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逃げた先

「はぁ、はぁ…… 何とか逃げられましたね」


 『衣替え』たちに襲われ、『メサイアコンプレックス』が襲撃し、その手足が突然切断され、襲い掛かってくる『メサイアコンプレックス』に向かって『衣替え』たちが行く手を阻むように妨害して……


 何が起こったのかわからないことが多すぎて、アタルたちも困惑していた。しかし、それでも何とか逃げ延び、何処かもわからない駅のホームにある椅子に座って、全員で息を整えていた。


 そして何とか全員の息が整ったところで、状況の整理を始める。


「とりあえず皆さん無事ですか? はぐれたり怪我した人はいませんか?」


「はぐれた人はいなさそうですね、怪我した人も…… レインコートさんは大丈夫ですか?」


「えぇ、俺は大丈夫です」


 あの怪物から奇跡的に全員無傷で生き残ることができたようだが、これからもそうとは限らない。そう考えたアタルはこれからどうするかを決めるべきだと考えた。


「すいません、助かったばかりでこういうことを話すのもあれですけど、すぐに考えないといけないことがあります」


「……どうしたの、一体?」


「俺たちはあの化け物…… 『メサイアコンプレックス』のことを知りすぎてしまいました。もしかしたら、これから奴と遭遇する可能性が高くなるかもしれません」


 そう、おじさんの話や今までの経験から、怪異について知れば知るほど出会う可能性が増えるかもしれないというのが、アタルにはなんとなくわかっていた。


 そして、今後出会う可能性が増えたということは、奴と出会ったら逃げなければならないということだ。現状最高火力であるアタルの『暴風来』も、奴を傷つけることは叶わず足止めにしかなっていない。さらに『暴風来』は耐久値を全損させることからかなり燃費の悪い技でもある、そのため何とか奴から逃げる方法を考えたほうがいいとアタルは皆に話す。


「なるほど、ならあいつから逃げられるように足止めの術式も考えておかねぇとな!」


「そうね、私もなるべく索敵の方面で奴に出会わないで済むように頑張るわね」


「なるほどなぁ、つってもあんな奴から逃げ切れるかねぇ?」


「そこをみんなで考えようって話でしょ、親方さん」


「まぁ、それもそうか」


 とりあえずあの怪物相手にどう逃げるかで話し合いを始める一同。アタルはその様子に安心して一緒にその話し合いに参加する。


「いや、やっぱりすぐには思いつかないか……」


「まぁ、とりあえずしばらくは私が見つからないように索敵を頑張るから任せて!」


「そういえば、ローリエさんの服ってあそこで見つけて着たままですけど、大丈夫なんですか?」


「あっ」


 少女の指摘を受けて、ローリエの動きが固まる。確かに、ローリエは向こうで服を試着してそのまま色々とごたごたがあってここまで逃げてきた。そのため今もあの『衣替え』ばかりの場所で見つけた服を着ているのだ。


「しょうがねぇなぁ、俺が大丈夫か見てやるよ。『鑑定』!」


「ど、どう……?」


「どうって、特に大丈夫そうだけど…… あっ」


「あっ、って何? 何があったの!?」


「いや、別に悪いことがあったわけじゃないけど、ローリエさんのステータス見れちゃったから……」


 フレイムの言う通り、ローリエの頭上にはステータス画面が表示されていた。アタルはそれを見て人のものも勝手に見れるのかと驚いていると、ローリエは少し呆れた様子で頭を抱えてため息をついた。


「あのねぇ、この場面でそんな反応されたらびっくりするでしょ! 別にステータスくらいでそんな……」


「いや、でも勝手に見ちゃったし……」


「なんで勝手に人のスリーサイズ見ちゃったみたいな反応なのよ…… 別に気にしないから大丈夫よ?」


「他の服はどうだ? 俺のは大丈夫そうだが……」


「俺のふんどしも大丈夫だぜ、親方!」


「僕の方も大丈夫だね。あっ、これレインコートくんの分ね」


「えっ、ありがとう……」


「私も大丈夫そうですね」


「あの、私も大丈夫です……」


 偶然か何か理由があるのか、この場にいる全員が手に入れた服が大丈夫だったことに全員が安堵する。アタルたちは知らないが、『衣替え』たちは服として扱ってもらい、持ち帰られたところですでに物言わぬ服に変わっているのであった。


「それじゃあ、今後はどうしましょうか?」


 話がひと段落着いたところで、アタルが話を切り替える。


 とりあえず向こうで手に入れた服はいくつかあるが、どれも大丈夫であり目的は達した。なら次の目標を考えようという話である。


「そうだね、とりあえずその『守護者』ってやつを見つけるところから始めようか。戦力が足りてるかわからないけど、あの化け物といつ出会うかわからない以上、早くここから脱出しないと」


「それより先に休憩すべきだろう、レインコートのあんちゃんも、さすがに疲れてるだろうしな」


「親方の言う通りね、問題はどこで休むかだけど……」


 ローリエの言葉に全員が言葉を詰まらせる。現状安全に休憩できる場所は見つかっておらず、移動すれば『メサイアコンプレックス』に遭遇する可能性が高まる。


 そんな沈黙の中、ギタリストが口を開いた。


「まぁ、とりあえずここでいいんじゃないかな? 見たところ怪異はいなさそうだし、階段もいくつかある。それに最悪線路の方に出られそうだし……」


「以前電車に乗るのは止めた方がいいって言われたことがあるので、線路は本当に最悪の場合と考えたほうがよさそうですよ」


「なるほど、気をつけないとね。それで、みんなこの方針でいいかな?」


 ギタリストの言葉に、反対意見は出なかった。とりあえずはこの場所で休憩を行い、体を休めてから出口の探索を行う。


「そんじゃ、今回は俺が見張りをする。おめぇらはしっかりと体を休めておけ」


「なら、そのあとは私が見張りをしますね。結局ローリエさんの時は変わってあげられなかったので……」


「そうかい、それじゃあ頼む」


 今回の見張りは親方とフランシーヌで決まった。


 寝られる場所なんてほとんどなかったが、それでも疲れた体は正直で、皆横になるとすぐに眠気が襲ってきた。


「それじゃあ、おやすみなさい」


「お休み~」


「お休み」


「おやすみなさい、良い夢を……」


「お休み~、……あれ?」


 フレイムが眠りに就こうとしたその時、ふと視線を感じて階段の上の方に目を向ける。すると、一瞬だが毛むくじゃらの棒のようなものが見えた気がした。


「……尻尾?」


 少し気になりつつも、眠気に抗えず明日でいいかと目を閉じるフレイム。寝る直前ということもあり、目が覚めたころには忘れていることだろう……






「ウキッ」






 脅威は、そこまで迫っているというのに。






 『レインコート』(雨野 中)


 HP2/23 MP8/14


 術式 『霊術:霊傘』『霊術:雨乞い』『霊術:雨上がり』


 状態 『川の主の寵愛』『救済対象』 繝サ縲手オ、縺?岑縺ョ蜻ェ縺?? 繝サ縲主セ。菴ソ縺?巨縺ョ邏?據縲       


『『現代地下迷宮』遭難者のメモ:その1』


 念のため、このメモを残しておく。読むも読まないも自由にしてくれ。


 もしもこのメモを読んでるやつがいるんだったら、もしかしたら俺はすでにあの女に殺されているかもな。ははっ。


 ……冗談はさておき、こんな浅層までこれた奴なら知ってることだろうが、もしもこの異界に迷い込んだばかりの幸運な人間のために、いくつか注意事項を伝えておく。


 この異界ではなんでも知ればいいってことじゃない。だから知っていい情報だけをなるべく選んだつもりだ。


 まず、このメモを読んでいる時点でもしも誰かと一緒に行動しているのであれば、おとなしく別行動をしたほうがいい。その方が生存リスクが高まるからな。


 その中にベテランがいるならまだしも、迷い込んだばかりの新人だけじゃむしろ危険だ。なぜなら……(ここから先は、血で汚れて見えない)


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