第59話 デチェバルの直感
「みなさん、ありがとうございます。チョコレツィカさんが見つかるまで、きっと時間はかかると思います。何という名前なのかは分かりませんが、彼女は今、革命後に発足した新しい政府によって新しい戸籍を与えられて、彼女は今、チョコレツィカという名ではなく、別の名前で暮らしています。新政府の人達は、僕にそこまでは教えてくれました。普通に考えると、僕達は彼女に激しい恨みを持っていてもおかしくない立場ですから、チョコレツィカさんの新しい名前までは、教えてもらえませんでした。もちろん、僕は彼らが立場上言えないことを理解していますから、そのことを不満に思ったりはしていません。彼女の居場所を教えてくれないのも、当然なのです。それに、新政府の人達のほとんどは、彼女の新しい名前や居場所を本当に知らないんです。知っているのは、戸籍の管理に関わっている、ごく一部の人達だけです。その人達は守秘義務を負っているので、僕達に教えくれる可能性はありません」
デチェバルがそこまで話したところで、レオンテが口を開きました。
「あの⋯思ったんですけど、僕達がチョコレツィカさんを探していることを周りの人達に知られたら、復讐しようとしているって、勘違いされてしまうのでは⋯?」
デチェバルは頷きました。
「そうなんです。絶対にそう思われてしまう。もちろん、僕達のことを一番よく分かってくれている直属の担当者の人達はそんな誤解をしないと思いますが、分かっていない人達は、おそらく誤解してしまうでしょう。だから僕は目立たぬように、密かに探し続けるつもりです」
「なるほど⋯分かりました。僕も密かに協力したいんですけど、今のところ何か、手がかりになりそうな事はあるんですか?」
「ほとんどありませんが、チョコレツィカさんは面談のとき僕に、"自分は、行政機関に残ることは考えていない"とか、"チョコの国が民主主義の国として生まれ変わり軌道に乗ったら、わたしに残された仕事は君達を守っていくことだけだ""君達が社会人になった後も、出来れば定期的に連絡を取って、見守り続けたい。心配だから"とか、言っていました。そして"君達が社会人になったら、わたしは全ての行政機関と縁を切って、一人で静かな街で生きていこうと思っている。とにかく、家賃が一番安い街でな!わたしは有名人になってしまったので、普通に働いて生きていくのは難しい。偽名を使っていても、結局はバレてしまうだろう。もう、印税暮らしをするしかない。しかしデチェバル君!同情する必要は無いぞ。印税暮らしをしながら静かに詩集を読んで過ごすなんて最高じゃないか、ハハハ!"と言って、笑っていたんです。ちょっと強がっているような笑顔で、僕はなんだか切なくなりました」
デチェバルの言葉を聞いたレオンテは、身を乗り出して、こう言いました。
「えっ!それが本当なら、家賃が一番安い街を調べればいいんじゃないですか!?」
「ええ、僕もそう思って、調べてみたんです。でも、同じくらい家賃が安い街が、三つあるんですよ。全て東の方にある街ですが、チョコピアトラ、チョコフィエル、チョコデアルの三つです。この国で賃貸住宅の家賃が圧倒的に安いのは、この三つの街なんです。」
「チョコピアトラって、治安が悪いことで有名なところでしょ?あそこは避けるんじゃないかなあ。昼も夜も暴走族が走り回ってるって、聞いたことあるよ」
コドリナがそう言うと、デチェバルは再び頷きました。
「ええ、僕もそう思います。チョコレツィカさんは、雨の日にチョコロレンスの詩集を読みながらコーヒーを飲むのが好きだと言っていました。一人で静かに過ごすのが好きな人なんです。チョコピアトラは、無いと思います」
「チョコデアルって、どんなところだっけ?」
マリオアラがデチェバルに視線を向けて訊きました。
「チョコフィエルとチョコデアルは、どちらも過疎化が進んでいる街で、かなり寂れてしまっています。一人で静かに過ごすには、むしろ好都合なんですけどね。寂れ具合は同じくらいですが、僕はチョコフィエルの方が、チョコレツィカさんが住んでいる可能性は高いと思ってるんです」
「どうして?」
「僕は大学の夏季休暇を利用して両方の街に足を運んでみたのですが、チョコデアルよりチョコフィエルの方が、チョコレツィカさんがいるという"気配"を感じたんです。これはもう、直感的なものなので、皆さんにはなかなか信じてもらえないでしょうけど、僕はチョコフィエル駅で電車を降りたとき、確かに感じたんです。"あ、ここにチョコレツィカさんは、いる"って」
デチェバルの言葉を聞いたオティリア以外の三人は、互いに顔を見合わせて、怪訝そうな顔をしていました。しかしオティリアは、落ち着いた様子でこう言いました。
「わたしはそういう不思議な直感、信じていますよ。たまにあるんです。あの角を曲がったら猫がいるような気がする、と思って曲がったら、本当に猫がいたりとか」
コドリナは目を丸くして、
「え〜!?そんなこと、あるの?それ、曲がる前に鳴き声が聞こえてたっていうオチじゃないよね!?」
と訊きました。オティリアは、
「アハハ!違いますよ〜!そんなの、いるに決まってるじゃないですか!」
と言って笑いました。デチェバルは、時の流れが彼女達の心を少しずつ癒し、こうして笑顔を見せられるようになったことを、密かに嬉しく思いました。




