↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/136

第95話 ドルフという男

 ドルフ・マリネスクは準決勝が3日後に迫った水曜日の夜、一人暮らしをしている自宅のテレビでチョコカバリーチャンネルを観ていました。

 ドルフはチャラチャラしたところがなく、同性の後輩たちが「俺もいつか、あんな男になりてえ⋯」と憧れるような男でした。俳優で言えば高倉健、戦国武将で言えば柴田勝家、犬で言えば秋田犬、アコースティックギターで言えばギブソンJ-45、袋ラーメンで言えば出前一丁のような男だったのです。そんな彼が最も好きな野生動物は、猛禽類でした。チョコカバリーチャンネルでは様々な野生動物の特集番組が配信されていましたが、彼は猛禽類の特集を繰り返し観ていました。

"ハヤブサが急降下するときの速さは、時速300km以上。風圧で窒息しないように鼻の穴の中に特殊な突起があるほどなんだ。視力は人の約8倍。ズーム機能まで付いてる。フクロウは、全く音を立てずに羽ばたくことが出来る。羽の周囲が、空気の渦を細かく分解する特殊な構造を持っているためだ。だから獲物は襲われる瞬間まで気づけない⋯。更に、奴らの丸い顔は、音を集めるパラボラアンテナの役割を持っている。左右の耳の穴の位置が上下にズレていて、音が届くほんの僅かな時間差から、真っ暗闇でも獲物の位置をセンチメートル単位で特定できるんだ⋯"

 ドルフはハヤブサやフクロウのようなキックボクサーになりたいと考えていました。

"身体能力も凄いが、なんといっても面構(つらがま)えが最高だ、猛禽類は。なんて格好いい目をしているのだろう⋯あの目は、余計なことは何も考えていない奴の目だ。「獲物を捕まえて、生きていく」それしか考えてない奴の目だ。だから、どこまでも澄んでいる⋯"


 チャ〜、チャ〜チャ〜チャ〜♫

 画面に映るハヤブサの顔に見惚れていたドルフの近くに置かれていた携帯電話が、着信音を響かせました。猛禽類好きのドルフは携帯の着信音も、チョコの国で人気のヘビーメタルバンド「ハロチョコウィン」の『イーグル・フライチョコ・フリー』という曲にしていました。たまに同じハロチョコウィンの『チョコクロウズ』という曲に変えるときもあるのですが、そっちも猛禽類の曲なのです。

「⋯はい、ドルフですが、どちら様ですか?」

「あ、ドルフさん!夜分に恐れ入ります!ブリンコベアヌです!」

 電話をかけてきたのは、チョコ-1 グランプリ運営委員会のアムザ・ブリンコベアヌでした。

「ああ⋯ブリンコベアヌさん。どうしたんですか?何かありましたか?」

「準決勝では、それぞれの選手に好きな曲を選んでもらって、入場曲として流そうという話になったんです。ドルフさん、何の曲がいいですか?もし特にご希望が無いようでしたら、私が代わりに選んでおきますが⋯その場合は『チョコ猫ふんじゃった』か、『チョコだんご三兄弟』になるかと思います」

「⋯絶対いやです。ハロチョコウィンの『チョコクロウズ』にして下さい」

 ドルフは、大空を自由に飛び回る鷲をモチーフにした名曲『イーグル・フライチョコ・フリー』も大好きでしたが、戦いの前に流れる曲としては、獲物を容赦なく掴(つか)む猛禽類の鋭利な爪をモチーフにした『チョコクロウズ』の方がうってつけだと思い、そう答えました。対戦相手を、文字通り"鷲掴み"にしてやる⋯ドルフがそう考えた次の瞬間、電話の向こうでブリンコベアヌがこう訊きました。

「本当にいいんですか?『チョコだんご三兄弟』じゃなくて⋯。勇気を与えてくれると思いますよ?」

「本当に、結構です。ブリンコベアヌさん、ご連絡ありがとうございました」

 ドルフは静かに電話を切りました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。