絆創膏
「あっ、そうだ…… この結晶はものを強化することができるんで、良かったら使ってください」
「全部守りを強化することができるものなんで、とりあえず服にでも使ってみてください」
「おいしそうだからって、食べたらだめですけどね」
これから出発と言う前に、アタルは先ほどの戦闘で手に入れた結晶を取り出した。
どれも中、小、小とさほど大きくはないが、ないよりはましだろうと取り出すと、みんな興味深々と言った様子で結晶を眺めていた。
「へぇ、これってさっきあの『腐った歯車』を倒したときに落としたものだよね? これはどうやって使うんだい?」
「強化したいものにくっつけて、強化するように念じたらできますよ。このタイプのものは強化するものの耐久値を増やすことができますね」
ギタリストの質問に答えると、次は親方が手を上げる。
アタルが先を促すと、顎に手を当てながら口を開いた。
「つまりその分怪我のリスクが減るってわけかい?」
「服とか体を守るものに使うのであれば、その認識で大丈夫だと思います。武器に使う時は戦闘中に壊れにくくなるって印象ですね」
「なるほど、ならこれはおんな子どもに使わせるべきだろう。もし戦う時は俺たち男が前線に出るぞ」
「ちょっと! 女だからって舐めないでよね!? 私だって戦えるんだから!」
「そうはいっても嬢ちゃんは得物がねぇじゃねぇか」
「それは、そうだけど……」
ローリエが親方に食って掛かるも、武器がないことを指摘され言いよどんでしまう。
少し空気が悪くなっていることを感じて、アタルは慌てて口を開く。
「と、とりあえず! 戦闘はなるべく避ける方向で行きましょう! それに戦闘になっても俺が戦うんで、その時は皆さんなるべく固まって身を守ってください」
「そうは言うけどさ、レインコートくんだけじゃさすがに厳しくないかな?」
アタルの発言に、ギタリストが疑問の声を上げる。
確かに、相手の数が多ければ、アタル一人では手に余る。そんなことを考えているとギタリストがさらに疑問を投げかけてきた。
「そういえばさ、さっきHPを使ったら怪我も治せるって言ってたけど、それって他人の傷も治せるの?」
「そうですね…… 多分、治せると思います」
アタルはかつておじさんに助けてもらった時に傷を癒してもらったことを思い出す。
あの時おじさんは、術式の名前ではなく、『治れ』の一言でアタルを癒していた。
「なら前衛はボクとレインコートくんと親方さんで、他の人たちは後衛として僕たちが怪我をしたら回復してもらう。そしてもしも前衛を抜かれた時はローリエくんに他の人を守ってもらうっていうのはどうかな?」
「なるほど……」
今まで人間と行動を共にしたことはなかったが、戦闘要員と回復要員で役割分担をすることができるのかと感心するアタル。
自分が長くこの異界にいる分、全部を背負い込もうとしていたアタルにとっては思いつかないことであった。
「わかったわ、そういうことなら私はこの子たちを守ることにするわね」
「その、つまり私たちはギタリストさんたちが怪我をしたら傷の手当てをしたらいいってことなんですか?」
「うん、任せても大丈夫かな?」
「はい、できるかわかりませんが、頑張ります」
ようやく意見がまとまってきたことに内心安堵するアタルに、ギタリストが近づいてくる。
彼はアタルの耳元まで顔を近付け、囁く。
「こういう時は皆に役割があった方がまとまるよ。特に命がかかってるところだし、何もやることがないと罪悪感で勝手な行動とかしちゃうかもしれないし」
「……その、ありがとうございます」
「いえ、どういたしまして」
そのままアタルの肩を叩いて頑張れとエールを送るギタリスト。
すごい人だと、アタルは心強い気持ちになった。
「それで、さっきの結晶だけど、できれば前線に出る人が使って、装備が整ったら後衛の人に使うっていうのがいいと思うんだけど?」
「なるほどね、確かに前線に出る人の方が怪我しやすいものね」
「特にボクが武器として使うとしたらこのギターだし、できれば頑丈にしておきたいんだよね」
「そうか、なら俺は使わんでいいからお前が服とギターとで二つ使え」
「いや、親方さんも念のため使っといて。ボクもギターを頑丈にしたいって言ったけど、それは今後戦闘が起こった場合のことだから、とりあえずは服に使うし」
「わかりました、でも俺は今結晶を使わなくてもある程度大丈夫ですしギタリストさんに…… いや、もしものためにローリエさんにお渡しします。現状武器がないですし、その時は体を張って戦うことになると思いますから」
「わかったわ、そういうことならありがたくもらうわね。それに武器はないって言っても、このビジネスバックを振り回したら牽制くらいにはなると思うし」
「ありがとうございます」
話がまとまったところで、アタルは再び結晶を取り出す。
「それじゃあ、この結晶は大きい方が効果が高いのですが……」
「それなら、とりあえずローリエさんに大きいのを使ってもらおうかな。親方さんもそれでいい?」
「もちろん異論はねぇ」
「私は小さいのでもいいけど…… まぁ、大きいのをもらう分にはもしもの時は働かせてもらうわ!」
三人に結晶を手渡し、全員上着の強化を行った。
胸や腕など、守れる箇所が多いからだ。
そしてようやく話し合いは終わり、動き出すこととなる。
「それじゃあ移動しましょうか。先頭は俺が歩くので、危険ですが一番後ろはギタリストさんと親方さんにお願いしてもいいですか?」
「もちろん大丈夫だよ」
「わかった、もしもの時は任せろ」
「そして俺の後ろをローリエさんに、フランシーヌさんとフレイムくん、あと…… えっと、お嬢さんは真ん中でいいかな?」
「わかりました、怪我したら教えてくださいね」
「お、おう…… わかりました」
「は、はい…… お願いします」
狭い道が多い性質上、先頭と最後方は危険が伴う。そのため先頭は戦闘経験の多い自分が、最後方は危険だが戦う力のあるギタリストと親方に任せることにしたアタル。
とりあえずだれも異論がないようで内心ほっとしつつ、歩みを進める。
静かな空間に、足音だけが響き渡る。
先ほどまでの話し合いが嘘かのように、皆が口を噤んでいた。
それは近づいてくるかもしれない怪異の発する音を聞き逃さないためなのか、或いは自分たちの声で怪異を引き寄せないようにするためなのか……
アタルはそんな中で気まずさを感じてしまう。
今までであれば言葉の発せないルル相手であったから一方的に話をしていたが、相手は同じ人間である。気を紛らわせるような雑談をすべきか、或いは静かに口を閉ざすべきかと、余計なことを考えてしまっている。
そんなとき、フレイムがそそくさと近づき、耳打ちをしてきた。
「その、レインコートさん? 傘に名前書いてるみたいだけど、大丈夫なのか?」
「……あっ!? ご、ごめん、見ちゃった?」
「大丈夫、見ちゃったけど秘密にしとくからさ。それで、良かったらこの絆創膏使ってくれよ。これなら名前を隠せるだろ?」
名前を知られてしまったことに動揺してしまったアタルだが、フレイムの気遣いに思わずジーンとしてしまう。
「ありがとう、助かったよ」
「どういたしまして、困ったときはお互い様だからさ」
へへっとはにかむフレイムの顔を見て、思わず笑みがこぼれるアタル。
そして彼らを必ず守ろうと改めて心に決め、気を張って廊下を進んでいくだった。
『レインコート』(雨野 中)
HP11/18 MP8/12
術式 『霊術:霊傘』『霊術:雨乞い』『霊術:雨上がり』
状態 『川の主の寵愛』 繝サ縲手オ、縺?岑縺ョ蜻ェ縺?? 繝サ縲主セ。菴ソ縺?巨縺ョ邏?據縲
『絆創膏』
ばい菌から傷口を守り、傷の治りを早めるための道具。運動系の部活に入っているものならカバンに入れているものもいるだろう。
本来なら傷を治すために使われるが、瞬時に傷を治すことができるこの異界において、その役割はほとんどないだろう。
だが、絆創膏とは優しさや思いやりの象徴でもある。
もしかしたらこの異界での役割は、その名の通り絆を創るためにあるのかもしれない。




