第79話 幻の選挙キャンペーン
議会制民主主義の国として生まれ変わったチョコの国に置かれた新しい首都は「レツィカ」という名で、レツィカドームというイベント施設まで作られていました。言うまでもなく、それらの名称の由来となったのはチョコレツィカ、つまりクララでした。
クララは暫定統治機関から離脱する際、「間違っても、わたしの銅像を作ったりしないで下さいね。偶像崇拝を国が主導するのは独裁国家によく見られることで、『思想・良心の自由』や『信教の自由』の保障と逆行する行為です」と釘を刺しておきました。それは機関の要人が集まった会議の場で言ったのですが、会議のあと、若手の男性職員が「う〜ん⋯じゃあ⋯あれも取り止めにしないとダメかなぁ⋯」と独りごちているのを聞いたクララは、「何の話?」と訊きました。
「いや⋯記念すべき第一回目の衆参同日選挙に向けて、投票率を上げるために、『投票に行こう!チョコレツィカキャンペーン』を展開しようと思っていたんですよ。国民の間で圧倒的に人気のあるチョコレツィカさんを主役にしたキャンペーンです。チョコレツィカさんの格好いい写真と、可愛い写真を使ってキャンペーン用のポスターや団扇、ポケットテッシュ、クリアファイルなどのグッズをたくさん作る予定だったのです。2パターン用意するわけですよ。格好いいバージョンと、可愛いバージョン。格好いいバージョンの方は、キリッとした顔でスーツ姿のチョコレツィカさんがこっちを指差していて、『この国の未来を決めるのは、君だ!』という文字を入れる。可愛いバージョンの方は、チョコレツィカさんがメイドの衣装を着て、『投票に行かないご主人様なんて、嫌いです!』という文字。どうです?結構いいアイデアだと思うのですが⋯ダメですかね?」
要人の言葉を聴き終えたクララは、5秒ほどプルプルと身を震わせてから、怒った顔で、
「ぜっっったいに、ダメだ!!!!!一億パーセント、ダメ!!!何を考えているのだ、お前はっ!!!」
と言いました。
そのプランは結局取り止めになったのですが、新しい首都の名称は公募で決めることになり、ほとんどの応募者は「レツィカ」あるいは「チョコレツィカ」と書いていたのです。それでも一応、7つの名称を最終候補として列挙し国民投票を行ったのですが、予測通り「レツィカ」が圧倒的多数の票を得て、結局「レツィカ」に決定したのです。
ダリアやトシヒコ、アドリアンはそのことを知っていましたし、チョコレツィカが歴史の教科書に載っていることも知っていました。なので"首都の名前の由来になっている人、歴史の教科書に載っている人がいま、目の前にいるんだ!"と一度は思いました。しかし3人とも、「クララは特別扱いされることは全く望んでいない。むしろ、そのことを恐れている。友達が友達じゃなくなることを恐れているんだ」と考えて、クララに対する態度を変えることはありませんでした。
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