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第58話 デチェバルの懇願

※レオンテについて書くのを忘れていたため、57話を修正しました。ご容赦下さい。

 ルミニツァとそのような対話をした経験があったので、オティリアはデチェバルが"ラウンジ会議"の中で、チョコレツィカを探し出して励ましたいと言い出したときも、さして驚きはしませんでした。彼はオティリア達に向かって、こう言いました。

「みなさん、今日は集まってくれて、ありがとうございます。特にコドリナさんとマリオアラさん、お仕事でお疲れの中、貴重な休日のお時間を割いてくださり、ありがとうございます。今日、僕が皆さんに集まってもらったのは、どうしても、お願いしたいことがあるからなんです。それは、チョコレツィカさんのことです。皆さんもご存知だと思いますが、チョコレツィカさんは、僕達の父親を殺した人の、上司に当たる人です。なので、普通なら、僕達が彼女を励ますなんて、あり得ないことです。でも、僕達の父親は、普通の人達ではなかった。それは皆さんも、分かっておられることだと思います。僕達のお父さんは、たくさん人を殺していた。直接、銃を撃ったりしていなかったとしても、多くの人達の殺害に深く関与していたのです。僕は、それをきちんと受け止めなければいけないと考えています。僕はお父さんに優しくされた経験があまり無いので、受け止めるのは比較的、難しくありません。でも、皆さんの中に、お父さんに優しくされていた人がいるとしたら、受け止めるのは僕の何倍も難しいと思います。心が張り裂けるような痛みを感じるだろうと、思います。だけど、それでも僕達はやっぱり、父親が罪人であることを、受け止めなければいけないと思うんです。背負うのと、受け止めるのは違います。僕達は、父親の罪を背負う必要はありません。世の中には、父親と僕達を同一視して、僕達に憎しみや怒りを向けてくる人達もいます。でも、僕達は父親を選んで生まれてきたわけじゃありません。偶然、独裁者や、独裁国家の閣僚の子供として生まれてきただけ。それが、僕達なんです。では、チョコレツィカさんはどうか?彼女の両親は、僕達の父親による圧政の中で収容所に入れられ、亡くなっています。殺されたも同然ですし、殺したのは誰かと言えば、僕達の父親です。彼女は、多くの人達が収容所に送られ、殺され続ける日々に終止符を打つためにブラックハウス爆破計画を立て、直前になって部下が先に実行したのです。彼女は多くの人達を救いました。それだけでなく、自分の両親を殺した人の息子である、この僕にも、誰よりも優しく接してくれたのです。彼女は本気で僕達を守ろうとしていた。しかし、あまりにも本気だったせいで、子供から父親を奪ったという事実に耐え切れず、心が壊れてしまったのです。この国で革命が起きた後、僕達は市民によって殺されていてもおかしくなかった。しかし、すぐにこの別荘へ移送され、万全の態勢で保護され、今まで生きてこられたのです。全ては、チョコレツィカさんが決めて実行したことです。僕達をそこまでして守ってくれた人が、今でも心を痛めて苦しんでいるかも知れないのに、何もせずに呑気に生きていて、本当に良いのでしょうか?僕は、どうしても良いとは思えないのです。彼女を救えるのは、僕達しかいないんです。僕達が、"もう気にしなくていいですよ"と声をかけることでしか、彼女は救えないのです。皆さん、お願いです。僕は、必ず彼女を探し出してみせます。もし見つかったら、僕と一緒に彼女に会って、優しく声をかけてあげてくれませんか?お願いします!お願いします⋯!」

 デチェバルは両手の指を真っ直ぐ揃え、両腕を身体の側面にぴったりと付けて、深々とお辞儀をしました。そして頭を上げることなく、そのまま静止していました。

 最初に口を開いたのは、オティリアでした。

「わたしは、いいですよ。わたしも、チョコレツィカさんに会いたいと思っていたんです」

 デチェバルはとても驚きました。説得が一番難しいと予想していたのがオティリアだったからです。

「えっ⋯ほ、本当に、いいの?」

「はい。本当です」

 オティリアはとても真剣な目をしていました。

「み⋯皆さんはどうでしょうか⋯?」

 デチェバルは緊張した表情で、レオンテ、コドリナ、マリオアラの三人に視線を向けました。

「僕は全然、構いませんよ。僕は初めて会ったときから、あの人のことは尊敬していますから」

 レオンテは微笑みながら答えました。

 コドリナとマリオアラはお互いの顔を見てから、

「わたしも⋯別にいいけど」

「わたしも⋯」

 と答えました。彼女達も、チョコレツィカが自分達を守るためにどれだけ必死になっていたか、革命後の六年の間に様々な話を聞いて知っていたため、デチェバルに反発することはありませんでした。

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