第53話 追憶の箱 2
"あっ…!!チョコアデバルの字だ!懐かしい…!"
白い封筒の中から取り出した便箋を埋め尽くしている手書きの文字を見たクララはすぐに、それがチョコアデバルによって書かれたものだと分かりました。
『 チョコレツィカさんへ
チョコレツィカさん、お久しぶりです。肌寒さを感じる季節になってきましたね。体調の方は、いかがですか?私はそれを一番、心配しています。まさか、煙草なんて吸っていないでしょうね?』
クララはギクリとして、思わず視線を灰皿の上の煙草に向けました。
『お酒も飲み過ぎちゃダメですよ?』
クララは再びギクリとして、今度は視線を卓上のウイスキーボトルに向けました。それはジャックチョコダニエルというお気に入りのウイスキーで、クララは"う〜、暑い!こういうときは、ジャックチョコダニエルの水割りだよな!"と夏場は麦茶代わりに飲み、冬は"寒いっ!!こういうときは、ジャックチョコダニエルのお湯割りに限る!"と、熱いお茶の代わりに飲み、春や秋は、"う〜む、暑くも寒くも無い!!こういうときこそ、ゆったりとした気分でジャックチョコダニエルを味わえる!"と言いながら飲んでいました。ようするに、一年中飲んでいたのです。
『今はもうクララ・モルナールというお名前で暮らしておられると思いますが、私の中ではやはりチョコレツィカさんなので、あえて"チョコレツィカさんへ"と書くことを、どうかお許し下さい。
チョコレツィカさんは転居先を誰にも言わず、去ってしまいましたよね。あなたのことですから、既に察しておられると思いますが、私はレジスタンスとして活動していた頃の仲間の協力を得て、あなたの住所を調べました。本当にすみません。どうしても、お届けしたい物があったものですから。
実は先日、旧警察庁庁舎にあるチョコクラージュさんの執務室や、彼が暮らしていた公務員宿舎の部屋に遺された遺品について、今の政府の関係者から「そろそろ整理したいので、協力してくれないか」と連絡を受けました。私だけでなく、チョコクラージュさんの育ての親であるサジェアタ夫妻にも同様の連絡がなされ、私とサジェアタ夫妻は、誰に何を分けるのが最善か話し合いながら、形見分けを行いました。執務室や公務員宿舎の部屋に残されていた遺品だけではなく、チョコクラージュさんが中学生のときから社会に出るまで暮らしておられた、サジェアタ夫妻のご自宅に残されていた遺品も併せ、形見分けを行ったのです。同梱させて頂いたサッカーの表彰盾は、まさにそれです。
チョコクラージュさんは「俺とチョコレツィカは、幼稚園のときから友達なんだ。幼稚園のときから一緒にサッカーをしていたんだぜ?凄いだろ?」と私に言って、チョコレツィカさんとの思い出をよく私に話しておられました。それゆえ私はサジェアタ夫妻のご自宅で表彰盾を目にしたとき、すぐに「これは絶対に、チョコレツィカさんの手元にいくべき品だ!」と思ったのです。それと、これが一番大事なことなのですが、彼が執務室で使用していたデスクの鍵付きの引き出しの中から、チョコレツィカさん宛のお手紙が見つかりました。鍵はチョコクラージュさんしか持っておらず、どこにあるのか分からなかったので、鍵の専門業者に依頼をして、解錠してもらったのです。そのお手紙も、同梱させて頂きます。
チョコレツィカさん。かつてあなたとともに仕事をしていた人達は、みんな、あなたに会いたがっています。私も、もちろん同じです。すぐにとは言いません。ゆっくり、お心とお身体を休ませて、"そろそろ、会ってもいいかな"というお気持ちになられましたら、ご連絡を下さい。変えていないのでご存知かと思いますが、私の携帯の番号を記しておきます。
それでは、くれぐれもご自愛下さい。
チョコアデバル・バラル
090-☓☓☓☓-☓☓☓☓』




