
「このままではまずい……! この現世に顕現できる時間が……!」
焦燥の色を浮かべるガルグリム。
「だがまだ時間はある……! 次の一撃で終わらせてくれよう!」
魔王は両手を天に掲げ膨大な魔力が一点に集まっていく。
「させない……! アルフォンス様!」
「わかってる!」
アルフォンスとリーンも最後の一撃に全てをかける準備に入った。
「聖輝! その神格を解放せよ!」
剣が眩い光を放ちながら変貌していく。
形状そのものが変わり更に力強いものへと進化していく。
「我が魂と肉体を統べる全てのチカラを解放する……!」
光り輝く新たな聖輝を構えるアルフォンス。
「これが私が培った全てが昇華したチカラ! 聖なる火を紡ぎて放つ『神炎』です!」
リーンの奇跡が空気中に散りばめられた、
聖なる粒子を束ねて神なる炎に変え二人を包み込む。
「聖女と勇者のチカラ!」
「これを受ければ現世における貴方の存在そのものを否定します!」
そして同時に魔王に向かって駆け出した。
ガルグリムが集めた黒い魔力の塊がこちらに向かって放たれる。
「愚か者がぁぁ!! もろとも吹き飛べぇぇぇぇ!!!!」
対してアルフォンスとリーンは真っ向から突っ込んでいく。
「これで終わりです! 《神炎剣》!!!」
アルフォンスの神炎を纏った閃光の刃が黒い魔力の塊を打ち破り直進する。
「うぐぅっ……!」
魔王ガルグリムは防御の姿勢をとるが間に合わない。
その瞬間リーンの声が響いた。
「アルフォンス様! そのままお願いします!」
彼女は両手を掲げ叫ぶ。
「これが私からのプレゼントです! 《聖なる光よ降り注ぎ道を照らし給え》!!!」
上空から降り注いだ聖光がさらに勢いを増した神炎剣に吸い込まれていき、
「聖なる奇跡と共に舞え――――!!!!!」
渾身の一撃がガルグリムを貫いた。
「ぐあああぁぁぁぁああああ!!!!!!」
断末魔のような咆哮が轟き魔王の身体が崩壊していく。
「消え去ってしまう……! 我が依り代が……グルムドの身体がぁっっ……!」
その場に崩れ落ちるガルグリム。
しかしその闇は完全には消えていない。
僅かな闇を糸のように分散させて身体を繋ぎとめようとする。
「まだ……! 終わっていない……! この世界では終わりじゃ……ない……」
ガルグリムの瞳から意思が消えないまま地面に伏せていく。
「まだ消えぬというのか……魔王……」
二人の視線の先には依然として瘴気を放つガルグリムが倒れている。
「ならば……私が最後まで責任を果たします」
リーンは優しく告げる。
「さようなら。魔の創造神よ。そしてあなたの依り代となった魔族のヒトよ。
依り代に選ばれた貴方が人類種にしてきた事は許される事ではありません。
しかし貴方にも自らの愛する人々がいた事は私にも伝わってきます」
リーンは悲痛な表情を浮かべながら言った。
「私も同じでした。大事な者を裏切ってしまった過去がありますから」
リーンは静かに唱える。
「せめて苦しみなく逝けるよう女神フィリア様にお願いします」
リーンの両手から放たれた淡い光が魔王に触れる。
すると魔王の身体から黒い霧が晴れていくように薄れ始める。
そして徐々に光の粒子へ変わっていった。
(……ありがとう……)
依り代となった魔族の青年の微かな思念だけを残し、
真の魔王=魔の創造神ガルグリムは現世から消滅していった。
その思念はアルフォンスとリーンにも届いている。
リーンの目からは涙がこぼれていた。
「魔王に身体を預けた魔族のヒト。そして魔の眷属を率いて戦った魔王。
その魔力は強く恐ろしいものでした。ですが……彼もまた誰かを愛していた」
アルフォンスは黙って頷く。
そして再び崩壊した謁見場大広間を見回し深呼吸した。
「終わったんですね……」
リーンがそっと呟く。
「ああ……長い夜が明けたんだ」
外から差し込む春の訪れを感じされる朝の光が二人を柔らかく照らしていた。
それはまるで新たな始まりを祝福するかのように。
アルフォンスとリーンの戦いを知る者は少ない。
その一人であるエリックも皆を率いて帝都の民を守り切った事だろう。
人々の為に戦い勝利した英雄たちの勝鬨が遠くから聞こえる。
その声にアルフォンスは安堵の表情を浮かべていた。
リーンは静かに優しくアルフォンスに微笑む。
その瞳には深い愛情と少しの寂しさが決意の意思が混じっているようだった。
「アルフォンス様……実は私は……」
彼女がそう言いかけた途端――二人の周りが白く輝き始めた。
とうとう決着が付きました。
もう少し長くバトルシーンがあっても良かったですかねぇ。
とうとう決着が付きました。
もう少し長くバトルシーンがあっても良かったですかねぇ。
ep44話に燃え尽きた灰から蘇るものイメージイラスト集UPしてます。




