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第93話 祝福

 チョコ-1 グランプリの日程では、準々決勝から準決勝まで、2週間のインターバルが設けられていました。ドルレットは当然のことながら、その間も児童養護施設での仕事をこなしていました。準々決勝の翌日の日曜日は、あらかじめ休みを取っていたので出勤しませんでしたが、月曜日は出勤し、子供たちや職員は彼を弾けるような笑顔で出迎えました。普段は朝、ドルレットが出勤したときに施設の外に出ている子供は外掃除の当番の子だけなのですが、その日は全員が入口の前に集まり、ドルレットが出勤して来るのを今か今かと待っていたのです。

「あれ〜!みんな、どうしたの!?」

 ドルレットが照れ隠しでそう言うと、子供たちは女性職員シモナ・シリバシュの「せ〜のっ!」という掛け声に合わせて、

「ドルレット、おめでとう!!」

 と一斉に大きな声で言いました。シリバシュは慌てた様子で、

「ちょっと、あなた達!ちゃんと"さん"を付けなさいって言っておいたでしょ!」と言いましたが、顔は笑っていました。何人かはちゃんと「ドルレットさん」と言ったのですが、ほとんどの子供は親しみを込めて普段通り、呼び捨てにしたのです。ドルレットは大爆笑して、

「大丈夫ですよ、シリバシュさん!こいつら、悪気は無いですから!」

 と言いました。そのあと子供たちは、まるで囲み取材をしている記者のようにドルレットを囲み、

「チョコ浜アリーナ、やっぱり大きかった?」

「ドルレット、あのパンチは、よけられたはずだぞ」

「インタビュー観たけど、ビリー・アイリッシュセッターの話が長過ぎだよ。キックボクシングと関係無いじゃん」

「ドルレットめっちゃ強くて格好よかったぞ!」

 などと、質問やらダメ出しやら称賛やら、各々好き勝手なことをドルレットに向かって言いました。ドルレットは優しいので、出来るだけ丁寧にひとつひとつの言葉に返答していました。そして、

「みんな、応援してくれて本当にありがとう。準決勝も頑張るからな!」

 と言いました。そのときシュテファンと、目が合いました。シュテファンは笑顔で、

「負けたら承知しないからな!ドルレット!」

 と言い、ドルレットも笑顔で頷きました。


 ドルレットはその日の夜、自宅で、準々決勝のトーナメント表が載っているチョコ-1 グランプリのパンフレットを見ていました。トーナメント表は最下部に8人の名前が記されており、左から順に「第1試合」「第3試合」「第2試合」「第4試合」と書かれていました。準々決勝の第1と第3の勝者同士が準決勝第1試合で対戦し、準々決勝第2と第4の勝者同士が準決勝第2試合で対戦することになっていました。なので第2試合で勝利したドルレットは、準決勝の第2試合で、第4試合の勝者コドレアヌと対戦することになったわけです。

"もしコドレアヌさんに勝ったら⋯準々決勝の第1試合で勝ったラレシュ・ストイカさんか、第4試合で勝ったドルフ・マリネスクさんの、どっちかと戦うわけか⋯"

 ドルレットはそう考えながら、ラレシュ・ストイカとドルフ・マリネスクについて紹介しているページを開きました。

"ラレシュ・ストイカさんはチョコ空手の全国大会で優勝した実績があるのか⋯強そうだな。ドルフ・マリネスクさんの方は⋯えっ ! "

 ドルレットは驚きました。そこには、" 普段は児童養護施設の職員として働いている、子供たちのヒーロー! "と書かれていたのです。慌ててドルレットは自分の紹介ページを開きました。するとそこにも、" 職業は児童養護施設の職員。子供たちのヒーローなのです! "と、少しだけ表現を変えて、ほとんど同じことが書かれていました。

「少し、言い方変えただけじゃん!」

 ドルレットは一人で笑いながら、パンフレットに突っ込みを入れました。

"てことは、決勝戦は児童養護施設の職員対決になる可能性があるのか⋯もしそうなったら、それはもう⋯運命だな、きっと"

 ドルレットは、そう思いました。

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