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第78話 鉄の女の素顔

「えっ!?そ、そんなわけないだろっ!?りゅ、龍太郎⋯! どうして、そう思った?」

 クララは、"こんなに動揺してる奴、見たことない"とトシヒコが思わず言いたくなったほど動揺しながらアドリアンに訊き返しました。

「⋯龍太郎じゃなくてアドリアンです!⋯この『基本的人権と民主主義』というチョコレツィカさんの本を読み終わったとき、僕の心の中に、チョコレツィカさんという人のイメージが出来上がったんですよ。僕の中にチョコレツィカさんが住み始めたというか⋯。本って、そうじゃないですか。読んでいる最中から徐々に、作者の姿が自分の心の中に形作られていきますよね。もちろんそれはひとつのイメージだから、他の作品を読んだときに少し修正されたりすることはありますけど、とにかく僕の中にチョコレツィカさんの部屋が出来て、そこにチョコレツィカさんが住み始める。その、僕の中に住んでいるチョコレツィカさんのイメージと、いま目の前にいるクララさんが、異常なくらい一致しているんですよ!!この本の持つ熱量と、クララさんの熱量も、完全に一致しています!あと、海部俊樹さんの水玉ネクタイや、橋本龍太郎さんのポマードで整えたオールバックといった、人権思想や政治思想と直接どころか間接的にも全く関係無いことを、唐突にぶっ込んで来るところも!」

 アドリアンの言葉を聴き終えたクララは、"ヤバい⋯!わたしの悪い癖が出て、熱く語り過ぎたせいでバレちゃった⋯!"と思いました。

「そういえば⋯革命が起きたときにわたし、チョコレツィカさんの演説をテレビで観たことがあるんだけど⋯顔も結構似ているような⋯。チョコレツィカさんはロングヘアで眼鏡もかけていなかったけど⋯もしかしてクララ、あなた変装してるの!?」

 ダリアが、微かに眉間に皺を寄せて言いました。クララは"うわっ!!これは、もうダメだっ!!"と思いました。"観念するしかない!!"と。彼女は、一度ぎゅっと目を固く閉じてから、パッと見開き、

「いっ⋯今まで隠してて、ごめんなさいっ!!!その通りっ!!わたし、チョコレツィカなんですっ!!革命が起きたあと、わたしが政党作って選挙で圧勝してしまったら、絶対良くないと思って、印税でひっそり生きていくことに決めたのっ!!本当に、ごめんなさいっ!!」

 クララは立ったまま腰を直角に折り曲げ、深々と頭を下げました。しばらくその姿勢で静止していましたが、やがて顔を上げ、涙に濡れた瞳で、

「ダリア⋯トシヒコ⋯お願い⋯これからもわたしの⋯友達で⋯いて⋯」

 と言い、「うわあああああん!!!」と、声をあげて大泣きし始めました。

 ダリアとトシヒコは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で数秒間、目を合わせてから、「ぷっ!!!」と、同時に吹き出しました。

「クララ、何言ってんだよ。当たり前じゃねえか!!お前が誰であろうが、おれたちには関係ねえよ。お前がお前であることに、何の変わりもねえよ」

 トシヒコはそう言って、にっこり笑いました。ダリアも、

「そうだよ、クララ!わたしだって、この年になって、こんなに仲良くなれる友達が出来るとは思っていなかったから⋯クララと友達になれたこと、神様にめちゃくちゃ感謝してるんだよ?こちらこそ、これからもよろしくね、クララ!」

 ダリアはそう言って、泣いているクララを抱きしめ、頭を優しく撫でました。

「うわあああああん!!⋯あり⋯あり⋯ヒック⋯ありがとう⋯ダリアあああ!!」

 クララがそんな風に泣く人だとは思っていなかったので、ダリアは抱きしめた後も笑っていました。しかしそれは決してバカにするような笑顔ではなく、愛しくてたまらないという笑顔、この人を守り続けていきたいという、優しさに満ちた笑顔でした。

 クララはダリアに抱きついたまま、視線だけをアドリアンに向け、こう言いました。

「ポ⋯ポマード龍太郎⋯お前も、これからも友達でいてくれるか⋯?」

 アドリアンは優しい笑顔で、

「はいっ!!もちろんです!」

 と答えました。

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