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第94話 広い心

 ドルレットはどこまでも純真無垢な男なので、"記念すべき第1回目のチョコ-1 グランプリの決勝で、同じ職業の男が戦う⋯これは運命に違いない⋯"と考え、感無量の表情を浮かべていましたが、実際には、2人はまだ決勝に進むと決まったわけではありませんでした。それにドルフの本業は鉄筋工なので、ドルレットのように本業として施設で働いているわけではなく、空いた時間を使って施設の手伝いをしたり、差し入れをしているだけなのです。もちろんそれもとても立派なことなのですが、ドルフ・マリネスクは"大会の運営は、美談みたいにしようとしてるのか?嫌だな⋯"と思い、パンフレットの誤った記載について、運営会社に訂正を求める電話をかけました。


「もしもし。ドルフ・マリネスクですが、アムザ・ブリンコベアヌさんはいらっしゃいますか?」

 アムザ・ブリンコベアヌはチョコ-1 グランプリの運営委員会のメンバーで、選手と連絡を取り合ってインタビューや、ポスターやパンフレットに使用する写真の撮影などのスケジュール調整をしたり、選手からの問い合わせに回答する業務を行っている男性でした。

「はい、ブリンコベアヌですね。少々お待ち下さいませ」

 電話に出た女性職員はそう言って、内線で電話をブリンコベアヌに取り次ぎました。

「お電話代わりました、ブリンコベアヌです」

「ドルフです。ドルフ・マリネスクです」

「ああ!ドルフさん。どうかなさいましたか?準決勝を前にして、まさかお怪我なさったんじゃないでしょうね?それだけは勘弁して下さいよ?ハハハハハ」

 ブリンコベアヌはとても陽気な男なので、そう言って豪快に笑いました。

「いえ、違います。⋯パンフレットのことで⋯ちょっと」

「大会のパンフレットですか?まさか、 " 写真写りが悪い!もっと格好よくしてくれ " なんておっしゃるんじゃないでしょうね!?十分に格好よく写っておられますよ!目にした女性たちは全員、惚れてしまうのではないかと心配しているくらいですよ!フハハハハハハハハ!」

「いえ、違います。私の職業についての記載なんですが⋯」

「ほう。職業ですか。なんと書いてありました?」

「普段は児童養護施設の職員として働いている、と」

「本当ですか!?それはいけませんね。あなたのご職業は⋯確か鉄筋工のはずだ。児童養護施設の職員ではない」

「そうなんです。パンフレット撮影前のインタビューで、施設で育ったことを話したのですが⋯準決勝に残った4人の中に、施設で働いている方がいらっしゃるようなので、パンフレットを作った方が、その方と混同されたのか、あるいは⋯」

「あるいは?」

「意図的に美談にしようと⋯していませんか?」

「な、何をおっしゃいますか!誓ってもよろしい。わたくしどもは、そのようなことは決して、いたしません!おそらく⋯作者がオッチョコチョイで、間違えたのでしょう」

「作者?」

「あ、いや、間違えました。作成者です。パンフレットの、作成者!」

「ああ⋯作成者の方ですか」

「ええ。勝ち残っているドルレット・レツィさんが児童養護施設の職員なので、おそらく混同してしまったのでしょう。このようなことが再び起こらぬよう、厳しく指導をしておきます!」

「あ、いや⋯そういうことでしたら、僕は構いませんので、怒ったりしないで下さい。可哀想ですから」

「おお⋯なんと広いお心をお持ちなのだ、あなたは⋯。ありがとう、ありがとう。ドルフさん。良い試合を、期待していますよ。頑張って下さいね」

「ありがとうございます」

 ブリンコベアヌは、ドルフの寛大な姿勢に深く感謝しました。ドルフはこの物語を読んでおられる皆さんにも負けないほどの、広い心の持ち主だったのです。

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