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黄昏の華  作者: 奥村 葵
第二章 怪異
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ep11.二人

「雪乃ちゃん、哲也くん、ごめんね遅くなった〜」

「大丈夫、見つかって良かった」


 外に出ると、雪乃さんと哲也さんが出迎えてくれた。

 なんというか、久しぶりに外に出た気がする。あと、とにかく空気が美味しい……。気持ちよくて、爽やかで、それでいて——


「哲也くん助かったよ〜」

「あれぐらい、どうってことない」


 哲也さんはその太い腕を誇示するように、胸元で構えた。


「……あ、哲也さんが開けたんですか?」

「ああ。それがどうした」

「俺、てっきり舞さんかと……」


 それを聞いた舞さんは、その場に相応しくない程の声量で、腹を抱えて笑い始めた。


「わ、私が穴を……!あははは!いやいやいや、こんな華奢な体じゃ何もできないよ〜!ふふ、あははは!」

「あー……、まあ、確かにそう、か……」


 なんというか、今までの舞さんを見ているから、そういうことも出来そうに見えてしまうのが恐ろしいところだ。普通、そうだよな。無理だよな。

 いや、それならそれで、哲也さんがおかしい事になるけど……。


「……なんだ、何かついてるか」


 無意識に哲也さんを見ていたようで、慌てて視線を逸らした。

 この人、見た目以上に力がある——なんて次元じゃない気がする。壁を壊すって、どういう力なんだ……?

 

「おい、社会不適合者」


 雪乃さんがこちらに近づきながら、唐突に話しかけてくる。しかしまだその呼び名を使われるとは、流石に堪えるものがある。俺は俺なりにさっき頑張ってたんだけどな……。

 

「頑張ったな、無事で良かった」


 そう言いながら、雪乃さんは俺の肩をそっと叩いてくれた。意外な優しさに驚いたが、それ以上に今まで感じたことのない嬉しさが、深いところから込み上げてきた。


「舞さん、雪乃と見張ってる時に男が出てきたんだが……、良かったのか?」


 ——あの男のことだ。二人が見送ったということは、無事逃げきれたと考えてもいいのだろうか。

 

「私たちはどうもしないよ〜。公安にでも任せるつもり〜」

「わかった」


 とはいえやはり、もやもやした気持ちは残る。本当に俺たちは何もしなくてよかったのだろうか……。


「……あれ、そういえば霧猫は?」


 辺りを見渡すが、あの毛色じゃこの夜の森に溶け込んでしまって、見えるわけがない。真っ赤な目、そして金色のイヤリングを目印に探してみるが、やはり無謀というものだろう。


 ——と思ったが、茂みの奥から何か光るものが見えた。


「——霧猫!お前どこに行ってたんだよ!」

『それは私の台詞というものだ』


 変わらない態度に胸を撫で下ろしていると、その背後から更に二人、ゆっくりと木々の影から現れた。


 一人は前髪が伸びた男、もう一人は着物を着た女……。少なくとも、この場では浮いた服装だ。


「舞さん、お知り合いだったりしますか……?」

「ふふ……、まさか。知らないよ」


 ただ肝試しに来ただけのカップルなら理解出来るが、きっちりとした着物で来る訳がない。異質すぎる雰囲気に少し身慄いをした。


「ねえ二人とも。何しに来たの?」


 舞さんは少しずつ二人への距離を詰めていく。それに合わせ、哲也さんも近づいていった。

 二人は物怖じせず、その場でじっと立ったまま動かない。


『舞よ、そう殺気立つな』

「んー?何言ってるかさっぱりだよ?」

『誤魔化さずとも良い。こ(・)の(・)女(・)に、唯ならぬ雰囲気を感じたのだろう』


 霧猫の言葉に、舞さんはふと歩みを止めた。


「……へぇ〜、分かるんだ」

『妙な匂いがするのでな。気になって追いかけたほどだ』


 なら迷子になったのはお前じゃないか——と突っ込みたいところだが、今はそんな雰囲気じゃない。

 それに妙な匂いって、一体どういうことだ……?


「尚更気になっちゃうね……。ねえ、二人とも?」


 舞さんの視線が二人を捉える。霧猫は気がつけば俺の頭へと登っており、静かにそのやり取りを見守っていた。


「単刀直入に聞くね。二人は——敵かな?」


 以前聞いたことのある言葉以上の圧をこの時覚えた。次に何が起こるのか全く読めない中、俺は身構えながら二人を見つめた。


「……こういう時は、まず名前を聞くもんじゃないですかね」

「修一さんの言う通りですよー!あ、私は蜜坂(みつざか)香奈(かな)って言います!」

「お前から言うのか……」


 二人のやり取りに、牽制みたいなものは感じられない。それに気づいたのは舞さんも同じだったらしい。ため息をついた後、それでも警戒は緩めないまま口を開いた。


「確かにそうだね。私は怪異監視庁統括局行動一課、主任監の八風舞だよ」

「えっ長……、俺は暁(あかつき)修一(しゅういち)です」

「私は蜜坂——」

「さっき言ったろお前」

「へ?あ、アハハー……」


 なんというか、警戒して損している気がする。この二人、服装こそ変だけど、別に普通なんじゃ……。


「修一くんと香奈ちゃんだね。で、何しに来たの?」

「え?まあ、調べ物っていうか、調査っていうか……」

「ふうん、あまり言いたくないって感じだね」

「まあ……」


 修一さんははぐらかすように視線を泳がせている。何かしら事情があるようだが……。

 

「なんかこう、〝森のコックさん〟という怪談がこの辺で流行ってるそうなので、その調査に!」

「うぉーいなんで言っちゃうかなぁ!」

「えー!私、嘘と隠し事が嫌いなんです!」

「〝出来ない〟の間違いだろお前の場合は!」


 二人が言い争いをしているのを見ていると、さっき思ったことがより現実的に思えてきた。

 舞さんもこちらを振り返り、肩をすくめている始末だ。


「……まあとにかく、そんなところです。敵かどうかは――俺からはなんとも言えないです」

「そっか……。じゃあ質問を変えよっか。香奈ちゃんは――何者?」


 さっきまで元気だった香奈さんの動きが静かになる。そして、人差し指で口元を押さえながら暫く考えていると、そっと指を離した。


「多分怪異ってやつです!」


 木の葉の擦れる音だけが、静かに聞こえた。

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