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迷い込んだものたち

すいません、予約投稿を忘れていました……

「よかった、レインコートさん! ご無事だったんですね!」


「あぁ、フランシーヌさん。この人たちのおかげで何とかなりました」


 ピアスの男性と老人と一緒にアタルが降りてきた階段を上ると、そこには先ほど逃げた3人と広子が待っていた。


 広子は嬉しそうにしているが、他の三人の表情は暗い。特に高校生くらいの少女と中学生くらいの少年は恐怖に震え、OL風の女性も二人の手前気丈に振る舞っているように見えるが、怯えている様子がうかがえる。


「よかった、他のみんなも大丈夫だったみたいだね」


「まったく、なんだってこんなことに……」


 ピアスの男性と老人が口を開くと、暗い顔をしていた3人はその二人に気づいて少し表情が明るくなった。


「……それで、もう大丈夫そうだし、説明してくれるんだよね?」


 ピアスの男性がそういってアタルの方を見る。


 アタルはその視線を受けて、その場の全員に向き直る。


「わかりました、それでは話せる情報はすべてお話したいと思います」


「信じられないことも多いと思いますが、そこを飲み込んで聞いてほしい」


「そして、これだけは覚えておいてください。『この異界において、情報は武器であり、敵である』と」






「……ふむ」


「へぇ」


「おぉ~」


「え、えっと……」


「何よそれ、信じられないわ!?」


 アタルは語った、ここには『怪異』と呼ばれる危険であったり、無害であったりする様々な化け物がいること。怪異たちとむやみに争ってはいけないこと。名前が重要な意味を持ち、むやみに名前は名乗らずすぐに偽名とわかる名前を名乗ることや、自分の名前が入っているものを常に携帯しておくこと。怪異に名前をつけてはいけないこと。念のため、遺書を書いて持っておくことなど……


 アタルの話を聞いた彼らの反応は、三者三様であった。


 考え込むもの、感心したように声を上げるもの、いまいち理解していないもの、信じられないと声を荒げるもの。


「おねえさん、そんな大声を出したら、さっきの奴らがまた来るかもよ?」


「うっ」


 ピアスの男性の言葉を聞いて、口を噤む女性。


 その様子を見て、アタルは次の話を始める。


「信じられないことも多いと思うけど、とりあえず聞いていただければ嬉しいです」


「それで、ここからは生き残るために必要な話なんですけど、その前に皆さんってゲームとかしますか?」


「いきなりだね…… 昔は良くやってたけど、最近はソシャゲくらいかな?」


「俺はソシャゲとか、RPGとか結構好きだけど……」


「ソウルライクゲームは得意よ? 負けっぱなしは性に合わないもの」


「げぇむは孫が動画を見せてくれるくらいで、からっきしだな」


「えっと、すいません。母に禁止されているので……」


「あ~、まぁそうですよね。みんなそれぞれだよなぁ……」


 どう説明したらいいかと頭を悩ませるアタル。


 そこで、とりあえず広子に説明した時のようにしようと口を開く。


「とりあえず、『ステータス』っていうと自分の状態とか、色々見れるんですよ。でもそれは他の人にも見えるんで、先に偽名から決めてしまいたいんですけど……」


「あっ、ちなみに俺は『レインコート』、彼女は『フランシーヌ』と名乗っています」


 アタルの提案に、皆それぞれの反応を返す。


 そんな中で、ピアスの男性は真っ先に名乗りを上げた。


「それなら俺は、『ギタリスト』って名乗るよ。ちょうどギターを持ってるし、わかりやすいでしょ?」


「よし! それなら俺は『ツヴァイ・フレイムフィールド』にするぜ! よろしく!」


 ピアスの男性の名乗りを聞いて、中学生の少年が名乗り出た。思春期を感じる良い名前である。


「えぇっと、椿井…… なんだって?」


「ツヴァイだよ爺さん!? ツヴァイ・フレイムフィールド!!」


「うぅむ、アメリカ語は分からん……」


「それを言うなら英語だし、ツヴァイはドイツ語だよ……」


 老人の反応を見て、「じゃあせめてフレイムで……」とあきらめる少年。ちなみにその後ステータスを確認した際はちゃんと『ツヴァイ・フレイムフィールド』になっていた。


「俺は『親方』とでも呼んでくれ、普段からそう呼ばれている」


「普段から呼ばれているものでもいいのかな?」


「えっと、たぶん大丈夫だと思いますけど……」


「そりゃあ良かった、今更別の名前名乗っても、反応できる気がせんわい」


 老人が名乗りを終えると、次はOL風の女性が口を開く。


「なら私は『ローリエ』でいいかしら?」


「へぇ、お姉さんハーブとか好きなの?」


「いえ、ローリエは月桂樹の葉なんだけど、月桂樹の花言葉が勝利なの!」


「……なるほど」


 ギタリストが彼女に質問するも、帰ってきた言葉に苦笑いする。どうやら随分と気が強そうだ。


 そして最後に残った少女にみんなの視線が集まり、彼女は肩を震わせた。


「えっと、私は、その……」


「まぁ、そこまで急がないから、今すぐ無理にとは言わないよ」


「すいません、それならもう少しだけ待っていただければ……」


「了解、それじゃあ次の話なんですけど、皆さん『ステータス』って言ってみてください。あっ、君はとりあえず俺の画面を見てくれたらいいから」


 全員にステータス画面を表示させるように告げたアタルは、少女の傍によって自分のステータス画面を表示してみせた。


 皆が目の前で起こっている現象に驚いているので、少し時間をおいてから話を続ける。


「えっと、皆さんの目の前に画面が出てきたと思うんですけど、これが皆さんの今の状態になります。たぶん他の人には偽名とHP、MPしか見えていないと思います」


「なるほど…… なんだかゲームみたいだね」


「そうですね、でもゲームと違うところもあるので説明していきます」


 アタルは全員を見回してから、遅れている人がいないかを確認してから次の話に進める。


 ここで聞き逃した人がいたら生死にかかわるかもしれないからだ。


「えっと、まずHPってあるんですけど、これは別に怪我をしたら減るとかってわけじゃないです。簡単にいうとこの数字を使って物や怪我をなおしたり、食べ物とかの消耗品を補充することができます」


「今のところ回復させるには食事をしたり、寝たりするとよさそうです。でも疲れが残ってたりしたら回復量は減りそうですね」


「なるほど…… それじゃあ、食事と補充で永久的にHPが回復できるのかな?」


「理論上はできそうですけど、胃袋の限界がありますからね」


 アタルの説明を聞いて頷いている人もいれば、「エネルギー保存の法則はどうなってるの~!?」と頭を抱えている人もいる。


「えっと、レインコートさん。このHPがなくなったらどうなるの? ……どうなるんですか?」


「あぁ、俺は今まで0になったことはないけど、たぶん0にならないようにしないといけないと思う。なんか嫌な予感がするんだよね……」


 少年、フレイムの発言に対してそう答えるアタル。予想でしかないが、ろくでもないことが起こりそうなのは確かだった。


 とりあえず頭を抱えている女性、ローリエが落ち着くまで待って、次の話にいく。


「それじゃあ次はMPですけど、とりあえず術っていう魔法みたいな力を使う以外に使い道が良くわかりません」


「魔法!? 魔法が使えるの!?」


「えっと、みたいなもので、魔法と言うわけじゃ……」


「じゃあ、どんなのができるか見せてくれよ!」


 目をキラキラさせるフレイムに気圧されながらも、実演することにするアタル。


 彼の目がキラキラしているところ申し訳ないが、そう派手なものでもないので反応が怖かった。


「それじゃあ…… 『霊術:霊傘』!」


「……えっ、これだけ?」


 『霊術:霊傘』を使い、半透明の傘を出すも予想通りの反応が返ってきた。


 地味な術だよなぁと思いながらも少し傷つくアタル。しかし説明を続けていく。


「えっと、これはこの傘を出す術なんだけど、まぁ、なんていうか、亡くなった人を弔ったり、ちょっとした魔除けみたいにも使えるかな?」


「一応普通の傘としても使えるよ」


 アタルの説明に、やっぱり派手なものを期待していたのかフレイムはがっくりと肩を落とす。


 そこでギタリストが気になったことがあるのか手を上げた。


「はい、なんですか?」


「あの時使ってた光の矢も、その術ってやつなのかな?」


「はい、あれは『霊術:雨上がり』って言って、魔を祓ったり曇り空を晴らしたりできます」


「……天候を変えるのはすごくない?」


「とはいっても、一瞬で戻ってしまいますけどね」


 少し話がずれてきたので、咳ばらいをしてから話を戻す。


「とりあえず、こんな感じで術を使う時に消費するのがMPです。これは飲み物を飲んだり寝たりしたら回復するっぽいです」


「ちなみに術の習得方法は良くわかってません、なので使えたらいいかなくらいに思っていただければいいと思います」


 アタルの言葉にみんなが頷く。


「ほかにも聞きたいこととかもあると思いますけど、話せないこともありますし知らないことも多いです」


「それでも可能な限りは答えていくので、何か質問とかはありますか?」


 アタルの問いに沈黙が広がる。


 それも無理はないだろう、いくら命がかかっているとはいえ、このような超常的な現象に巻き込まれいきなり質問しろと言われてもなかなか出てくるものではない。


「とりあえず、気になったことがあれば聞く感じでいいんじゃない? とりあえずずっとここにいるわけにもいかないし」


「そうですね、とりあえずこの場所のどこかに『守護者』と言うものがいて、そいつを倒せばここから出られるみたいなので、それを見つけるのを目標としましょう」


「それで、正直この人数は俺一人では守り切れません。なので皆さんの協力がないと脱出するのは困難だと思います」


「それでも俺が皆さんを元の場所に返すと約束するので、俺に力を貸していただけませんか?」


 アタルの問いかけに、全員が頷く。


 彼らも気づいているのだ。ここで争ったり単独行動したりしたとしても、生き残ることはできないと。


「ありがとうございます、それでは出口を目指して頑張りましょう!」






 『レインコート』(雨野 中)


 HP11/18 MP8/12


 術式 『霊術:霊傘』『霊術:雨乞い』『霊術:雨上がり』


 状態 『川の主の寵愛』 繝サ縲手オ、縺?岑縺ョ蜻ェ縺?? 繝サ縲主セ。菴ソ縺?巨縺ョ邏?據縲       


『偽名』


 それは己の身を守る虚偽の鎧にして、諸刃の剣。


 名による干渉を防ぐ代わりに、この異界においての名を保証するものを減らす行為でもある。


 それゆえにここに迷い込んだものたちは自らの名を肌身離さず身に着ける。


 名前とは、この異界の誰もが狙うものなのだから……


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