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術式

「えっと、フレイムくん。何をしてるの?」


「うーん、もしかしたら魔法が使えないかなって、色々試行錯誤してるんだよ」


「そっか、できれば使う機会が無いといいね」


「そりゃあそうだけど、使えるなら使いたいし……」


 沈黙に耐え切れなかったのか、或いは集中力がかけてきたのか、少女とフレイムは小声で話をしながら歩いている。


 どうやらメモ帳に何を書いているのかが気になったようだ。


 今アタルたちは狭い道を抜けて、広めの通路に出ていた。


 現状見かけるのは『*食べられません』くらいのもので、『腐った歯車』やあの白い化け物には出会っていない。


 それでもいつでも逃げられるように神経を張り詰め、逃げられそうな通路も記憶しながら先頭を歩くアタル。


 その時ふと足を止め、後ろを歩く人たちを手で制す。


 行先の側面にある店のシャッターが開いていたのだ。


「どうしたんですか?」


「前にこんな感じであいていた時は、中に『腐った歯車』がいました。中にいるかもしれませんし、少し戻ったところに横道があったので戻りましょうか」


「あぁ、それはちょっと難しいかも」


 ギタリストの言葉を聞いてアタルが後ろを振り返ると、先ほど話していた横道から『腐った歯車』が歩いている姿が目に入った。


 どうやらまだこちらには気づいていないようだが、このままじっと立っていても見つかるのは時間の問題だろう。


「……俺が中を確認するので、なにもいなければ通り抜けましょう」


「いた場合は?」


「その時は戦闘になるので、覚悟はしておいてください」


 アタルは『雨宿り』を構えながら忍び足で店の入口に近づき、こっそりと内部を確かめた。


「あぁっぁぁぁあぁ!!!!」


「なっ!?」


 すると内部から『腐った歯車』がアタルにとびかかり、何とか『蝸牛の盾』で攻撃を防ぐ。


 『腐った歯車』は自身の噛みつきによる攻撃を盾で防がれながらも、ギリギリと盾に噛り付いていた。


 そしてその後ろからさらに2体の『腐った歯車』が飛び出してくる。


「くそっ、『暴風来』!!」


 盾にかみついている『腐った歯車』ごと、『暴風来』で吹き飛ばし無理やり引き剥がす。至近距離で『暴風来』を使ってしまい、アタルも強風で吹き飛ばされてしまった。


 アタルにとびかかったものは暴風によって切り刻まれるも、残りの2体は吹き飛ばされただけでまだ灰にはなっていない。


 今は呻いて倒れているが、起き上がるのも時間の問題だろう。


「だ、大丈夫ですか!? えっと…… 『治療』!」


「ダメだ! まだ中に2体いる!」


 フランシーヌがアタルに駆け寄り回復するも、その間に先ほどの2体がよろよろと起き上がる。


 アタルはフランシーヌを背に守るように立ち上がるも、さらに不運は続く。


「ひっ……」


「まずいよ、さっきの音につられて気づかれたみたいだ」


「しかもひぃ、ふぃ、みぃ…… 5体はいるなありゃ」


「なっ!?」


 どうやら先ほど見かけた背後の『腐った歯車』は団体さんだったようだ。


 5体もの『腐った歯車』がアタルたちに向かってくる。見かけによらず素早く、このままだとすぐに迫ってくるだろう。


「くそっ! こっちの2体は俺が戦うから二人は向こうの5体の足止めをお願いします! 後衛組は下がって囲まれるのだけは避けてください! 『濡れ羽鴉』、あの二人を手伝ってくれ! 『修復』!」


 アタルはその場の全員に指示を出して、先ほど吹き飛ばした『腐った歯車』に殴りかかる。


 1体は頭部を殴りつけると倒れて灰となるも、もう一体はアタルに接近して噛みついてきたので何とか盾で防ぐ。


「みんな! 私の後ろに隠れて! なるべく向こうに移動するよ!」


「親方さん、この数はいけそうかな?」


「あのカラスもいるし何とかなるだろう、若造、怪我するなよ?」


「もちろん」


 ローリエが後衛3人を連れて何とか囲まれないように移動する。


 親方とギタリストはアタルが呼び出した『濡れ羽鴉』と共に『腐った歯車』たちをけん制し、突出したものから狙い撃ちにする作戦に出た。


 数の利は向こうにある、なのでなるべく相手に囲まれないように慎重に動いていた。


「ひっ、ど、どうすれば……」


「くそっ!? 何か、何かないのかよ……」


「大丈夫よ、私が守るからね!」


 年少組はどうやら多少パニックになっているようだが、ローリエがいるおかげか逃げ出したりはしていないようだ。


「レインコートさん!」


「フランシーヌさんはローリエさんのところまで下がって! こいつは何とかしますから!!」


 フランシーヌにそう告げながら、アタルは自分に組み付く『腐った歯車』に前蹴りをお見舞いする。


 衝撃で盾から口を放してよろける『腐った歯車』の頭に思い切りフルスイングすると、その勢いのまま床に頭をぶつけて灰となって結晶と歯車を落とした。


「よしっ、こっちは終わった! すぐそっちに…… 嘘だろ?」


 なんと店の内部は土産屋の様な内装をしていたが、商品棚やレジの裏にもまだ『腐った歯車』が隠れていたようだ。


 追加で現れた2体の『腐った歯車』に絶望しながらも、アタルは声を上げる。


「すまん! まだ中に2体いた! 何とか持ちこたえてくれ!」


「大丈夫! こっちは何とかするから!」


 そういうギタリストは、自身の大きなギターケースを振り回して、眼前で羽ばたき視界を遮る『濡れ羽鴉』と共に『腐った歯車』たちをけん制していた。


 そして少しでもギタリストに近づこうとする者は親方の金槌で腕や脛を殴られ、よろめいて離れていく。


「くっ、もう少し持ちこたえてくれ!」


 一体を蹴り飛ばして距離を取り、もう一体を盾で殴って吹き飛ばすアタル。


 『暴風来』使えて残り1回、もう修復するためのHPは残っておらず、他の人に直してもらおうにもこの場を離れる必要がある。


 そのため、もし攻撃を外してしまえば得物を失ってしまうため何とか使わずに戦わなければならない。


「くそっ、俺も戦えれば……」


「ダメよ、勝手なことをしては。私たちの役目は彼らが怪我をしたら治してあげること、何もできないのはもどかしいだろうけど、ここは耐えて」


 仲間たちが戦うところを眺めているしかできず悔しがるフレイムをローリエが諭すが、その彼女も悔しそうに歯を食いしばっていた。


 そんな様子を見て少女は何か自分にもできることはないかと頭を悩ませる。


 そして、先ほどの会話が頭をよぎった。


「ねぇ、フレイム君。さっき言ってた魔法だけど、ダメもとで試してみない?」


「えっ? なんで唐突に……」


「私はそういうのよくわからないけど、もし使えたらこの状況を何とか出来ると思うの。私も手伝うから、どうにかできないかな?」


「……わかった、やってみよう!」


 少女の提案でフレイムはメモ帳に文字を書き込みながら説明を始める。


 とりあえず思いつく限りの方法を試して、何かできないかを探すつもりのようだ。


「何かやるのはいいけど、近づいたらダメよ。みんなの邪魔になるだけだからね」


「えっと、よくわからないけど、周りの警戒は私たちに任せて」


 ローリエとフランシーヌは二人に声をかけると、ローリエは戦況の把握を、フランシーヌは周囲から増援が来ないかの確認をする。


「とりあえず、手から火が出るイメージで魔法の名前を唱える方法で。手をかざして火の玉を飛ばすイメージで『ファイアボール』とか……」


「わかった、『ファイアボール』!! ……ダメかな?」


「『ファイアボール』! ……だめだ、なら直前に呪文を唱えるパターンで」


「えっと、呪文って?」


「なんていうか、魔法を使う時のキーワードみたいな感じで、たぶん日常生活で暴発しないようにするためのセーフティとかじゃないかな? ついでに呪文の力を強める、みたいな……」


「と、とりあえずやってみよっか!」


「わかった、それじゃあ普段から考えてる呪文なんだけど……」


「……やっぱり駄目、うまくいかないみたい」


「じゃあ次は魔法陣で、これは数学で言う公式みたいな……」


「でも、それって知識が必要なんじゃ……」


「やっぱりオリジナルは無理かな…… なら、歴史に倣って……」


「えっと、こうかな?」


「そうそう、それで、この術式の概要なんだけど……」


「なるほど、それでこの形……」


「そしてそのまま……」


「……えっ? この声って……」


「……やった、いけたぞ!」


 戦いのさなか、少年少女の奮闘は実を結ぶ。


 それは、この異界だからこそ起こりえた奇跡。


 二人は筆ペンでメモ用紙に五芒星を描き、それを構えて『腐った歯車』に向けて投げつける。


「ふたりとも、伏せて!」


「「『陰陽術:木生火』」」


 二人の放った紙は、翻ることもなく真っ直ぐ火球となって『腐った歯車』に向かって飛んでいった。






 『レインコート』(雨野 中)


 HP4/18 MP8/12


 術式 『霊術:霊傘』『霊術:雨乞い』『霊術:雨上がり』


 状態 『川の主の寵愛』 繝サ縲手オ、縺?岑縺ョ蜻ェ縺?? 繝サ縲主セ。菴ソ縺?巨縺ョ邏?據縲       



『術式』


 それは、人々の想いや願い、覚悟から生まれる。


 異界の中でそれが最も輝くのは、戦いの中である。

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