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真の勇者VS魔王ガルグリム ~光と闇の果てしないバトル

リーンがアリシアと少女ミリアを連れ転移で離脱している間、

アルフォンスは独りで真の魔王ガルグリムと戦いを続けていた。


魔王は、聖女が一時的に転移で姿を消すのならが却って好都合だと考える。


なぜなら――


「……っ! 魔王め……!」


アルフォンスの銀髪が翻り、片目を覆う火傷痕の残る顔に険しい表情が浮かぶ。

隻眼でありながらその眼光は鋭く、魔王を見据える。


左腕の切断面からは勇者の力の一部であるオーラが脈動するように漏れ出しており、

隻腕となった右手で握る神具の剣「聖輝」は光を放っている。


帝国宮殿の謁見場大広間。


豪華絢爛な装飾は既に破壊され瓦礫と化し、周囲には破壊音が響き渡っていた。


「ふん……愚かな人間め……! 我の力の一端も理解できぬとは」 


魔王ガルグリムは嘲笑交じりに呟く。

漆黒のローブに包まれた姿は不気味に揺れ動き中から闇に覆われた本体が覗く。


「お前の狙いは分っている!

 リーンが戻る前に俺を仕留めるつもりだろう! だが俺は逃げない!」


アルフォンスの声が大広間に轟く。


その言葉の通り魔王は先の様子見から一転、短期決戦を選んだのである。

リーン不在の隙に勝負を付けようと狙っていたのだ。


アルフォンスは冷静だった。既に前哨戦とはいえ戦った経験から、

魔王の攻撃のパターンを読んで受け流し隙を見計らって一閃を繰り出す。


剣と闇が交錯し火花のような衝撃波が散る。


(時間稼ぎでも……必ずリーンが戻ってくる……! それまで耐えれば……!)


魔王も徐々に本気を出し始める。闇の触手が四方八方から襲い掛かり、

回避するアルフォンスは息つく暇もない。


「ほぉ……意外にやるではないか……!」


魔王の低い哄笑が耳を劈く。その瞬間――


「――ッ!!」


強烈な重圧が全身にのしかかり、床が崩れるほどに足元が沈み込む。


(くそ……! 重力を操って動きを封じるつもりか……!)


「愚かだと言っているではないか……! 人間風情が我に楯突こうなどと!」 


「人間風情……? ふっ……舐めるなよ……!」


アルフォンスは歯を食いしばりながら重圧に対抗する。

片腕を失いながらも鍛え抜かれた筋肉が隆起し必死に足を踏み締める。


「俺には守るべきものが在る!

  無辜の民! 俺を支えてくれた仲間! そして――愛する人……!」


「愛……? ふんっ!貴様ら程度の情で我が力に敵うとでも?」 


魔王の周囲に暗黒のエネルギーが収束していく――


「喰らえ! 黒神雷陣……!」 


凄まじい閃光が走り黒い雷撃が降り注ぐ。


「……ぐぅっ……!」 


辛うじて致命的な直撃を避けたものの衝撃で吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。


「……ッ!」


背中に激痛が走るが休む間もなく次の攻撃が迫る。


魔王の口元には愉悦の笑みが浮かんでいる。


「終わりだ……! 女神の力など所詮飾りに過ぎん!」


アルフォンスの視界はガルグリムが放つ黒い閃光に埋め尽くされていた。


重力の檻から辛うじて抜け出した矢先に迫ってきたのは、

魔王ガルグリムの咆哮と共に放たれる黒神雷陣だった。


轟音が鼓膜を裂きそうな勢いで鳴り響き、空間そのものが歪むほどの圧力が全身を叩く。


「くっ……!」


反射的に右腕の「聖輝」を構える。


神具である剣から放たれる白銀の光が、

魔王の黒き稲妻を僅かに弾くが完全には防ぎきれない。


灼熱の痛みが脳裏を焦がす。視界が赤く染まり意識が飛びかける。


だがここで倒れるわけにはいかない。


――リーンが戻るまで! 女神に選ばれた勇者として! なにより……!


ふと脳裏に浮かんだのは二人の女性の顔だった。


まず蘇るのはリーンの凛とした瞳。


女神の遣いとして現れた彼女は最初こそ得体の知れない存在だったが、

共に過ごすうちにその優しさと強い意志に触れ、いつしか自分を支える

大きな力となっていた。


彼女は言った。「勇者様には私がついております」と。


それはただの使命感や義務感からくる言葉ではないことを、

アルフォンスは理解していた。


次に浮かぶのは――かつての婚約者であり戦友でもあったアリシアの微笑み。


幼少期から共に育ち、騎士と魔道士の道をそれぞれ歩みながらも、

互いを高め合い励まし合ってきたかけがえのない存在。


白い小さな花『月の涙』の咲く丘でふたりで語り合った日々。


ふたりの未来を互いの心に共有した日々は決して遠い過去ではないはずなのに、

彼女の変貌ぶりはアルフォンスの胸に深い傷跡を刻み込んでいた。


アリシアが召喚勇者カズマの魅了によって堕ちた時、


アルフォンスは目の前の現実を受け入れられなかった。


『彼女は……本当にそんな事をするのか?』


あの時信じられなかった自分を責めた。

だが今ならば分かる。彼女は支配されていたのだ。


彼女は何も悪くない――今の俺は許せる程に強くなったんだっ!


アルフォンスは魔王の猛攻を前に再び思考が現実に引き戻される。

ガルグリムの爪が迫る。紙一重で躱しながら反撃の隙を探す。


リーンへの想いとアリシアへの罪悪感と愛情――二つの感情が胸中で渦巻く。


どちらかを選ぶことなどできない。

だがその迷いこそが自分自身なのだ。


――リーンにも愛慕がある。


ふたりへの慕情という答えが出せない不誠実な想いだとしても、

今はその愛を貫く為に戦うと決めた。


この混沌とした複雑な感情は誰にも説明できるものではないかもしれない。

それでも――この想いこそが今の自分を支えている。


(だから……! 負けるわけにはいかない!)


左腕が無いことは不便ではない。


既にこの身体が欠損していた頃からの戦闘スタイルに慣れてしまっていた。

それに――勇者の力を宿した剣「聖輝」は片腕でも十分に扱えるようにしてくれている。


問題は……体力だ。


魔王との連続攻防で消耗が激しい。

一瞬の判断の遅れが命取りになる状況が続く。


だが……「まだだ……! まだ終わらんぞ!」


アルフォンスは雄叫びを上げガルグリムに向かい再び駆け出した。


聞いた事が無いはずの女神フィリアの声が頭の奥で聞こえる気がする。


『ふふっ……アル君♪ ガルに勝ったら良いご褒美をあげちゃうからね♪』


おそらく女神フィリア様――

未だ見たことが無いはずのかの女神の揶揄するような笑顔が思い浮かび苦笑する。


だがそれが不思議と力になった。


リーンもきっと――アリシアを救った後に戻って来る。


いや戻って来る!――それまで耐え続ける!


---


ガルグリムの黒き瘴気が渦巻き、その中央にある不気味な影が揺らめいた。

その身に宿す闇を使った攻撃が来る。アルフォンスは聖輝を握りしめ身構える。


しかし――


魔王は突如、不可解な動きを見せ始めた。

何かを探るように宙を掻くと、突然苦悶の表情を浮かべた。


「……なんだと……! これは……! ああああっ!!」


漆黒のローブの隙間から覗く影が激しく震え、

内部から膨大なエネルギーが漏れ出す。


魔王が感じた痛み。


それはまるで別の世界から押し寄せた記憶の奔流のようだった。


「我に……このような記憶があるはずがない……!

 しかし……確かに感じる……!」


ガルグリムの声音に混乱と怒りが混じる。


「世界線……?」


アルフォンスは一瞬警戒を緩めそうになり慌てて気を取り直す。

これは罠かもしれない。油断は禁物だ。


だがガルグリムの苦悶の表情は演技には見えない。


「もうひとつ……世界があった……!

 我が……勝利を掴むはずだった……世界が!」


魔王は狂乱し天井に向けて咆哮した。


「我こそが全てを支配するはずだった……!

 この世界ではない……別なる世界で……!」


その叫びはあまりにも荒唐無稽だ。

アルフォンスには全く意味が分からない。


「世界線……? 一体何の話をしている?」


問いかけに応える余裕もないらしい。

魔王の身体から溢れ出す暗黒のオーラが周囲の空間を歪ませていく。


「それを……貴様らの女神が……! 消した!? 世界を世界を消して移した!?

 ありえない……! だが、だからこそヤツは顕現しなかったのかっっ!!」


アルフォンスの頭に疑問符が浮かぶ。


魔王が話している内容は想像もつかないレベルの壮大さだ。

世界が書き換えられるなどという話が現実にあるのだろうか?


しかしその真偽はどうあれ、この隙を利用しない手はない。


「くらえ!」


勇者は渾身の一撃を魔王に向けて放つ。

神具の剣が光を帯び、ガルグリムに向かって疾走する。


しかし――


「……!」


魔王は片手を払うだけでその刃を止めてしまった。

まるで風のように剣が逸れてしまう。


「小賢しい……! 貧弱な人間風情が……!」


魔王は再び嘲笑する。

そして次の瞬間、その両手から放出された闇がアルフォンスを包み込む。


「なに……!」


咄嗟に聖輝を盾にしようとするが、

闇は剣を通り越しアルフォンスの右腕に直接触れた。


途端に猛烈な痛みが走る。


「ぐっ……!」


闇がまるで生き物のように腕の中へと侵入していく。

まるで神経を直接蝕むような痛みが脳を貫いた。


「ぐぁあああ!!」


悲鳴が自然と零れ出る。

残された右腕が激しく痺れ自由が効かない。

更に脚部にも同様の闇が忍び寄る。


「我は女神を侮っていたようだ……! だが許さぬぞ! 貴様ら女神の使徒も!」


魔王の怒号と共にアルフォンスの身体に闇が広がっていく。

痛みと共に感覚が失われていく。


「お前は……どうやら……その忌々しい女神の寵愛を……

 今までで最も受けた勇者のようだなぁっっ!」


ガルグリムは吐き捨てるように言う。


「ならば……その右腕だけは残してやろう……聖女にくれてやるっ!

 身体が朽ちゆく様を味わいながら死ぬがいい!」


魔王は嗜虐的な笑みを浮かべた。身体が徐々に動かなくなっていく。

視界も霞み始めてきた。


(なぜだ……! 勇者のチカラがあるのに……こんなはずは……!)


身体は既に限界を超えている。

左腕を失い隻眼となって以降、常人を超えた訓練を積んできた。


身体の欠損は勇者のチカラが宿る魂に影響する。

不完全に勇者――だからこそリーンと共に残った身体を鍛え上げて来た。

だが怒りに震える魔王の力はそれを遥かに凌駕している。


「ほう……まだ立つか。だがそこまでだ」


低く響く声と共に黒い靄が広がり、さらに身体を黒く染め上げていく。

闇は加速し容赦の無い侵食を続け肉体の感覚が無きに等しい。


(まずい……このままでは……)


残った右腕で必死に剣を振るうが、動きが鈍くなるばかり。


魔王の姿がぼやける。


このままでは……。


(リーン……! アリシア……!)


左腕を失った後も戦い続けてきた。


リーンが戻るまで持ち堪えるつもりだった。


しかし――


意識が薄れていく。身体が冷たくなっていく。

絶望が忍び寄る中で脳裏に浮かんだのは、やはり彼女の面影だった。


リーン。


君が戻るまで耐えなければならないのに――


そしてもうひとりの女性の姿も浮かぶ。


アリシア。


かつての婚約者。俺を裏切ったと思い込んだ最愛の人。


今ならわかる。彼女は操られていただけだった。俺が遅すぎただけだ。

アリシア。許してくれ――俺はお前のことを今も……


その時だった。


「アルフォンス様――!」


懐かしい声が耳に届く。振り返るとそこにはリーンの姿があった。



魔王と勇者の最後の戦い、光と闇の果てしないバトル。

アルフォンスは叫ぶ「リーンよ! 俺に勇気を与えてくれぇぇ!」


はい、そういうわでラストバトルです。真面目にやることにしました。

まったく戦ってなかったですしね。話中もふざけません。

次回、本当のクライマックスです。エンディングでは無いです。

悪ふざけはして無いのですが、ラストバトルを分けたので、

エンディングまであと3話の予定です。


ep44話に燃え尽きた灰から蘇るものイメージイラスト集UPしてます。

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― 新着の感想 ―
「光と闇の果てしないバトル」ってタイトルで、真っ先に浮かんだのが某公式チートラ〇ダーと呼ばれてるのあの人でしたw アルフォンス「おのれ魔王!ゆ゛る゛さ゛ん゛!! 」ウェイカッ! いよいよラストバトル、…
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