メサイアコンプレックス
『メサイアコンプレックス』
HP 30/30
今まで見たことのない、怪異の名と共に書かれたHPの数値。その衝撃は、アタルにとって恐怖でしかなかった。
これまで戦ってきた相手は、どれほど強くとも攻撃を受ければボロボロのになり、いずれは倒れた。しかしこの怪物の持つHPは、もしアタルたちと同じような使い方ができるとすれば、その脅威度は計り知れなかった。
「レインコートさん、逃げてください!!」
フレイムが叫びながら『メサイアコンプレックス』に火球を投げつけるも、まったくひるむ様子もない。まるで意に介する必要もないとでもいうように、その怪物は両手でつかんだアタルを口元に運んでいく。
徐々に近づいてくる終わりを目の前に、アタルは必死に抵抗するもまるでびくともしなかった。
「もう俺はダメだ、みんなだけでも逃げて!」
「そ、そんな……」
「早く!!」
アタルの叫びにみんな徐々に引き下がっていく。フレイムは抵抗するもローリエと親方に引き摺られ、フランシーヌは腰が抜けたのか座り込んでしまっていた。
「いぃま、たぁすけてあげるからねぇ~」
「アタルさーん!!!!!!」
フランシーヌの悲痛な叫びが木霊す。
彼女を連れていこうとギタリストと少女が駆け出しているのが見える。それをみて、せめて彼女たちだけでも助かるように祈りながら、アタルは目を閉じた……
「あぁれ?」
「……えっ?」
しかし、最後の瞬間は訪れなかった。
アタルを握っていた『メサイアコンプレックス』の両腕が、ひとりでに落ちたのだ。怪物の一つ目の腕の関節から先は、まるでレーザーカッターででも切断したかのようなキレイな断面になっており、少し遅れて赤い血が噴き出した。
「……たぁすけなくちゃあ、『なぁおれぇ』」
どうやら怪物本人にも予想外だったようで、しばらく先ほどまで腕があった眺めていたが、一言何かを呟くと切断されたはずの腕がにょきにょきと再生し始め、それと同時にHPが4減少していた。
アタルもなぜ助かったのか状況を理解できていなかったが、まだ助かっていないことだけは理解できた。
足元は怪物の血で水たまりができており、アタルはそれを踏みしめると『川の主の寵愛』で勢いよくみんなの方向へ滑り出し、その勢いのまま座り込むフランシーヌを回収した。
「すいません! よくわからないけど助かったので、急いで逃げましょう!」
「よかった、とりあえずさっきの道へ行こう!」
途中で血が足りなくなりそのまま走ることになったが、何とかギタリストたちと合流して全員で逃げることとなった。
アタルが助かったことにみんな嬉しそうな表情を浮かべ、特にフレイムは泣きそうになっていた。
「あっ、あの…… 私、自分で動けるのでおろして下さい! 重くて大変ですよね!?」
「大丈夫ですよ、女の子の重さはA4用紙一枚分なので!!」
「よくわからない冗談言わないで下ろして~!!」
しばらくお姫様抱っこで運ばれていたフランシーヌは、状況を理解したのか顔を真っ赤にして下ろすように懇願した。危機的状況から助かったアタルは変なテンションで好きな動画の言葉を口走ったが、あまり評価が良くなかったので渋々彼女を下ろして一緒に走り出すことになった。
「……たぁすけてあげるからねぇ~!」
「まずい、奴が動き出した!?」
「くそっ、『暴風来』!!」
後ろから追いかけてくる『メサイアコンプレックス』に対してアタルは『暴風来』を放つも、しばらく動きを止めるだけで傷一つなく再び動き始めた。
「なっ、どうなってるんだよ!?」
「えっと、『修復』! これでもう一回打てますよレインコートさん!」
「助かるけど…… これじゃいたちごっこだ」
ボロボロになった『雨宿り』をフランシーヌが『修復』するも、このままでは足止めにしかならないと悩むアタル。
『メサイアコンプレックス』の移動速度は速く、アタルたちにじりじりと追いすがってくる。
「たぁすけて…… あぁっ」
もう少しでアタルたちに追いつくと言ったところで、再び『メサイアコンプレックス』の両腕と、さらに両足が綺麗に切断されて床に這いつくばる。
「なっ、一体何が……」
2度も起きた不可思議な現象に、アタルは何か恐ろしいものを感じながら周囲を見渡す。この現象を引き起こした何者かが存在しないかと目を凝らすも、アタルたちのほかにはいつの間にか争いをやめた『衣替え』たちしかいなかった。
「何してるんですかレインコートさん、今のうちに逃げましょう!!」
「あ、あぁ、そうですね!」
アタルの危機を救ったものの正体は気になるものの、フランシーヌの言う通り今は逃げるのが先決だ。アタルは周りを見るのをやめて走り出す。
「あぁぁ…… じゃあまだぁぁぁ!!!!」
背後ではいつの間にか欠損した手足を再生させた『メサイアコンプレックス』に覆いかぶさるように、『衣替え』たちが張り付いていた。
『メサイアコンプレックス』はその妨害をもろともせずに動き出すが、今度は行く手を阻むように大量の『衣替え』たちが壁を作る。それはまるで、アタルたちを逃がそうとしているようにも見えた。
「……ありがとう」
アタルはその様子を見て『衣替え』たちにお礼を言うと、急いでこの場所から脱出するのであった。
「……なんでぇ?」
あれからしばらく後、『メサイアコンプレックス』は周囲に散らばった結晶を食い散らかし疑問を口にする。その結晶の中には『衣替え』の呪い結晶も含まれていたが、その怪異にとってはとるに足りない存在でしかなかった。
「なんでぇ……?」
怪物は、再び疑問を口にする。その心境は、外部からでははかり知ることなんて出来なかった。
「なんでぇ?」
「……なまえぇ?」
そして怪物は違う単語を口にする。それはまるで、思いついた疑問への回答を口にするかのように。
「なまえぇ、なぁまえ……」
「あぁたるぅ?」
「たぁいへん、たぁいへぇんだぁ…… あぁたる、なぁまえ、なんでぇ?」
「なぁんで、なまえぇ? かぁいぶつぅ?」
「……いぃそがなくちゃぁ」
「いぃそいでぇ、たぁすけなくちゃあ……」
「まぁにあわなく、なぁるまえにぃ……」
「あぁたるぅ、たぁすけなくちゃあ」
「わぁたしのぉ、てでぇ」
『レインコート』(雨野 中)
HP2/23 MP8/14
術式 『霊術:霊傘』『霊術:雨乞い』『霊術:雨上がり』
状態 『川の主の寵愛』『救済対象』 繝サ縲手オ、縺?岑縺ョ蜻ェ縺?? 繝サ縲主セ。菴ソ縺?巨縺ョ邏?據縲
『救済対象』
それは、『メサイアコンプレックス』にとって救わなければならない相手である。
これを持つ者に対して、『メサイアコンプレックス』はなんとしてでも救済を行おうとする。
必ず自分の手で、救い出すと……




