第98話 謎の法則
チョコ-1 グランプリ準決勝のチケットを取れたかダリアに訊かれたクララは、「取れたよ!」と答えました。出来るだけ平静を装って答えましたが、本当は胸の鼓動が高鳴るのを感じていました。"なんで私、ドキドキしてんだろ?"と考えたクララは、 " ダリアが、恋愛感情がどうたらとか、変なこと言うからじゃん! ダリアが悪い!! " という結論に至りました。
「で、ドルレット君のどこに惚れたの?クララ」
ブハッ!!!
クララは飲もうとして口に注ぎ込んだギムレットを噴き出しました。加湿器などのスチームに比べ、かなりひと粒ひと粒が大きい噴霧となったギムレットが、ダリアを襲いました。
「きゃ〜!! ちょっと! やめてよ〜! 」
「お、お前が悪いんだろっ!! また、変なこと言うからっ!! 惚れてるわけないだろっ!! あんな若造にっ!! 」
クララは慌てふためきながら反論しましたが、ダリアはハンカチで顔と服を拭きながら、「ほんと素直じゃないわね、あなたは⋯」と言いました。
「ドルレット君と最後に会ったのって、何年くらい前なの?」
ダリアがそう訊くと、クララは「え〜と⋯6、7年くらい前かな」と答えました。
「そのときドルレット君はいくつだったの?」
「え〜と、最後に会ったときは多分、17だと思う」
「てことは今、23くらいか⋯なるほど。クララは今、42だよね?⋯ふむ⋯言われてみれば、確かに⋯全然犯罪じゃないはずなのに、なぜか犯罪の香りが微かにするような、しないような」
「⋯え!?」
「でも大丈夫っ!!10年経てば30超えてるもん!!もう、完璧過ぎるほどの大人っ!!」
「いやいやいや!!23も十分、大人だろ! ていうか、10年経ったら、こっちは50超えるんだぞ!?ぜんっぜん、大丈夫じゃないだろ!!」
「あ、そっか!!クララも歳を取るってこと、完全に忘れてた!!アハハハハハ!!」
ダリアは大爆笑しました。
「でも安心してっ!!大丈夫!クララ、めっちゃ若く見えるし、こんな格好いい女性見たことないってくらい、格好いいから!!ハンサムショートがそんなに似合う人、なかなかいないよ!?30くらいに見えるから大丈夫!!50になったときは40に見えるわけだから」
「⋯お前の理屈で言うと、10歳のときの私は0歳に見えてたことになるのだが⋯本当に大丈夫か?その、謎の法則」
「大丈夫っ!!多分、0歳児に見えてた ! 思い出してみて。小4くらいの頃、クラスの男子とかに " なんかお前、生まれたての赤ちゃんっぽいな " とか言われたこと、ない? あるいは担任の先生が授業中、クララを指して "は〜い、じゃあ、クララちゃん。7かける7は何でちゅか〜? " とか、 言って、あの⋯ほら、何て言ったっけ。振ると鳴るやつ」
「ガラガラか?ラトルとも言うが」
「そう、それっ!! それを振りながら先生が近づいてきたこと、あるでしょっ!?」
「⋯あってたまるかっ!!!」
クララとダリアのアホな会話を聞きながら、アドリアンは笑っていました。
「クララさん! 僕もこの前、パブリックビューイングで一緒にドルレットさんの試合、観たじゃないですか?」
「え?⋯う、うん」
「そのとき、ドルレットさんを見て思ったんですよ。"あ、チョコクラージュさんに、少し雰囲気似てるな"って。⋯もちろん、僕はチョコクラージュさんに会ったことありませんし、歴史の教科書で写真を見ただけなんですけどね。でも写真って、その人がもつ雰囲気まで伝わってくるじゃないですか?チョコクラージュさんって、すごく優しそうですよね」
アドリアンにそう言われたクララは、さっきまでとは違う、真面目な表情になりました。そしてアドリアンの目を真っ直ぐ見ながら、こう言いました。
「ありがとう、アドリアン。その通りだ。チョコクラージュは、とても優しく、とても強い男だ。確かに、二人のそういう部分は似ているかも知れない」
そこまで言って、クララは一度、沈黙しました。それから再び口を開き、アドリアンとダリアの顔を交互に見ながら、静かにこう言いました。
「でもな、私はドルレットの姿にチョコクラージュの幻影を見ているわけではないんだ。私は、そんなことは絶対にしない。アドリアンが"二人は似ていますね"と言うのは、もちろん、別に失礼なことじゃない。優しいところは確かに似ているしな。でも⋯私は二人を重ねて見たことは、一度も無いんだ。幼少の頃から私のことを温かく見守り続けてくれたチョコクラージュ⋯最後は命をかけて私を守ってくれたチョコクラージュを、他の誰かに重ねて見ることなんて、出来るわけがない。そして、デチェバル⋯つまりドルレットのことだが、彼も私にとっては、かけがえのない存在なんだ。私はもし彼がいなかったら、もっと早く心がズタズタになって、死んでしまっていたかも知れない。定期的に会っていた時期、私は彼の優しい笑顔と言葉に、何度救われたか分からない。⋯アドリアン、お前⋯チョコクラージュとデチェバルの優しさを感じ取るなんて、なかなか人を見る目があるぞ!」
クララはそう言って、微笑みながらアドリアンの頭をぽんぽんと優しく叩きました。アドリアンとダリアも、静かに微笑みながらクララを見つめていました。




