第74話 ポマードと水玉
アドリアンは、どんな問題を出してもクララが必ず正解するので、楽しくなってきました。
「よ、よーし!!こうなったら、クララさんが不正解になるまで問題を出してやるっ!!」
「え〜!?ちょっと、やめてよ!わたし、ノンビリお酒飲みたいんだから⋯!!トシヒコ!エックスワイジーお願いしま〜す!」
XYZはホワイトラムをベースにしてホワイトキュラソーとレモンジュースを加えて作るカクテルで、クララのお気に入りのひとつでした。
「"人間はポリス的動物である"と言ったのは誰?」
「アリストテレス!」
「社会全体の共通の利益を目指す、一体化した人民の意志のことをルソーは何と呼んだ?」
「一般意志!この概念、聞こえはいいけど実はかなり危険なんだよな。独裁者が自分を正当化するために使えちゃうから」
「国際連盟の設立に影響を与えたイマヌエル・カントの著書と言えば?」
「『永遠平和のために』!」
「生存権を規定した日本国憲法第25条は、救済を受ける裁判上の権利を定めたものではなく、政治の努力目標を書いたものだという考え方を何と呼ぶ?」
「プログラム規定説!」
「く⋯くそっ!クララさん、なかなか手強いですねっ⋯!よし、次は総理大臣で攻めてやるっ!」
「え〜!?総理大臣?」
「日本で初めての本格的な政党内閣といえば?」
「原敬内閣!」
「そのひとつ前の内閣で、米騒動で退陣したのは?」
「寺内正毅内閣!」
「所得倍増計画といえば?」
「池田勇人!」
「ノーベル平和賞といえば?」
「佐藤栄作!」
「ロッキード事件!」
「田中角栄!」
「三公社民営化!」
「中曽根康弘!」
「1994年、自社さ連立政権!」
「村山富市!」
「ポマードでツヤツヤの髪といえば?」
「橋本龍太郎!」
「1998年の自民党総裁選。田中眞紀子は候補者を『凡人、軍人、変人』と評しましたが⋯」
「凡人は小渕恵三、 軍人は梶山静六、 変人は小泉純一郎!」
「す⋯すごい⋯!!このチョコレツィカさんの本には、こういう本筋から逸れた面白エピソードも書かれているんですけど、まさかそれまで全て覚えているとは⋯!!クララさん、もはや立派な"日本政治史マニア"じゃないですかっ!!」
「⋯ていうかアドリアン君!橋本龍太郎がポマードでツヤツヤとか、小泉純一郎が変人呼ばわりされたとか、そういうのは入試で出されないよ!?」
「えっ!?そうなんですか?僕、てっきり出されるのかと思って、さっき暗記用の単語帳の表に『ポマードでツヤツヤ』って書いて、裏面に『橋本龍太郎』って書いたんですけど⋯くそっ!無駄な労力だったかっ!」
「めちゃくちゃ無駄だよ!お前、まさか⋯表に『ネクタイが必ず水玉』って書いて、裏面に『海部俊樹』って書いたカードも作ったんじゃないだろうな!?」
酔っていたこともあり、クララはアドリアンを"お前"呼ばわりし始めましたが、アドリアンもダリアも、"距離が縮まった感じがして、嬉しい"と思っていました。
「うわっ⋯すみません、作っちゃいました⋯!もしかして、それも出題されないんですか!?」
「当たり前だよっ!!そういうのは、わたし⋯じゃなかった、チョコレツィカさんが " どうせ書くなら、読んで面白い本にしよう " と思って書いただけだよ、多分⋯!海部俊樹はとても立派な人だが、入試対策に限って言うなら、それを覚えるよりも93年の細川護熙内閣を覚えた方がいいよ!55年体制の終焉だから、めっちゃ重要なんだよ。⋯あと、お前のことは今日から『ポマード龍太郎』って呼ぶ」
「やめて下さいよ!!」
「『水玉トシキ』でも別にいいけど、誤解はしないでくれ。わたしは海部俊樹さんのことは本当にリスペクトしているんだ。橋龍だって、ダンディで格好いいぞ」
「それは分かりますけど、あだ名にする必要ないでしょ!!」
クララとアドリアンは政治・経済の話題で盛り上がっていましたが、ダリアは除け者にされたような状態に不満を感じていました。クララが止めるのも聞かず、自分でアドリアンを呼んだくせに、こんなことを言い出しました。
「ちょっとォ〜!!二人で楽しそうに盛り上がって、わたしを放置しないでよォ〜!わたしだって、ちゃんと覚えたんだからぁ〜!ナカジマ・イケンでしょ?護法の神様!」
「コジマだよ!!」
「そう⋯それ⋯!司法の独立を守り抜いた⋯キジマ・イケン!」
「コジマだよ!!」
日本の文化についても非常に詳しいクララは、突っ込みを入れながら、「あれ?こんな感じのネタをやる芸人さんが、日本にいたような気がする⋯」と思いました。




