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第99話 絆

 ドルレットがチョコ-1 グランプリで戦う姿をインターネットやテレビで目にし、デチェバルだと気づいて驚いたのはクララだけではありませんでした。

 16歳だったデチェバルがクララと初めて面談をしたときに14歳だった公安調査庁長官チョコインベスの息子レオンテ、17歳だった副大統領チャウチョコスの娘コドリナ、親衛隊隊長チョコシャルペの娘のマリオアラ、10歳だったケーキ担当大臣チョコッティの娘オティリアも、デチェバルと面識があったため、準々決勝の様子を伝える映像を観て、すぐに気づいたのです。

 既に社会人として行政機関で働き始めていたコドリナとマリオアラも含め、彼らはブラックカカオの別荘での暮らしを継続していました。革命から歳月が流れたとはいえ、ブラックカカオの独裁を支えていた閣僚たちに恨みを持つ国民はまだ多くいると推測されました。そのため、閣僚たちの実子である彼女たちが安全に暮らすには、警備が厳重な別荘で暮らし続けるのが一番だろうと行政機関の担当者は考えました。そして担当者と話し合ったうえで、コドリナたちは継続することに決めたのです。オティリアとレオンテは別荘から高校、大学に通い、コドリナとマリオアラは別荘から行政機関の庁舎に通勤していました。

 彼らは準決勝まであと一週間となった土曜日の夜、別荘のラウンジに集まり、デチェバルやチョコ-1 グランプリについて話をしました。

「コドリナさん、チケット取れましたか?僕たち4人と、あと、ルミニツァさんの分、合計5枚」

 コドリナに向かってレオンテがそう言うと、コドリナは頷きました。ルミニツァは、10歳のときに父親を失い、別荘で暮らし始めたオティリアを途切れることなく献身的に支え続けてきた、行政機関の担当者です。コドリナ、マリオアラ、レオンテの3人もルミニツァが素晴らしい人であることはよく理解しており、普段から仲良くしていました。ルミニツァもデチェバルとは面識があったので、4人と同じように、デチェバルがチョコ-1 グランプリで戦っている姿を観て驚き、「チケット取るなら、私も一緒に行きたい!」とオティリアに言っていたのです。それをオティリアはコドリナに伝えたわけです。4人は遠慮をして何度も断ったのですが、ルミニツァが譲らなかったので、みんなのチケット代はルミニツァが全て出すことになりました。ルミニツァはそのとき32歳で、社会に出てから日の浅いコドリナやマリオアラよりもかなり稼ぎがあったのです。


「取れたよ ! デチェバル、めっちゃ大人になってたよね!びっくりしちゃった」

「ほんとですよね!昔から格好良かったですけど、更に格好よくなってて驚きました!身体も鍛え上げられてて⋯肩幅なんて、僕の倍くらいあるんじゃないかな!?」

 レオンテがそう言うと、マリオアラが真顔で、

「そんなわけないでしょ 。レオンテが仮に肩幅40だとして、80もあるわけないでしょ」

 と言いました。コドリナとオティリアは大爆笑し、レオンテは「⋯あえての誇張表現ですよ⋯そういうの、あるでしょ⋯」と言って、ジト〜っとした目でマリオアラを見ました。

 4人は、ルミニツァだけでなくデチェバルもまた素晴らしい人であることを分かっていました。そしてルミニツァも、デチェバルのことを素晴らしい若者だと思っていました。


 いよいよ、チョコ-1 グランプリ準決勝が行われる日がやってきました。

 その日は快晴で、レオンテ達4人は別荘の最寄り駅まで行政機関の車で送ってもらい、待ち合わせていたルミニツァと合流して電車でチョコ浜アリーナに向かいました。ルミニツァはもちろん、その日は休みを取っていました。

 行政機関の車の維持費、ガソリン代は税金によって賄われていたので、4人は普段から、車に乗せてもらうのは必要最小限にするよう努めていました。最寄り駅は歩いて行くと40分以上かかるので、「歩いて行きますよ!」と言った4人に対して、行政機関の職員は「そこまで気を遣わなくていいから ! 何かあったら大変だし、お願いだから車で送らせて ! 」と説得したのです。

 職員も人なので、もし4人が自分勝手な行動を繰り返していたり、尊大な態度をとっていたら、そこまで親身になって優しく接してはいなかったでしょう。4人はまだ子供だった頃から、自分の中にある良い部分⋯それは決して、最初から大きく、しっかりしたものだったわけではありません⋯"周りの人達に少し優しくしてみようかな"という気持ちだったり、"なるべく迷惑かけないようにしないとな⋯"という気持ちだったり⋯そういう芽のような良い部分を、自分なりに少しずつ育てていったのです。それを感じ取ったからこそ、職員の方も"仕事だから"ということではなく、心の底から"この子達には幸せになってもらいたい"と思うようになっていったのです。しかし、もし職員が意地悪な人だったら、子供達はそんな風に自分の良い部分を育んでいくことは出来なかったでしょう。彼らは、お互いに良い影響を与え合い、ふと気づいたときには、お金では買えない、関係性⋯つまり人との絆(きずな)という宝物を手に入れていたのです。

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