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第80話 勝ち上がるドルレット

 クララは自分がチョコレツィカであることをダリアたち3人の前で認めたあと、ダリアに「それで、さっきキックボクシングの試合に出ていた人とは、どういう関係なの?」と訊かれました。クララは「それは、今は言えない。でも⋯なんていうか⋯変な関係じゃないよ、当たり前だけど」とだけ答え、ダリアはそれ以上訊くことはしませんでした。


 1月から2月にかけて、ドルレット・レツィはチョコ-1 グランプリの地区予選を順調に勝ち上がっていきました。

 2戦目はチプリアン・ヴォイカという大学生を相手に、またしてもテンカオを突き刺し1ラウンド1分45秒でKO勝利、3戦目はルシアン・モスコヴィチというボクシングのプロライセンスを持つ公務員とフルラウンド戦い抜き、2対1の判定で勝利を収めました。

 4戦目もテンカオでKO勝利を収めたドルレットのことを実況アナウンサーは「ドムヌ・テンカオ」と呼び始めました。「ドムヌ・テンカオ」は「テンカオさん」という意味で、5戦目でセルバン・コドレアヌという体育教師とドルレットが戦ったとき、アナウンサーは「テンカオさん、ローキックをしつこく打ち続けています!」などと言っていました。そこまではまだ良かったのですが、テンカオが離れた状態から打ち込む膝蹴りであるのに対し、組み合いながら打ち込む膝蹴りは"ティーカオ"と呼ばれているので、「テンカオさん、ティーカオを突き刺しました!」「テンカオさんはピンチでしたが、テンカオさんのティーカオがテンカオさんを救いました!まさにティーカオはテンカオさんにとってテンカオなみに得意な必殺技になりました」などとアナウンサーは言い始め、視聴者の多くが「な⋯何を言っているのか、サッパリ分からない⋯!」と頭を抱える事態に陥りました。試合後、「分かりにくいから普通に名前で呼んで欲しい」という声が複数の視聴者から寄せられたことを知ったアナウンサーは、「ちゃんと"レツィさん"と呼ぼう」と決意し、地区予選の最終戦である6戦目の実況に臨みました。

 ドルレットの6戦目の対戦相手は、ラドゥ・フィアラルという鍛冶職人でした。ルシアン・モスコヴィチと同じくボクシングのプロライセンスを持っており、キックよりもパンチが売りの選手でした。

 カーン!

 試合開始のゴングが鳴ったあとしばらく、二人は互いに間合いを測り続け、軽いジャブしか出しませんでした。フィアラルはドルレットのこれまでの試合を録画して観ていたため、テンカオを警戒していました。ティップと呼ばれる前蹴りを頻繁に出して距離をとり、巧みなバックステップやサイドステップでテンカオの狙いが定まらないようにしていたのです。ドルレットは「めちゃくちゃ、やりにくい相手だな⋯」と思いながら突破口を探していました。

 第2ラウンドが終了したあとコーナーの椅子に腰掛けたドルレットに、マリウスは「前蹴りが邪魔で正面からテンカオを打ち込むのは難しい!ハイキックを狙え。側頭部にハイキックだ!お前はサッカーやってたんだし、ハイキックは絶対に威力がある!いけ!」と指示しました。

"ハイキック⋯ハイキック⋯"

 心の中でそうつぶやきながら、ドルレットはパンチとキック両方のジャブを出し、間合いを測りました。

"この相手に勝てば、チョコ浜アリーナで行われる準々決勝に進出だ⋯"

"勝ちたい。絶対に勝ちたい。勝てば、チョコレツィカさんに一歩近づくことになる。そんな保証は無いけど⋯きっと、なる⋯"

 サイドステップで左右に揺れるフィアラルの頭を見ていたとき、ドルレットの心の中に一瞬、チョコレツィカの笑顔が浮かびました。それは6年前にブラックカカオの別荘で面談をしたとき、サッカーの話になり、ボランチというポジションがめちゃくちゃ似合っているとドルレットに言われたチョコレツィカが、照れながら「あ、ありがとう!アハハ」と言って笑ったときの笑顔でした。

"会いたい⋯一度だけでも⋯一度だけでもいい⋯おれは、あの人にまた、会いたいんだ!!"

 ドルレットは心の中で叫びました。それは、想いが爆発した瞬間でもありました。その爆発の力はそのまま彼の脚に宿り、雷(いかずち)のようなハイキックがフィアラルの側頭部に突き刺さりました。

 フィアラルは倒れ、10(テン)カウントが終わるまで立ち上がることはありませんでした。ドルレットは拳を突き上げ、マリウスと抱き合ってから、すぐにフィアラルのもとに歩み寄り、危険な状態になっていないか確認しました。意識があることを確かめると、フィアラルの手を取り、握りしめながら「ありがとうございました」と言いました。フィアラルは「決勝まで行って、優勝してくれ。そしたら俺も自慢出来るから」と冗談で返し、笑顔を見せました。

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